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奄美大島取材日記

2022年11月21日~24日
2023年は私にとって特別な一年となりました。 
9月のFEI PURO ART AWARD 準大賞 受賞に続き、
10月の奄美を描く美術展 大賞 受賞などうれしいニュース
が続きました。それもこれも昨年の奄美大島での経験がもと
になっています。なぜ、奄美大島を選んだか・・・。      
それは、2021~2022年の制作テーマの“絶滅危惧種“を調
べていた時のこと。『希望の地球~楽園~』を描いていてモデ
ルとなった東山動物園のオランウータンが一体どんなところを
楽園と感じるんだろう?と思って調べ始めたところにさかのぼ
ります

希望の地球(ほし)~楽園~ F30 2021年制作 oil on canvas

オランウータンの生息地は年々少なくなっています。なぜなら
原生林や泥炭湿地を開墾して、パーム油を取るためのアブラ
ヤシが植えられているからです。
泥炭湿地は水分が多いので、まず大量の水を抜く作業が行
われます。水が抜けると火を放ち、泥炭は燃やされて畑に変
えられます。もちろん二酸化炭素も出るでしょうが地球が長
い間かかって溜めてきた泥炭は一瞬にして消え失せエネル
ギーもなくなります。それよりもアブラヤシが優先されている
のです。何かおかしいと思いました。

私達が食べるお菓子の材料に使われているパーム油。そ
れを採るために今あるものが破壊されてしまう。そこに生
きる生き物も、植物もなくなってしまう。
人間の経済活動が優先されて原生林はなくなっていくの
でした。今、原生林を見なければ地球上から消えてしまう
かもしれないという思いが私を動かしたのです。
最初オランウータンのいるボルネオ島に行ってみたいと
も思いましたが、空港から4時間半もかかるときき、私に
とってはハードルが高すぎると感じ、たどりついたのが奄美
大島の金作原でした。オランウータンの生息地とは、もちろ
ん違うと思いますが、私の足でも行くことができて、国内で
見られるというのはありがたかったです。  

金作原の原生林で

雨の多い奄美大島ですが、私が訪れたときは4日間で
一度スコールが降っただけですぐ上がりました。なんだ
か雨も気持ちが良いのです。雨に濡れた葉っぱや花は
色が鮮やかになって私に「描いて」と話しかけてくるよう
に感じます。見たことのないような花や実、大きな葉や芽
に「すごい!!」「すごい!!」を連発してしまいました。
 
森の中には動物たちもいっぱいいます。ガイドさんが鳥
の鳴き声を聞き分けて「あそこにいますよ」と教えてくれ
ました。私は「すぐに居場所がわかるなんてすごいなあ」
とあこがれてしましました。写真は私も見ることができた
ルリカケス。「ギャー、ギャ―」と鳴き声が特別わかりやす
いので覚えることができました。
名古屋にいるときは私たちの生活の場に鳥たちが遊びに
来るという感覚ですが、生き物たちの世界にこっそりお邪
魔させていただく…。見せていただく…。ような感じがとて
も新鮮でした。 
 

森の中のルリカケス

  マングローブの林ではカヌーに乗って水路を進んで行
きました。私も少し漕ぎましたが、ほぼガイドさんにロープでつないでもらって移動しました。360度見渡せる広いところに出ると雄大な自然を体中で受け止める感覚になりました。

西日に照らされるマングローブの森

水蒸気も、スコールのあとのモヤも、においも閉じ込めてぜひとも大きな画面でこの世界を描いてみたい。
私が感じたような感覚を作品を見る人に伝えてみたいと思って制作したのが、第79回現展で発表した『黒潮の森』です。出品規定ぎりぎりの大きさでF100号キャンバス4枚を使って縦3250×横2610mmで制作を始めました。
雄大な自然を全部描きとろうとすると空も水も空気も全部入れた横長の構図も美しいかもしれませんが私はどうしても縦長で描きたかった。きっと吸い込まれるような画面を作れるだろうと思ったからです。
白亜地を施したキャンバスに紅茶インクで描き進めていきます。下に置いて描いてつなぎ目を描いて、立てかけてみて確認するのを繰り返します。


まずは紅茶インクで描いたところ/上下半分ずつアトリエの壁の立てかけた様子

木漏れ日の美しい明るい森を意識しました。動物たちも、ひょっこ
り顔を出しそうな、生きている森を目指しました。
私が奄美大島にひかれるわけはみんなが残された自然を大事に
しようとしていることにもあると思います。まさに200年後に残し
たい地球の風景。そこに住む人の気持ちの在り方に感動している
のだと思います。

第79回現展/国立新美術館 2023年6月

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