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母の音

その日、母は突然やってきた。
実家を離れ遠く静岡勤務になった娘が心配だったのだろう。

「こんなに散らかしてだらしないんだから〜」
着くなり片付けを始める母は妙に生き生きしていた。

寝る前に母がためてくれたお風呂に入った。
いつから湯船に浸かっていないだろう。
あの頃の私は心も体も疲弊していた。

翌朝キッチンから聞こえるトントントンという音で目を覚ました。
実家にいた時には気づきもしなかった安らぐ音。
目を閉じたままその音に耳を傾けた。

朝食のあとお茶を入れながら
「これ…飲んだらお母さん行くね。」
と言った。

小雨が降るなか駅に着いた。
「じゃあ行くね。」
と私に背を向けようとしたその時

「お母さん…私も一緒に帰りたいよ…」
やっと口を開いた私に母は一瞬泣きそうな顔を見せた。

「またGWに帰ってきなさい、ね。」
私の手に優しく触れてから電車に乗り込んだ。

部屋にはテーブルにコップが2つ。
催花雨の音がいやというほど耳に響いた。

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