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いつも髪を短く切られてしまう美容院に通う私

毎回のように、オーダーよりも髪を短く切られてしまう美容院がある。
同じ美容院に長く通うことのなかった私が、そこになぜか通い続けている。

私が住んでいるところは、北海道の中でもとりわけ田舎の部類に入る小さな町だ。電車に乗るなら車で一時間以上走らないと駅はないし、コンビニ以外に食料品を買えるお店はなく、スーパーに行くにも車を一時間以上走らせる必要がある。そんな小さな町の中に一軒だけある美容院が、私の通う美容院なのだ。

だからといって、他に選択肢がないから通っているわけでは決してない。スーパーへ食料品の買い出しには行っているので、街へ出れば美容院はいくつもあるわけだから。

今までの私は、同じ美容院に長く通うことはあまりしてこなかった。してこなかったというより、そう思える美容院に出会えなかったと言う方が正しい気がする。通いたいと思える美容院を、いつも探していた。私の中のパターンなのだが、だいたい三回通ったくらいで『違うところにしようかな』と思ってしまうのだ。

初めての来店では、どこのお店も過剰に感じるくらい丁寧な場合が多い。美容院の数はコンビニより多くて競争が激しいということはよく聞くからリピーターになって欲しいだろうし、初対面だからどんなお客なのか様子を探る必要があるからだと思う。二回目に行くと、自分のお店の「お客」になってくれる可能性が高いだろうから、なんとなくだけど『来てくれてありがとう』感が伝わってくることが多い。気がする。だけど、三回目以降は、『自分のお店に通うお客さん』と分類されてしまったような接客に変わるところが多い気がするのだ。以前より急に距離を詰めてくるような接客に変わることもあれば、ちょっと雑に仕事をしだしたなと感じることもある。そう感じてしまうと、違う美容院を探してしまうのだ。

私が通う美容院の店主は60代くらいの女性で、もう何十年も同じ場所で美容院を営んでいる。カラッとした明るい性格の、お話好きな方という印象だ。初めて訪れるときは、『小さな町だから、特に新参者には身の上のことを根掘り葉掘り聞いてくるかもしれない。そんな人だったらイヤだな』と思っていたし、『田舎の美容院だから変な髪型にされたらどうしよう』という心配もあった。だけど、そんなのは私の偏見で、杞憂でしかなかった。

人との距離のとり方が、とても心地よいのだ。個人的な質問は、まずしてこない。何回か通うと徐々にしてくる人のほうが多いのだが、ここの店主は何回通ってもしてこない。遠回しに探るような聞き方もしてこない。話好きだからと言っても、私が話しけようとしなければ、黙々と髪を切ってくれる。何回通っても、接し方や仕事の仕方が変わったと感じることがないのだ。

唯一気になる点といえば、髪を毎回短く切られてしまうこと。今までいろんな美容院に行ってきたけど、そういう経験はあまりなかったように思う。だからいつも、『なぜなんだ? 私の伝え方が悪かったのかな?』と思い、様々な伝え方を試してきた。

「切りそろえるくらいで」
「ボリューム減らすくらいで」
「伸ばす予定なのであまり切らないでください」

それなのに、パッと鏡を見たらやっぱり短い。カットの技術が下手というわけではないのに、黙々と切ってくれてるときでもやっぱり短いのだ。

料金が安いということもあるだろう。私が今まで通っていたお店の半分以下の値段なのだ。

そんなこんなでなぜか通ってしまう美容院。何度短く切られても、『まいっか、髪はまた伸びるんだから。次はどういう風に伝えようかな』と思わせてくれる素敵な場所である。


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