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ちょっと変わった田舎暮らし、はじめます。#11 おさんぽ

リュックの中にサンドイッチの入ったタッパーと、銀マットと、ボトルに入れた水を詰め込んだ。暖かいとはいえ風が冷たいので、薄手のシェルジャケットを羽織ってリュックを背負った。

ごろうちゃんにも何か着せてあげた方がいいのかな。

「ごろうちゃん何か着る?」
「あったかいの!」

多分、ダウンベストのことだろうけど、ごろうちゃんの背丈にしては長すぎるのでいったん却下にした。代わりに大きめのマフラーで上着っぽくアレンジして羽織らせてあげた。ごろうちゃんと玄関に向かって、靴を履いた。

「じゃあ、いこっか!」
「うん!」

春の陽気の中、お花見をしにお散歩へ。ちいさな熊と一緒に。

—おさんぽ—

家の玄関を出て、左に曲がって道なりに行くと川沿いの道に出る。川沿いの道は大通りからは外れた道で、車もあまり通らないから安全。今回の目的は、この川沿いを進んで北に向かうとある並木とそこから少し東にある神社の桜を見に行くこと。場所は地図で確認したけど、実際に行ったことのない場所だからちょくちょくスマホで確認しないと迷ってしまいそうだ。

「えっと、あそこに見えてる橋を渡って、そのまま川沿いに進んで、」

スマホの中に移っている地図を見ながら歩いていると、視界に白い帯状のものが腰にぶつかった。驚いてスマホから目の前へと視線を変えると、腰にぶつかったのはガードレールだった。

まあ、自分からぶつかりにいったんだけど。
「スマホ、しまっとこ。」

ある程度道はわかった。あとは景色を見ながら、ごろうちゃんを見ながら行こう。私がガードレールにぶつかってもごろうちゃんは特に気にしていない様子だった。なんだか私よりもここの道を歩き慣れている。ポカポカ暖かい日差しの中、ごろうちゃんは行進するみたいに歩いていた。

「ふふっかわい。」

こういう何でもない日が一番幸せだってことを、ごろうちゃんは教えてくれてるのかもしれない。

本人はそんなつもりないだろうけど。

橋を渡って、対岸に沿うようにして北へ向かった。こっちの道はアスファルトじゃなくて、芝生で出来ているような道だった。ずっと固い地面を歩くのはごろうちゃんも疲れるだろし、少しふかふかの草の上を歩く方が楽しいだろうし。

早速ごろうちゃんは、草の上を走り始めた。もう見慣れてきたけど、二足歩行で。私も少し駆け足になりながらついていく。

「最近運動できてなかったし、ちょうどいいかな」

そう思っていた矢先に、ごろうちゃんが少し先で立ち止まった。何やら足元を見ているような体勢で。近づいてみてみると、タンポポがぽつりと咲いていた。風に揺られて首をかしげるタンポポをごろうちゃんはつんつんと触っていた。

「お花、すき?」
「うん!ちいさくて、すき!」
「そっか~」

ごろうちゃんと会話していると、顔がほころんでしまう。ごろうちゃんとタンポポが可愛かったので、写真を撮っておいた。家に帰ったらホーム画面の壁紙にしよう。

タンポポとお別れして、2,3分歩いていると少しずつ桜の木が増え始めた。そこからが、川沿いの並木のスタートだ。少し大きめの川なので、土手はコンクリートで整備されている。その土手の上には菜の花もたくさん咲いていて、桜の色と菜の花の色で春色を演出してくれている。ほのかに花の香が風と一緒に過ぎていくこの並木は、名川町でも人気の写真スポットらしい。

「もう散り始めて桜が少ないかと思ってたけど、咲いててよかった~」

名川町でも中部から北部では気温が少し低い様だった。そのおかげで桜の開花時期も少し遅れてるのかもしれない。綺麗に咲いている桜を見て、ごろうちゃんもさっきよりルンルンで走り始めた。

「まて~」
「わ~」

ごろうちゃんは両手を上げて逃げる。私は小走りで追いかける。ごろうちゃんのいる日常は、ちょっと変わってるけど何かと楽しい。あの時、仕事を辞めて名川町に来てよかったのかもしれない。なぜかそう思えてきた。

今歩いている並木道は、川沿いに曲がりながら3㎞にわたって続いている。その中間あたりに目的地にしている神社がある。その神社の横に小さい広場があるらしく、そこでリュックに入れてきたサンドイッチを食べるつもり。

「そろそろ中間ぐらいかな。」
少し先に橋が架かっているのが見えた。橋の先には石でできた鳥居あるのがわかる。

「反対にあるとは思わなかったな。」
その橋を渡りながら、川の水面を見ると透き通っていた。てっきり道沿いに石段があって神社があるのをイメージしてたけど、橋が架かって対岸にあるとは想像もしていなかった。それに思っていたよりも大きめのお社だった。

「ごろうちゃん、お参りしてからサンドイッチ食べよっか」
「おまいり?」
「うん。神様に挨拶するの」
「あいさつする!」

ごろうちゃんと一緒に鳥居の前で一礼して、本殿の方に向かった。本殿の前でも一礼していると、ごろうちゃんも私の方をちらちら見ながら真似をしてちゃんと一礼していた。ごろうちゃんにも5円玉を渡して一緒にお賽銭を入れて、鈴緒を鳴らした。

「二回お辞儀をして、二回手をパンパンって鳴らすんだよ」
「わかった!」

二人で一緒に神様に挨拶をして、一礼したあと横の広場へ向かった。

広場には何本か桜の木があった。その中でもとりわけ大きい桜の木の近くでサンドイッチを食べることにした。リュックの中から持ってきていた銀マットを取り出して平らな場所に敷いた。銀マットだと少し不格好だけど、地面の冷たさは防ぐことができるからいいかな。

銀マットを敷いて準備していると、ごろうちゃんが真っ先に座って私の方を見て笑っていた。どうやらご機嫌らしい。私もごろうちゃんの横に座って、リュックの中からタッパーを取り出した。

タッパーの中には当然、作ってきたサンドイッチが入っている。二人で食べるけど、ごろうちゃんは家を出る前に一口つまみ食いをしているので、3つだけ持ってきた。

タッパーのフタを開けて、サンドイッチを1つずつ持って、
「いただきます」
「いただきます」

二人でサンドイッチを食べながら上を見上げると、ピンク色の桜の花が空を埋め尽くしているようだった。

時折、花弁が風に乗ってどこかに行くのをごろうちゃんが目で追っている。

何でもない一日。なんでもない時間。でもどこか特別な気がした。

「来年は遠くに見に行こっか。」

ここでも十分に綺麗だけど、遠くに行けばもっと綺麗な景色が見れたのかなとつぶやく私の横に座っているごろうちゃんの鼻が私の方を向いていた。

家につく頃には夕方の5時になってるかな。
ちょっと早いけど帰ったらお風呂に入ろう。

あとがき

春になるとついお花見をしたくなるのはなぜなのでしょうか。
少し暖かいとなんだかやる気が出てきますよね。
最近はやる気がなくても、何でもない一日でも、楽しく過ごせるように読書をしています。
これを読んでいるあなたの一日にちょっとでも幸せが届いてくれると、私くちなしは嬉しいです。

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梔子。

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