見出し画像

気の向くまま、風の吹くまま

 改札を出ると、テレビでよく見かけるスクランブル交差点。どれくらいぶりだろう渋谷に来るのは。干支ひとまわりは過ぎてるとおもう。

「自由っていったいなんだい?」
「君は思うように生きているかい?」


尾崎豊の問いに答えながら信号待ちをしていたら、ハットを被った高齢の男性が、一輪の赤い薔薇を手に持ち、首からプレートを提げて微笑んでいた。プレートには【私と結婚して下さい】と書かれていた。
いい笑顔だったから、叶うと思う。知らんけど。

 

 用事を済ませて、気になっていた店へ向かったけど定休日。調べなかった私が悪いクセに勝手に失恋した気分になってる。長崎ちゃんぽんに会えない。長崎ちゃんぽんが恋しい。こうなるともう、何がなんでも麺類が食べたい。もう意地。だからって、どこの麺類でもいい!麺類ならなんでもいい!ってわけじゃない。あーめんどくさい。

 私はふだんの行動範囲から出たときは、出かけた先でしか口にできないものを食べる。ということをささやかな楽しみにしていて、チェーン店には入らないという決めごとまである。決めたからには曲げられない。たとえ朝からなにも食べないまま時が流れ、口は渇き、そんな私の目の前に富士そばがあろうとも。あーめんどくさい。

そして見つけたのよ。店構えからして香り立つ昭和。わたし好みの佇まい。こういう食事処を、街で見つけるのがだんだん難しくなってきた。

画像1


席について注文して、カバンから財布だして千円抜いて財布しまってカバン置いて顔をあげたらチャーハンできてるよ。早いっ!
一段高いカウンターからチャーハン下ろしてコップの水を飲み干したら広東麺でてきたよ。早いっ!!

画像2


広東麺セット。
もうちょっと欲しい。を叶える、この、セットというもの。尊い。
シンプルな炒飯はパラパラしているのに口の中でまとまりがよく、広東麺はスープに溶けだした野菜の甘みが、空ききってふてくされた私のおなかを優しくした。おいしいって、しあわせだ。


しかしよく歩いた。慣れない街でテキトーに歩く癖、嫌いじゃない。気の向くまま、風の吹くまま、張りきって予想と逆方向を歩いていたら、アスファルトに虹が映っているのを見つけた。
赤い薔薇の行方はハットだけが知っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?