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紳士の国イギリスというのは本当だった

  早朝5時半にセットしておいた時計のアラームより少し早く目が冷めた。荷物が全部あることを確認し、ほっとする。途中何度か起きてしまうことがあったのだが、不安は睡魔に勝てなかったようだ。飛行機の中でずっと寝ていたにも関わらず、まだまだ寝れる勢いである。周りを見渡すと、昨日の夜いた人が半分くらいすでにいなかった。朝一番で動き始めるつもりで起きたのに、これでも遅いということなのか。そんなことを考えながら、サンドウィッチを食べた。

   約一年のイギリス生活のうち、最初の一ヶ月はロンドンの語学学校へ通うことにしていた。目的は語学の勉強と友だち作り、海外生活に慣れるためといったところである。その先のことは、ロンドンで生活しながら決めようと考えていた。語学学校の間はホームステイをすることになっているので、今から向かうところはロンドン市内にあるホームステイ先の家である。しかし、行き方を事前に調べてないため、私が手にしている情報といえば、ホームステイ先の住所、最寄りの駅名、駅から家までの道のりだけである。ちなみにガイドブックは持っておらず、最寄りの駅さえわかっていればなんとかなるでしょ、と考えていた。
  まずはロンドンの中心部まで出ようと思うのだが、できれば景色が見えるバスで移動したい。そんな願望を持ちつつ、空港のインフォメーションへ向かった。そこで下手くそな英語で問いかける。
「ロンドンの中心部にバスで行きたいのですが、どこに行けばよいですか?」
「セントラルバスセンターに行ってください」
  合っているかわからないが、そんな感じで言われたので、案内を頼りにそれらしきところへ向かった。進んで行くと建物の外に出たのだが、もの凄い寒さなのだ。空港の外がこれだけ寒ければ、中でも寒いのは当たりまえかと、妙に納得してしまう。セントラルバスセンターはだだっ広く、ものすごい数のバス乗り場があった。そこでさらにバスのインフォメーションセンターへ行き、ロンドン行きのバス乗り場を聞く。対応してくれた人は丁寧に教えてくれたのだが、私の英語力がついていかない。それらしきバス乗り場に行き、行き先を確認するもよくわからないという行動を何度も繰り返す羽目になった。結局、大量の荷物と一緒にウロウロすること30分くらい。時間には余裕があったので良かったのだが、さすがに疲れてしまった。バスで行くことにこだわっていたけど、諦めて地下鉄で行くことにした。地下鉄は乗り場も行き方もわかりやすく、すんなり乗ることができた。さっきまでの苦労はなんだったんだと心のなかでつぶやいてみる。

  乗り換えのときに驚いたのが、エレベーターがない駅が多いのだ。エスカレーターもなく、階段しかない。『まじかよ』と叫ぶしかないのだ。背中にはギターを背負い、手にはスーツケースと大きな旅行バッグだったから、かなり大変なのである。必死で荷物を運んでいたのだが、さすが紳士の国英国。「Can I help you?」と言ってスーツケースを持ってくれるのである。しかも、階段の上り下りを手伝ってくれたあと、「じゃあね」という感じで爽やかに去っていく。どの階段でも誰かしら手を差し伸べてくれて、素晴らしいなと感動しっぱなしであった。
  最寄りの駅で無事に降りることができ、家まで約10分の道のりを歩けば到着だ。ようやくそこまできたのだが、最後の最後に、もう一つの想定外のことがあった。それが石畳の多さである。日本のアスファルトのような道を勝手に想像していたから、徒歩10分なんて余裕だと考えていた。しかし、歩道は石畳で整備されており、スーツケースが石の間に引っかかってしまい、何度もひっくり返ってしまうのだ。結局20分以上も時間がかかり、相当の体力を消耗することになったのだが、なんとか無事に到着することができた。ようやく、本当の意味での一安心である。

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