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アーケイドファイア ”ネイバーフッド” について

僕がロックを聴き始めたのは、たしか2007年の春ごろ。スカパーの音楽番組でみたThe ViewやMy Chemical Romanceにハマって、そのあとArctic Monkeys、The Strokes、The Libertines、The White Stripesなどの00年代ロックを聴いてきた。 僕はいま20代だから、00年代にデビューしたバンドに親近感をもっているんだと思う。それで、その流れにもれてしまって聴き逃していた00年代バンド、Arcade Fireを最近になって聴き始めました。今日は彼らの曲について書こうと思います。

最近、昔のことが懐かしくなって、もどかしさや不安を感じることがある。それで、「あぁ青春時代・子ども時代が終わったんだなぁ」と思い、”そういう感じ”を言語化したものを読みたくなりました。それで『グレート・ギャツビー』やArctic Monkeysの”Fluorescent Adolesbent”の歌詞とかを読んで、その痛みに向き合っていたら、そのせいで「夢の喪失」という人類普遍のテーマに取り憑かれてしまいました。そこから「夢の喪失」つながりで、Arcade Fireの3rdアルバム『サバーブス』を聴き始めました。また、雑誌のArcade Fireの記事を読むと、このバンドは「喪失」を一貫したテーマとしている、みたいなことが書かれていたので、3rd以外にも手を伸ばしてみようと思い、Amazonで中古の1st『フューネラル』をポチってみました。それで歌詞を読んでみましたが、やっぱり評判通り良い詩だったので、その中から”ネイバーフッド”という曲の歌詞を紹介したいと思います。

”ネイバーフッド”は4曲あって、それぞれネイバーフッド#1(タネルズ)・ネイバーフッド#2(ライカ)・ネイバーフッド#3(パワーアウト)・ネイバーフッド#4(ケトルズ)というタイトルがついています。それらの歌詞を読んでみたところ、「家族や友達とのつながりを忘れてしまうこと」や「夢や希望の喪失」をテーマに歌っているようです。今回はそのなかから、”タネルズ”と”ライカ”の詩について書きます。
(”パワーアウト”や”ケトルズ”、”ネイバーフッド”以外の”ウェイクアップ”、”ハイチ”、”リベリオン”についても近いうちに書きたいと思います)
それでは、”タネルズ”の歌詞を見ていきましょう。

”タネルズ”

彼らは髪の毛を長く伸ばして
かつて知っていたことを、みんな忘れてしまおう
やがて僕らの肌は分厚くなっていくだろう
雪の中で暮らしているうちに

忘れてしまっているんだ、名前などみんな
かつては知っていたはずの名前を
たまに思い出すのは
僕らの寝室とか、両親の寝室とか、友達の寝室とか

「髪の毛を長く伸ばして」という表現は3rd収録の”サバーバン・ウォー”でも使われていましたが、これは青春時代や子どもの頃、夢を見ていた頃の喩えだと思います。大人になって社会に出る頃には髪は短く切ってあるけど、その前は髪が伸ばしっぱなしでしたよね。「かつて知っていたことを、みんな忘れてしまおう」というように、髪を伸ばしているような青春の時期には、まだ学校に行かないくらい子どもだった時の気持ちは忘れていると思います。たとえば、両親とか友達と一緒にいるだけで満たされていたこととか。その”満たされた感じ”が、「両親の寝室とか、友達の寝室とか」という部分で表現されていますよね。そして、雪の中で暮らすうちに肌が分厚くなっていく、というように、青春時代に冷たく現実を見る視点を持ってからは、子どものときの”満たされた感じ”を忘れて、「肌が分厚くなって」何も感じないようになる。”タネルズ”は、このように青春時代以前の子ども時代の喪失を表した曲だと思います。音的には、クラシックなピアノや弦楽器の美しく無邪気な演奏で、ヴォーカルは子どもが泣き出すときみたいに震える声で歌っているので、歌詞の感じがそのまま音になったようで、琴線に触れる感じですね。
次は”ライカ”の詩を見ていきましょう。これも”タネルズ”とだいたい同じことを言っていますが、もっとシンプルでストレートな詩です。

”ライカ”

アレキサンダー、僕らの兄貴
大冒険に乗り出した
手持ちの写真の中の、僕らの姿を破り捨て
手元の手紙の中の、僕らの名前をみんな消してしまった

うちの兄貴は吸血鬼に噛まれてしまった!
1年かけて僕らは、コップに彼の涙を溜めた
これからそれを、彼に飲ませてやろう

これは、兄貴のアレキサンダーが青春時代という大冒険に突入して、子どもの頃の気持ちを忘れてしまう、という話です。写真や手紙などの昔の記憶のなかから「僕ら」を消してしまうことは、兄弟が仲が良かった子ども時代の気持ちを忘れてしまう、ということだと思います。そんな兄貴を「吸血鬼に噛まれてしまった」、つまり、人間の血を失った冷たいやつになってしまった、と言っています。だから、兄貴の1年間分の悲しみが詰まった涙を飲ませ、子どもの頃の暖かい気持ちや感情を取り戻してあげようとしているのです。

この2曲で表現されているのは、青春時代や大人になるときに失ってしまう、子どもの頃の”満たされた感じ”だと思います。”満たされた感じ”というのは、親や兄弟、友だちなどと繋がっているだけで感じる暖かい気持ちのことです。アーケイドファイアは、その感じを詩で表現したうえで、聴き手にそれを取り戻してほしいと思い、この”ネイバーフッド”を作ったのではないかと思います(”ネイバーフッド”というタイトルは”近所”という意味なので、この言葉だけでも子どもの頃を思い出してしまいますよね)。そして、この暖かい”満たされた感じ”を思い出すのは、いつの時代にも必要なのではないかと思います。最後に、”タネルズ”の歌詞の最後の部分を挙げておわります。

色彩を清めて、僕の気持ちを清めて


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