見出し画像

諏訪・茅野エリアを「推しの推し」に。台湾事業チームトークセッション|矢島×小路×野澤×齋藤

インバウンド施策の強化を目指し、台湾向けのプロモーションに取り組んでいる8Peaks family。これまでとは少し違った切り口でのアプローチが功を奏したという。プロジェクトメンバーの4名が集まり、今回の事業の狙いや成果、今後の展望について語った。

<メンバー紹介>
矢島 義拡:「池の平ホテル&リゾーツ」代表取締役社長
小路 輔:WEBマガジン「初耳 / hatsumimi」編集長兼代表
野澤 寛史:「株式会社エース企画」 代表取締役
齋藤 由馬:「8Peaks BREWING」代表


大事なのは「誰」が発信するのか

−まず事業の概要を教えてください。
 
矢島:八ヶ岳周辺の観光事業をインバウンド化する取り組みの一環で、観光庁の補助金を活用して台湾向けのプロモーションを行いました。

「池の平ホテル&リゾーツ」代表取締役社長の矢島

−どういった経緯があったのでしょうか?
 
矢島:諏訪・茅野エリアはインバウンド自体が少なく、台湾からも教育旅行などの団体ツアーで一定数訪れることはあっても、まだまだ認知されていない地域です。FIT(個人旅行)となるとさらに実績が乏しく、数少ないお客さまの目的もほとんどが雪遊び関連に限られていて、グリーンシーズンの魅力が出せていない。FITにしっかりアプローチしていかないと今後広がりがないという課題がありつつも、これまで有効なチャンネルを作ってこられなかった現状があります。そこで小路さんの運営するwebメディア『初耳 / hatsumimi』で記事を制作していただこうと考えたのが始まりです。かつ今回の新しいポイントは、ありがちな旅行コンテンツとしてではなく、カルチャー色の強い訴求をした点です。
 
−具体的にはどのようなプロモーションなのでしょうか?
 
小路:台湾向けに地域の魅力を発信する記事を制作するとともに、台中のギャラリー「Artqpie 佔空間」とコラボして、八ヶ岳周辺の風景や人々の姿を捉えた写真を展示する「諏訪・茅野寫真展」を開催しました。

WEBマガジン「初耳 / hatsumimi」編集長兼代表の小路
台湾にあるギャラリースペース「Artqpie 佔空間」
「諏訪・茅野寫真展」の様子
「諏訪・茅野寫真展」の様子

ただ、写真展だけだと集客力が弱いので、諏訪・茅野のエリアマップを制作して展示し、配布も行いました。

イベント用に制作したエリアマップ

またギャラリーにはカフェも併設しているので、八ヶ岳周辺の野草を使ったお茶やオリジナルレシピのハーブティー、信州産の素材にこだわったジャムやスイーツも提供しました。

諏訪地域の白樺や赤松の葉で作った「八十茶」
茅野駅の土産品店「モン蓼科」のジャム

矢島:最初は記事だけ書いていただく予定だったんですけど、結果盛りだくさんの内容に……。本当にありがとうございます。

小路:記事を発信するだけなら他のエリアでもやっているし、たぶん台湾の人はそういう記事を100万回と見ているはずなので(笑)。だったら、手間とお金と時間はかかるんだけど、この地域のファンを台湾に作るということを一つずつやっていった方がいいかなと思いました。
 
−プロモーションを実施する上で、特にどんなところを意識されましたか?

小路:一番大事にしたのは「誰」が発信するのかということ。この地域の特性に対して台湾の受け手がどう思うか、どの部分がマッチするのかをしっかり検討した上で発信する必要があると考えました。例えば、百貨店のような場所で普通にイベントを行ったとしても、それ以上ファンは増えないと思うんですよね。そこで今回、ギャラリーのオーナーでクリエイターでもあるAJと、奥さんのJaneniに旗振り役を担っていただきました。
 
−どんな方々ですか?

小路:カルチャー界隈への影響力が強い二人で、AJはZINEの編集・出版やグラフィックデザイン、大学講師など、幅広く活動されている方です。Janeniもクリエイターで、エリアマップのイラストは彼女が担当しています。

オーナーのAJ

しかしこの二人が情報発信をするだけではまだ少し弱い。なぜかと言うと、諏訪・茅野には特別なコンテンツが豊富にあるわけではないからです。そこであえて、「これが刺さりました」ではなく、「私たちが諏訪・茅野を調べるとこうなりました」という風に、彼らに地域の魅力を再編集してもらう方法を取りました。エリアマップを制作したのも、彼ら自身が諏訪・茅野について深く調べた上で情報発信を行うという座組にするためです。

−新しい切り口のプロモーションですね。

矢島:実際、台湾の方にこの地域の何が刺さるのか、僕たちにとっては非常にわかりづらいんですよ。

野澤:そうなんですよね。どういう切り口で、どういう見せ方がいいのか、正直地元にいる我々ではわからない。だからファンの代表を立てて、「推しの推しは間違いない」という動きを作り上げていくという小路さんのやり方はすごく新鮮でした。今回、僕は“バイトの野澤くん”という感じ(笑)で、主に地元の調整役だったんですけど、色々勉強させてもらえてよかったです。

「株式会社エース企画」の野澤

補助金がなくなっても自走する仕組み

−台湾の方々の反応はいかがでしたか?

小路:すごく好評でした。「諏訪・茅野=AJ夫妻のような高感度な人が行く場所」という認識を醸成できたのではないかと思います。写真展の会期も当初は1月末までの予定だったんですけど、4月まで延長されることになりました。しかし単に延ばしても集客できないと思うので、今後彼ら自身が磨き上げをして、諏訪・茅野にまつわるトークイベントなども開催していくのではないでしょうか。

齋藤:そこがまたすごいですよね。

小路:そう。これが狙いでもあって、補助金がなくなった後も自走できるプロモーションや資産を残さないと意味がないんですよ。エリアマップも最初は数に限りがあったので、台中を中心にギャラリーと周辺のカフェなどで配布して、速攻なくなったんですけど、それをインスタに上げて会期延長の告知をしたら、台北からも「どこでもらえるの?」という問い合わせが多数来たり。

ギャラリーで配布されているエリアマップ

あのマップって、つまりは諏訪・茅野のガイドブックですよね。それを観光協会が配るのではなく、自分から取りに行くという状況を作ることができたのは、すごく大きなことだと思います。
 
−AJ夫妻が地域のファンになってくださらないと、そもそもこのプロモーションは成立しないですよね。改めて土地の力の大きさも感じます。

小路:そうですね。実はこのプロモーションの前に、セカンドホームのサブスク「SANU 2nd Home」の八ヶ岳の拠点を使って、台湾のVIPの方をお招きする「SANU TAIWAN DAYS」というイベントを行ったんです。AJ夫妻も参加されていて、そこで地域の情報などもジャブ的にお渡ししていたので、すでに魅力は感じてくれていたんじゃないかなと思います。ちなみにこのイベントでのトピックスとしては、野澤さんのお知り合いの酒蔵が造っている日本酒「神渡」も提供したんですけど、これがすごく喜ばれました。
 
野澤:海外の方向けに微発泡で甘めのシリーズを出しているんですけど、これがハマりましたね。シンプルなラベルも「クールでかっこいいよね」と評判でした。

岡谷市で醸造される日本酒「神渡」

矢島:「MIWATARI」っていう語感もいいし、漢字のロゴも親しみやすいですよね。「神」という文字は台湾の方に同意で伝わるし。
 
小路:そうなんです。もっと知っている方だったら「諏訪湖のあの現象のことね」というところまで認識できます。台湾ではガチガチの日本酒を好む方はあまり多くないので、甘くて飲みやすい味もよかったんだと思います。あとは由馬(齋藤)さんのビールもとても好評でした。
 
齋藤:台湾の方々はお茶を飲み比べる文化をお持ちだと聞いたので、数種類のビールを飲み比べて楽しんでいただけるようにしました。そこも親和性が高かったのかもしれません。

「8Peaks BREWING」代表の齋藤

小路:味はもちろんですけど、ラベルデザインも「可愛い!」とみなさん口を揃えておっしゃっていましたね。幾何学的だけどポップな感じが、今の台湾のトレンドにすごくハマっていると思います。あのイベントで来てくださったのって、デザイナーとか建築家とか作家とか、台湾のスーパースターばかりなんですよ。そういう方々にデザインを気に入っていただけたのはすごいことですよ。

好評だった「8Peaks BREWING」のラベルデザイン

齋藤:大変光栄です!
 
矢島:ついに台湾にまで販路を広げる?
 
齋藤:いや、どちらかと言うとビールに旅をさせるのではなく、その逆を狙っていきたいなと。やはりお客さまに来ていただいて、八ヶ岳の必然性をビールでお伝えできたらいいなと考えておりまして、もともとビールというのは縄文時代からの穀類を発酵させた飲料で……。
 
矢島:はいはい(笑)。それいつも言っているしわかるんだけどさ、観光を疑似体験できるツールってないんですよ。カヌーを持って行くわけにもいかないし。そういう意味ではお酒や食事はある程度伝えやすいものではあるよね。
 
齋藤:そうですね……。でも僕はビールだけではなく体験を売っていきたいので、今回の「推しの推しは間違いない」戦法のように、モデルとなる方にまずは八ヶ岳でビールを味わってもらって、その体験を現地で広めてもらえるのがベストかなと思っています。
 
野澤:AJ夫妻もまたお呼びしたいですよね。
 
矢島:アテンドしてお話を聞きまくりたい(笑)。それでまた違う魅力も拾っていただいて、今回のコンセプトをさらに深掘りしていけると面白いのかなと思います。逆にこっちからも台湾に行かせていただいたり、一方通行ではない交流ができたらいいですよね。
 
小路:絶対に行き来した方がいい。次のステップはまずみんなでAJのギャラリーに行くことだと思います。それをやらないと全く話にならない。それで仲良くなったら、AJが周りの経営者とかを連れて来てくれると思うので。

フックとなるコンテンツを作る

−逆に課題として見えたことはありますか?

小路:繰り返しになりますけど、諏訪・茅野エリアにはフックとなるものがなかなかないんですよ。「レストランピーター」のソーセージも台湾には持って帰れないし、由馬さんのビールも「神渡」もポテンシャルはあるけど、まだ一大コンテンツとしては認識されていない。そこが今回難しかった点ですね。
 
矢島:海外向けにわかりやすい大ヒットを1個作る必要があると。

小路:それがあれば、もう少し違ったやり方もあったのかもしれない。AJと話していたのは、クリームソーダの上にカヌーの紙の模型をのせて「白樺湖ソーダ」と言って売るとか(笑)。それを飲みに来たついでに写真展を見るというような「食」でのフックを1個作りたかったなと思いました。

−8Peaks familyは食分野に携わる方がたくさんいらっしゃるので、今後何か面白いことができそうですね。

矢島:新しく開発することもですけど、どこかのメーカーさんの商品をいい意味で贔屓して育てていくことも、もしかしたら必要なのかもしれないですね。

小路:一方で、だからこそ改めて気づけたのは、諏訪・茅野の魅力は「人」だということ。大谷翔平級のフックがないなら、人の魅力をプロモーションの軸にしようと考えたのが、今回AJ夫妻とコラボするきっかけになったと思います。

↑ 諏訪・茅野の魅力である「人」を中心にした取材記事

矢島:インフルエンサーやアンバサダーを使ったやり方ではなく、アンオフィシャルな方法できちんと高感度の方に訴求できたことも自信につながりましたね。インバウンド向けの観光コンテンツの磨き上げをある程度やってきて、ここから新しいステップを踏まなければという時に、小路さんがドンと風穴を開けてくださいました。

野澤:今回はたくさんヒントをもらえましたね。あとは双方のキーマンが行き来できるプラットフォームづくりかな。

矢島:ランオペ的な受け皿も8Peaksとして作れるともっといいでしょうね。

小路:プロモーションに関しても、報告書ベースではなく、今回のように自走する方法を今後も続けていきたいですね。

齋藤:自然とか食とか色々あるけど、やっぱり八ヶ岳の一番の資源は「人」ですよ。まずはみんなで台湾に行って、お友だちになりましょう!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?