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美容整形をとどまった理由。


麗子のコンプレックスは顔のほくろ。それは小鼻の横にある、黒くて少し盛り上がっていて、つやのある、生きぼくろだ。占いによると異性にモテるらしいけれど、今の、今までそんなことまったくなかった。

同じほくろでもマリリンモンロ―のように口元にポツンとあったら、セクシーでモテていたのかもしれない。


麗子のコンプレックスはもう一つある。

母ゆずりの一重。

麗子が学生のころは絶対的に二重が良いとされていた。二重の子は=かわいい、綺麗というのが暗黙の了解。一重の友達はアイプチを使って二重にしていた。

もちろん、麗子も。

けれど、今は一重も人気らしい。黒木華、多部未華子、黒木メイサ。みんな一重とは感じさせないクールビューティーだ。

時代は変わったなぁ。

けれど、麗子の目は一重というだけでなく一重に輪をかけて腫れている。

まぶたが重い。

平安時代に生まれていたら、持て顔だったのに。


でも、コンプレックスのせいで性格が暗かったり、友達がいなかったわけではなく、面白いことを言って笑わせるタイプの学生だった。この明るさは母親ゆずりだと思っている。

普段は忘れている自分の顔を月に一回ぐらい、思い出す。『あー私にはほくろがあるんだ、まぶたが重い』そんな時、頭に浮かぶのは美容整形の広告。雑誌、看板、テレビコマーシャルから手術してきれいな二重になった女性が麗子を見つめている。


社会人3年目。

貯めた。

二重まぶたの為に貯めた。

アイプチともサヨナラだ。


ネットで病院の口コミを見ていた時、スマホからお気に入りの曲が流れた。

母が亡くなったと、電話口で話す姉。突然すぎて何も感じられなかった。葬式もこのご時世、家族だけで静かに見送った。



あれから半年すぎて、桜が咲く季節になった。新しい始まりの季節に心がざわざわするのは、自分だけ取り残された気分になるから。

だから、自分は大丈夫と魔法をかけながら過ごしていた。そしてある日とうとう魔法が解けた。魔法の力は12時まで。

感じていなかった悲しみが突然湧き上がってきた。1週間に1回は声をあげて泣いてしまうのだ。もう母に会えないという事実が心の中に落ちてきた。何もやる気が起きない。何とか仕事には行っていたけれど休みの日は布団から出られない。

鬱だ。自分を変えたい、唯一、その気力だけは残っていたのが不思議。

二重にしたら変わるかもしれない。安易な考えに笑ってしまう。笑う気力が残っていた自分に驚いてしまう。けれど、もともとそのためにお金もためていたのだ。むしろ良い機会だと思った。

麗子は鉛が入っているような重い脚を引きずって、鏡を手に取った。

そこにいたのは、母だった。

一重で腫れぼったい麗子の目は母の遺伝子。


もう会えないと思っていたけれど、母は私の中で生きている。

母はこの目で生きてきた。

強く生き抜いてきた。

その血が私にも流れている。

私も母のように生きていけるかもしれない。


時代が変われば美の基準も変わってしまう。

それほど価値感というのは、不確かなものなのかもしれない。

誰かが決めた価値観で、自分の価値を決めてしまうなんて。

自分のコンプレクッスは、自分だけが感じているのかもしれない。


私も母のように生き抜こう。

今のままの私で。









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