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【ネタバレなし】読む前の自分には戻れない一冊

『正欲』(新潮社)朝井リョウ

読み終わったときに考えたことは、「世の中には知らないほうが幸せなことがある」。最近、見ていたドラマでも似たようなことを言っていた。「知らなければ良かった」「知らずに生きていれば幸せだった」と、どこかで誰かが悔やんでいた言葉も浮かんでくる。この本を読んだら最後、読む前には戻れない。


映画化が決定した記事を見て、読み始めたミーハーな私。今まで「朝井リョウ」の小説は、映画を見てから気になって読んでいた。今回はなぜか映画よりも小説を読みたいと思うほど、「正欲」というタイトルが引っかかってしまった。

家事の合間に数ページずつ読み進めていく予定だったが、無理だった。数ページ読んだだけでは全く理解ができず、気になって先を読みたくなる。結局、家事を全て終わらせた後、一気に読み切ってしまった。

「読む前の自分には戻れない」と確信した。でも、読んで後悔はしていない。この本を読まないと分からないこともある。

「みんな違ってみんないい」「十人十色」「三者三様」「蓼食う虫も好き好き」、人間はそれぞれ違うと言っているのに、その違いを認めないのが人間。自分も誰かの違いを認めているつもりで、傷つけているかもしれないと恐ろしくなる。

目に見える部分は認められるけど、目に見えない部分は見せてくれないと理解できない。相手の気持ち次第でしかない。相手に気持ちがなければ、一生傷つけ続けてしまうことになる。

目に見える部分は「それぞれ違うんだね」と認め合えるかもしれないが、目に見えない部分は「信頼」でしか繋がれない。

登場人物は皆、どこにでもいる一般人。だけど誰にも言えない何かを抱えて生きている。世の中に存在する人間も、同じように何かを抱えて生きているはず。家族にも言えない、自分でも認めたくない、独りで抱えている世の中の少数派な部分。

その少数派な部分を抱えている人でも、他人の少数派な部分を想像することは難しい。私ができることは「多分、この本を読んだだけでは分からない、知ることができない多くの少数派が存在しているのだろう」と想像することだけだった。


「とんでもないものを読んでしまった」と思う。「最近読んだおすすめの本は?」と聞かれても「おすすめはしない」と言う。読むか読まないかは自分で決めたほうがいい。読んだあとは、読んでいない自分とは何かが変わっていて、何かが重たく残っている。読む前の自分には戻れない。

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