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森優貴作・演出 「The Lake」  新制作白鳥の湖 兵庫県立芸術文化センター中ホール


宝塚のワークショップ「Stella Voice」で森優貴氏が担当したコンテンポラリーの場面がとても印象的だったので、鑑賞してきた。

事前情報やプログラムでは、家族と死者を巡るかなりスピリチュアルなストーリーだと感じたので(エヴァンゲリオンぽいかなと・・)、その手は少し苦手なので二の足を踏んだのも事実だけれど、ベースは白鳥の湖だからそこまで取り残されることはないだろうと。
実際の舞台は、振付に引きつけられる力があり、装置・衣装・照明・場面構成・音楽と、舞台芸術としてとても見応えがあった。

湖から立ち昇る霧のような人の魂が、白鳥になぞらえているように見えるのも美しいと感じた。白鳥の首を表す有名なポーズが何度も出現する。原版よりもアダム・クーパーのスワンレイクを連想した。
人々が集う湖畔の部屋の場面は、ヨーロッパの映画のような趣の舞台装置。照明とのコラボで絵になるカットが次々現れる。集合と離散のリズムが明確で、人の孤独の風景を作る。
一幕の幕切れはドラマティックで素晴らしかった。宝塚のスター登場や歌舞伎の「見得切り」に通じるような、ダンサーの空間を拡げる魅せ方だった。

二幕は振付の力が存分に生かされた構成。言葉にすると抽象的に極まるストーリーだけど、踊りという表現が、言葉では捉えられない意識にアクセスしてくる。ストーリーを踊りで表現したというよりも、この身体表現をストーリーで表すと、スピリチュアルなものになるしかないのかもしれない。群舞の柔らかい力強さ。全体的に女性的なたおやかさを感じる踊り。二人組の踊りも、男女だけではない組み合わせが、原版の白鳥の湖との対比を想起させる。男女のロマンチックラブに留まらない、様々な関係性が、融合と分裂を繰り返す踊りは、湖の細胞のよう。
装置としての映像は、趣味の分かれるところ。ドラマの転換点はやはり踊りで見たい。
舞台を一直線に貫く照明が鮮やかだった。

貞松・浜田バレエ団及びゲストのダンサーは、真摯に誠実にこの作品に向き合ったのだと分かる。それが舞台全体の柔らかい力強さを生み出していたと思う。ここにスターダンサーが紛れ込んでいたら・・という想像は、この充実した舞台には蛇足である気はする。

音楽は「白鳥の湖」以外の曲も印象的に使用されていたということは明記しつつ、やはりチャイコフスキーの曲の力は、この原版とは全く違うストーリーにおいても全面的なテーマ曲になることを可能にしていた。甘美な愛の物語が、魂を悼む物語へと変貌しても尚、その踊りを通して心震わす旋律となっていた。


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