吾妻英二

吾妻英二

最近の記事

【号泣必至】 『桜のような僕の恋人』 書評

 この小説を読み終わって、涙が出た。  元々、「泣ける」「感動間違いなし」等が謳い文句のフィクションに対して、良いイメージを持っていなかった。所詮は作られたストーリー。実際になかった出来事。だから、この小説を手にとった時も、大した期待がなかったというのが正直なところである。  主人公の朝倉晴人は、カメラマンを目指して上京するも、志半ばで諦め、レンタルビデオショップでアルバイトをして生活していた。  そんな彼が足繁く通うのは、美容室・ペニーレイン。そこで働く美容師の有明美

    • パウロ・コエーリョ『アルケミスト』から得た教訓

       『アルケミスト』は、羊飼いの少年がピラミッドを目指して旅をする物語である。旅の途中で様々な人や出来事と出会い、教訓を得ることで、少年は成長していく。  本記事では、この物語の筋にフォーカスを当てるというより、そこからどのような考え・思想を私自身が読み取ったかについて記したい。  この物語では、まず多くの人が信じてしまっている「世界最大の嘘」を定義する。それは何か。「人は人生のある時点で、自分に起こってくることをコントロールできなくなり、宿命によって人生を支配されてしまう

      • 【書評】 くりぃむしちゅー上田 『経験 この10年くらいのこと』

         改めて説明する必要もないかもしれない。くりぃむしちゅー上田晋也は、もはや知らない人はいない、日本を代表する芸人である。その活躍の幅は分野の枠を超え、バラエティの司会に留まらず、スポーツ番組や政治番組のキャスターにまで及んでいる。  あなたは上田晋也の魅力を何だと考えているだろうか。「しゃべくり007」「ミラクルナイン」などにおける司会術・回す力を思い浮かべる人は多いだろう。「おしゃれイズム」におけるゲストの話を引き出す"傾聴力"を挙げる人もいるかもしれない。あるいは、一昔

        • 【書評】 伊坂幸太郎『首折り男のための協奏曲』

          作品の概要 『首折り男のための協奏曲』は、伊坂幸太郎が書いた短編集である。  伊坂幸太郎は、日本のミステリー作家の中でもかなり有名な方だと思う。特に若い人の間で広く浸透していて、大学生辺りならば、どんなに小説に疎い人でもその名前ぐらいなら知っているだろう。私の周りでも、彼の作品のファンを自称する人は少なくない。  この作品は、伊坂幸太郎が発表した短編の一つ一つを集めたものである。ただし、短編のそれぞれが完全に独立しているわけでない。ある物語に出てきた人物が別の物語に登場し

        【号泣必至】 『桜のような僕の恋人』 書評