見出し画像

【2900字】男子宝石【毎週ショートショートnote参加作品】

「だ・ん・し・ほ・う・せ・き」

「うーん!ダイイングメッセージか?」
小籠包蒸探偵はうなった。
小籠(ショーロン)包蒸(ポームス)探偵は一回も事件を解決したことがない名探偵としてある界隈では名をはせていた。そんなことが可能なのか?大丈夫だ!この世の中では一回も当てたことがなくても予言者が名乗れるのだ。ましてや名刺の肩書を名探偵とするなんてかわいいものだ。おまけに何の依頼もされていないのにやたら事件に首をつっこもうとするのも彼の悪い癖だ。

「時にワットサン君!事件のあらましを教えてくれないか?」
ワットサンと呼ばれた私は名前の訂正をするのに疲れてしまっていた。私には小林壮念という立派な名前がある。だがここ数年は彼からそのきちんとした名前で呼ばれたことはまずなかった。

どうやら私のメッセージの文末に添えたwwwを私の署名と勘違いしたようだった。いや、いくえにも意味を取り違えていたが絶対にわざと間違えたに違いなかった。おまけに私がやっきになって呼び方を訂正するもんだからなお面白がって私のことをワットサンと呼び続けた。ここまでいくと嫌がらせだ。最近は私もあきらめ気味だった。

言い忘れたが私はかつて明智小次郎という名探偵の助手をしていたこともある。今や流れに流れて助手兼事件の記録係として趣味でポームス探偵を手伝っている。別にオチたわけではないぞ。

私はポームスに言った。
「資産家の紳士が絶命するときに発したのがこの文言だ。死因は毒殺らしい。全部新聞に書いてあるんだが読んでないのか?」
「新聞はあてにならんからな。記事の内容が信じられんのだ。今や一番信用に足りるのがスポーツ新聞だけだ。真実はここにしかない!」

「うーん・・・」
ポームス探偵は目を閉じて長考に入った。
「えっもう推理してるのか?」
探偵は片目を開けてワットサンに語った。
「君、アームチェアディテクティブを知らんのか?安楽椅子探偵だよ。椅子に座っているだけで事件を解決に導く特技の持ち主のことだ。この私のように・・・つまり椅子に座った瞬間からもう推理がはじまっているのだ」

「だからといってこれだけの情報で推理なんかできるのか?」
ポームス探偵はそれには答えずひたすら推理に没頭していうように見えた。最初は微動だにしなかったが、そのうち頭を垂れてさらに深いところに降りて行ったようだった。

「うっうう・・・」
ポームス探偵が呻きだした。歯を食いしばって、ひじ掛けを両の腕で力いっぱい押しているように見える。両方の足は踏ん張っているのかぶるぶる震えだした。
「おい、ポームス大丈夫か?いったいどうしたっていうんだ?」
彼はまたもやそれに答えない。
「むむむむむむ・・・・・むむむむむむ」
苦しんでいるよりは何か辛そうだった。2~3分ぐらいだろうか、しばらくその状態が続いた。

「がっ!」
突然彼は眼を見開いた。
「はあ、はあ、はあ。はあ。はあ。はあ」
急に息ができるようになったみたいだった。
「一体どうしたっていうんだ?どこか具合が悪いのか?」

「はあ、はあ、はあ・・・・死ぬかと思った・・・なんてひどい金縛りなんだ!」


「なんだ寝てたのか」
「ただ寝ていたわけではないぞ!解決の糸口がわかった」

「普通ダイイングメッセージといえば絶命するときに、血かなにかで壁や床などに書くのが一般的だよな。そしてそのメッセージの多くは自分を殺そうとした犯人を告げるのが目的だ。しかも犯人がそのメッセージを目にするかもしれないので暗号であることが多い」

ポームスは続けた。
「ところで今回のメッセージはガイ者が書いたのではなく、最後に発した一言のことだよな。これを聞き取ったのはご子息だっけ」
「そうだ。たしか莫大な遺産の相続人に指定されていたため、犯行が疑われたが真っ先に容疑者からはずされている。使われたのはトリカブトの毒のアコニチンだったそうだ。20分程度の即効性のある毒で、たまたま帰宅したご子息がその最後に居合わせただけでそれ以前のアリバイは完璧だった」

ポームスは続けた。
「そうか。ではメッセージというのはそのご子息に容易に気付かれることなくかつ犯人を特定できるものでなくてはならないな。そして犯人を特定するためにはメッセージの聞き間違えが無い限り〝だんしほうせき〟を何かに読み替える必要があると考えるのが自然だ」

さらにポームスは続けた。
「そこで思いついたのだが『だんしほうせき』はそのまま『男子宝石』ではなく、ずばり『ナンシー狼藉』とすべきなのではないか」
「〝なんしーろうぜき〟だって!その根拠は?」

ポームスは淡々と回答した。
「そんなものあるわけないじゃないか。勘だよ。いやもっと言えばさっきの金縛りのときに頭のなかに閃いたんだ。神が降ろしたとしか思えないオヤジギャグみたいなものだ」
根拠にはまるで説得力がなかったがその過程は納得のいくものだった。たしかにオヤジギャグの例えを出されれば私にも覚えがある。

そういえば以前そのテーマに関する論考を読んだことがある。ちなみにこれを書いている同じ筆者の『全力で推したいオヤジギャグ』だった。未読の方がいたら是非読まれたし。

「ナンシー狼藉をどのように解釈するんだ?」
「それは僕にもわからんが多分ナンシーが犯人だ。ワットサン君!ナンシーで何を連想する?」
「アメリカ民主党の妖怪みたいな女性下院議員のナンシー・ペロシ。うるさいバイクおじさんを指す『そのバイク何cc?』を連発するナンシー族。ナンシー革命で有名なフランスのナンシー地方」

「ワットサン君、ガイ者はたしか還暦だったよな。その世代のナンシーといったら伝説の消しゴム版画家の『ナンシー関』かこれしかないんだ、早見優の『夏色のナンシー』さ。私は後者の方が怪しいとみている」
「ああ80年代のアイドルか。いまも健在で一定のファンがいるらしいね。その曲の歌詞に秘密があるのか?」
「いや、もっと単純だ」
「警察に通報しなくていいのか」
「勘で犯人にたどり着きましたって言えるか?ただでさえ私が電話すると〝またお前か!〟といわれて、てんで相手にされないんだ」

翌日の新聞に、犯人逮捕の記事が出ていた。容疑者は熟女クラブのホステスで、店では「早見優」という源氏名だった。そしてご子息の浮気相手でもあった。妻と別れて結婚すると言われていたらしい。同時にご子息が莫大な遺産の相続者ということを知って犯行に及んだと言う話だ。おまけに親子ともども同じ高級クラブに通い詰めていてなんとこのホステスもともとはガイ者の資産家の愛人だったらしい。

「おいパウムス!」
「なんだ?人の名前はきちんと呼ぶものだぞ!」
〝お前が言うか?〟

私はこの時とばかりにイジってやった。
「ふつう本場では小籠包はシャオロンバオだろ!あっ、だからバオムスが正解か・・・おいバオムス!」
「だからきちんとポームスと呼べって!」

「今回も見事だったな!」

ちなみに警察はダイイングメッセージを手がかりにしたのではなく、れっきとした科学捜査をもとに容疑者を特定したのだった。

一回も事件を解決したことがない名探偵とはこのことだった。


たらはかに様の毎週ショート&ショートnoteに参加しました!











この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?