ボカロ通史④ 名ばかりの「衰退期」からの再加速

洗練されたボカロ曲〜ポップスの台頭

プロジェクト系が衰退した2013〜2014年頃を境に、ボカロの音楽性は変化していった。
高速かつ複雑な密度の高い楽曲は姿を消し、よりJ-POPに接近したものになった。
日本国外では、海外在住のCrusher-P氏とCircus-P氏がタッグを組みCIRCRUSH名義で発表された「ECHO」は全編英語詞のボカロ曲としては最大のヒットを記録したほか、中華人民共和国の動画サイト「BiliBili」では日本のボカロ曲の他に、中国語VOCALOIDを使用した独自の作品が発表されるなど海外での動きが活発化したのもこの時期だ。
話を日本国内に戻すと、ボカロには欠かせないMVや使用されるイラストも、全盛期と比べると洗練され、より美麗でオシャレなものが使用されるようになっていったことや、後述するYouTubeの台頭も相まってそれまでボカロを知ることのなかった層にも訴求するような動きがあった。
代表的なボカロPを挙げると、Orangestar氏、n-buna(現ヨルシカコンポーザー)氏、40mP(現イナメトオル)氏がいる。
衰退期とは名ばかりで、現在メジャーシーンで活動しているボカロPを多数輩出しており、彼らは以前から活動しているsupercell氏や米津玄師氏に並ぶ活躍を見せている。
2016年になると、DECO*27氏やNeru氏といった「全盛期」から活動を続けるボカロPたちや、独自の世界観で人気を博したナユタン星人氏などがヒットを連発して再びボカロシーンが活性化した。
また同時期のボカロ曲で注目すべきは、「人間的かつ生々しい歌詞」の楽曲がヒットを記録するようになる。
黎明期から機械と人間の違いをメタ的に意識させる楽曲の存在はあったが、この時期以降の楽曲では人間の生き死にや心の葛藤をテーマにした歌詞を、ダークな曲調に合わせて機械であるVOCALOIDに歌わせるというスタイルが確立された。代表例として、カンザキイオリ氏の「命に嫌われている」やユリイ・カノン氏(現月詠み)の「誰かの心臓になれたなら」がある。
現在は上述の2曲から音楽性はかなり変化しているものの、「人間的かつ生々しい歌詞のボカロ曲」は現在もボカロのメインストリームに君臨している。

ベテランボカロPの回帰は令和ボカロシーンの開祖?

2017年はボカロシーンにおいて重要な年となった。全盛期を彩ったボカロPたちが(一時的にではあるが)ボカロシーンに帰ってきたのだ。
wowaka氏が「アンノウン・マザーグース」を、kemu氏が「拝啓ドッペルゲンガー」を投稿し、ボカロファンは歓喜した。そして極め付けがハチ氏による「砂の惑星」である。
マジカルミライ2017のテーマソングとして発表されたこの曲は、その後のボカロシーンに大きな影響を与えた。
ハチ氏が約3年9ヶ月ぶりに投稿したという話題もさることながら、その内容が当時のボカロシーンを砂漠になぞらえた内容であったことも大きいだろう。それに呼応するかのように、ニコニコには砂の惑星へのアンサーソングが多数投稿される事態となり、その中にはナユタン星人氏やsyudou氏もいたことは有名な話だ。
この「砂の惑星」は、現在のボカロシーンが活性化する大きな原動力になった。

そしてボカロ曲を発表する場がニコニコからYouTubeに移ったのもこの時期である。
それ以前はボカロ曲をYouTubeで聴くには無断転載しかなかったが、新旧問わずボカロP自身が公式のYouTubeチャンネルを開設し楽曲を投稿するというもう一つの流れが出来上がった。
また、これと前後してはるまきごはん氏やEve氏など、ボカロPと歌い手活動(大抵は自身のボカロ曲のセルフカバーが中心)を並行して行う者も現れた。

第二次ボカロブームの前日譚

2017年以降のボカロシーンでは、すでにベテランとなったみきとP氏による「ロキ」やバルーン氏(現須田景凪)の「シャルル」など、2014年以降のポップス路線を引き継ぎながらもボカロらしい音楽性を取り入れた楽曲がヒットした。
2019年頃になると、全盛期の特徴である「高速かつ複雑な密度の高い楽曲」が再びボカロのメインストリームに顔を出しつつあった。ただ当時と違うのは、そこに2017年以降のスタイルである「極端にダークかつ人間的で、生々しい歌詞」をさらに加速させた要素を融合させたこと、必ずしもBPMの速い曲ばかりではなかった点、クラブミュージックやトラップ、エレクトロ・スウィングなど、従来のボカロ曲では使われなかった(メインストリームにはならなかった)音楽性を幅広く取り入れてミックスし、「新しいボカロらしさ」を定着させたところにある。代表的なボカロPでは、syudou氏や柊キライ氏がいる。
このようなボカロ曲の台頭は、再びボカロが隆盛を極める予兆となるのであった。

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