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ロンドンのヒースロー空港で夜明けを待つ

心配していた入国審査が無事に終わった頃、時計を見ると21時を過ぎていた。格安航空券だから遅い時間につくのは仕方がない。費用を少しでも安く抑えるために、この日は空港で一夜を過ごすことを決めていた。

それにしても荷物が多い。約一年という期間をイギリスで過ごすということもあり、何を持っていけば良いか考えがまとまらなかった。結局準備は前日になってしまい、出発の時間に急かされながら徹夜で荷造りをするはめになってしまった。と言いつつも、旅行の前はいつもこんな感じだから性格なのだろう。思いつくままに、とりあえずカバンに入るだけ荷物を詰め込んだ。あとは悔やんでも仕方ない。大体のものは買えばなんとかなるのだから。背中にギターを背負い、スーツケースの上に大きめの旅行バッグを乗せ、それが落ちないよう支えながら、眠れそうなところを探して歩きはじめた。

空港内には、私と同じように一夜を過ごそうという人はそこそこいるので、ある意味場所取り合戦みたいなものである。4つ並んだ椅子にすでに寝転んでいる強者や、荷物を置いて自分のスペースを確保している人が多く、広い空港のロビーといえど中々見つけることができない。空いていたとしても、怖そうな人が近くだったらやっぱり不安だし。なるべく女性が近くにいて明るめの場所を狙い、20分ほど探し回った後ようやく適当な場所を見つけることができた。

椅子に寝転びたいのが本音だが、それほどの大胆さは持ち合わせていない。椅子に座り、荷物にもたれかかりながらそこそこ楽に寝れる体勢をあれこれ模索してみる。しかし、わりとどこでも寝られる人間だから、女一人でもこんなことしようと思うんだろうな。親に言ったら反対されることは目に見えているので、ホテルに泊まると伝えてある。空港だし数時間だし、まあそんなに危なくないでしょ、と楽観的に考えているが、不安や心配がゼロというわけではもちろんない。荷物が多く盗難の心配もあるので、貴重品は抱きかかえるように肌身離さず寝る必要がある。

10月上旬だったのだが、空港の中はかなり寒くて想定外だった。夜間、きっと暖房はつけていないのだろう。寝る用に薄手の毛布を一枚持ってきたのだが、それだけじゃ到底寒さはしのげない。スーツケースの中から服を何枚か引っ張り出して着込み、できるだけ毛布にくるまれるように肩をすぼめる。凍えるような寒さと荷物への不安と戦いながら、目を閉じて夜明けを待った。


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