見出し画像

海外進出における「市場調査」って? ポイント解説

国内で市場調査を行った経験はあっても、海外だと「何から手を付ければいいのか……」「どのように進めたらいいのか……」と途方に暮れることもしばしばです。今回は、海外進出における市場調査のポイントについて詳しく紹介していきます!

なぜ海外市場調査が必要なのか

海外進出には決して少なくない費用がかかります。にも関わらず「ライバル企業よりも早く海外進出し、トライアンドエラーの経験値を積んでいこう」「国内で成功しているんだから、海外でもいけるだろう」と簡単に考えていませんか?実は、当社も海外進出初期はそう思っていました……。でも色々と遠回りした今だからこそ、「海外市場調査」は絶対した方がいい!と断言できます。海外で展開したい商品やサービスがたとえ国内で認知されていても、それがそもまま海外で受け入れられるとは限りません。そもそも国内と海外では生活環境や商習慣、法規制、価値観、文化、宗教など、あらゆることが異なるため、日本向けのマーケティングメソッドが通用しないケースの方が多く、だからこそ進出先の国や地域に対する事前調査が必要なのです。

当社の市場調査の様子(アンケート調査/訪問型)

ちなみに、市場調査を行う目的が「自社の商品やサービスに適切な”進出国”を見極める」ことであれば、日本貿易機構(JETRO)の無料市場調査をオススメします。国内の中小企業を対象にしたサービスで、JETROの現地コーディネーターが、現地の市場調査から、規制・認証、競合製品の有無、業界の流通形態などを”無料”で調べてくれます。(参照:海外へ販路を拡大したい!#3 無料の市場調査というJETRO最強ツールが絶対オススメ
理由は、調査結果によっては、当初検討していた候補地は好ましくない……という結果になる可能性も十分にあり、その状態で多額の予算を投じて詳細に調査をしても意味がないものになる恐れがあるからです。

海外の市場調査で必要となる6つの視点

ここからは、ある程度進出国を絞り込んでから行う市場調査のポイントについて説明していきます。
海外進出を検討する際には、「市場規模」「消費者ニーズ」「競合企業」「規制・法律・商慣習」「パートナー企業」「自社」の6つの視点で市場調査を行うのが効果的です。

市場規模

現地の市場規模を把握し、そもそも自社が入り込む余地があるのかを確認します。仮に日本国内ではトップシェアを占めていても、進出先の国では競合企業が多かったり、市場自体の規模が思いのほか小さく、十分な利益を見込めない可能性もあります。
現地で、様々なカテゴリの販売データ、購買データを収集・提供しているサービスがある場合は、それらを活用するのも1つの手です。また、そこで得られたデータから「日本国内と比べてどうか」「現地の類似カテゴリと比べてどうか」を分析し、大まかな売上予測を立てることが可能です。

消費者ニーズ

国内でも市場調査の際は当然、消費者分析を行いますが、海外調査における消費者分析では、その国ならではの消費者の「思考」に注目しなければなりません。
日本でヒットしている商品・サービスを提供する場合でも、海外は文化や習慣が違うことで、予想しているユーザー層が大きく変わることがあります。現地の消費者に需要があるのか、類似の商品がどのような使われ方をしているのかを分析するなどして、効果的な販売戦略を計画していきます。

競合企業

競合分析は、消費者ニーズの分析に先駆けて行うこともあります。と言うのは、競合他社の商品ラインナップや販売方法を押さえることで、どういったお客がターゲットになり得るかといったイメージを描き、調査する消費者の対象を絞り込むことができるため、作業の効率化が図れます。
また、市場で優位な競合企業の売上高や販売ネットワーク、生産体制、組織構成、取引先の状況などを把握することで、より緻密な販売戦略を構築することができます

規制・法律・商慣習

海外進出にあたり、そもそも”進出可能な国なのか”を確認しておくことも重要です。化粧品や食品などは、製品に含まれる一部の成分が原因で、その国の法規制の対象になってしまうことがあります。現地の法律を調べ、規制されている成分や製品を把握しておきましょう。
また、同じ国や地域の中でも状況が異なり、原材料や成分が規制対象になることがあります。アメリカの場合は州別に考える必要がありますし、中国の場合は台湾や香港を同一にとらえることができません。つまり、国や地域全体の情報を知ることも大切ですが、進出する具体的なエリアの商習慣についてさらに詳しく確認する必要があります

パートナー企業

海外販路開拓におけるパートナー企業は、代理店(エージェント)、販売店(ディストリビューター)、国際物流会社や、現地の法規制に詳しい弁護士、国際税に強い税理士など多岐にわたります。一般的には、ビジネスの土台(販売・流通・回収・カスタマーサービス)を作り上げていくのに必要な企業や専門家をさす場合が多いです。

※海外(特にアメリカ)では、①代理店(エージェント)②販売店(ディストリビューター)の区別があります。①エージェントは、日本のメーカーを代理して当該地域で手数料をもらって営業活動を行います。メーカー側が価格の決定や発注を直接海外顧客と行い、広告宣伝費や諸経費の一部を負担することもあります。そのためエージェントはメーカーに対して、常に市場動向や販売状況を伝える必要があります。
一方、②ディストリビューターは自身のリスクで日本のメーカーから商品を購入、在庫、販売をし、販売価格の決定権もディストリビューターが持ちます。このため広告宣伝費や諸経費もディストリビューターが負担します。

パートナー企業を選ぶ際は、まずその国の流通形態の全体像を把握し、スーパーマーケットやコンビニエンスストア、ドラッグストア、ECといった販売先がそれぞれどのくらいのシェアを占めているのか、自社と同じジャンルの商品はどの販売先で主に流通しているのかを調べ、適切なパートナー企業を選ぶ必要があります。現地にあるパートナー企業だったらどこでも良いというわけではなく、実績があり信頼できるビジネスパートナーと組むことが成功へのカギと言えます。特に中国は、信頼できるパートナーが見つかれば、半分は成功と言える程重要です。(詳しくは、海外へ販路を拡大したい!#4中国と米国で利益を出すためにはどうやって売ればいいのか?参照)
さらに卸会社の存在も把握しておく必要があります。1次卸、2次卸といった流通経路になっている可能性もあるため、卸売価格を決める際の重要な判断材料になります。

自社

最後は、改めて自社の強みと弱みを確認することです。
メイドインジャパンの製品は今も「安全かつ高品質」といったイメージを抱いてくれる国が比較的多いので、日本企業というだけでも付加価値となり、現地企業と差別化を図ることができます。特に今は円安の影響もあり、今まで「高い」と言われていた日本の商品が、決して高級品ではなくなってきており、調達先を増やしたいと考えている海外バイヤーにとって、日本製品は魅力的です。
一方で、新商品開発力、営業力、決断スピード……など、自社にとって弱い部分はどこなのかも分析し、その弱点を克服するため経営戦略を練ることが大切です。

市場調査の手法と進め方

ここからは海外進出前の市場調査で行う、基本的な「調査方法」について解説していきます。

①インターネット調査

「デスクリサーチ」とも呼ばれ、競合企業や現地の嗜好、市場の動向などを日本国内にいながらインターネットだけで情報収集します。進出先の国で閲覧頻度が高いホームページを読み込むなど、低コストかつ短時間で情報収集できるメリットがあります。しかし調査したデータが不正確な恐れもあるので、他の調査方法と組み合わせるのが良いでしょう。

②アンケート調査

現地の消費者や対象企業などから、直接アンケートに答えてもらう調査方法です。インターネットを使ったアンケート調査は短時間でコストを抑えてデータ集計できますが、国や地域によって向き不向きがあります。一方で、街頭調査、訪問型、電話型のアンケート調査は、直接対象者と会話ができるため、アンケート項目以外にも突っ込んだ質問ができたり、新たな課題を発見できるなどのメリットがありますが、コストや時間がかかるというデメリットもあります。

③店頭調査

小売業を行う業種向けのやり方です。現地のターゲット層が行くようなお店で販売されている商品の価格や競合商品、代替商品などを、調査員が店頭でリサーチする方法です。現地の相場を把握することで、輸出後の適切な販売価格の設定に役立ちます

④体験モニター調査

自社の商品やサービスを一定期間試してもらい、期間終了後にフィードバックを集めることで、商品の使い方や改善点など現地ならではの生の声を集めることができます。アンケート調査やインタビュー調査と組み合わせて行うことも多いです。

⑤インタビュー調査

アンケート調査よりもさらに時間とコストがかかる方法ですが、その分細かな情報まで聞き込むことができます
調査対象者に直接会って1対1で聞き取る方法や複数人のグループで話を聞く方法、インターネットを利用して聞き込む方法があります。
また、日本に在住している外国人対象者に、「自国の生活習慣や価値観、嗜好、日本との違い、流行」などを聞く方法だと、比較的コストを抑えて実施することができます。

⑥覆面調査

「ミステリーショッパー」とも呼ばれています。一般消費者を装った調査員が、商品やサービス、接客、商品知識などあらかじめ用意された項目をチェックし調査する方法です。(目的は違いますが、ミシュランガイドがこうした覆面調査によって作られるのは有名な話ですね)

⑦専門家にヒアリング

進出先の国や地域に詳しい専門のコンサルタントにヒアリングする調査方法です。実際に成功させた経験や失敗事例、豊富な経験や知識から学ぶことができます。

一方、海外の市場調査ならではの注意点もあります。
国内の場合、調査対象者の属性(年齢、性別、職業、収入など)からターゲットを選別することでより効率的で効果的な市場調査を行いますが、海外では、上記属性プラス、人種、地域特性、経済的な地位が調査結果を大きく左右する場合があります。
日本には馴染みのない概念ですが、業職や教育レベルなどから多面的に判断するSES(Social Economic Status=社会経済地位)SEC(Social Economic Class=社会経済階層)という考え方を用いることもあります。
下記は、弊社がアメリカで行った商品の体験モニター&アンケート調査の際の属性項目です。アメリカの場合は、人種と年収と最終学歴は何よりも重要なファクターになります。

モニター調査前の属性アンケート項目

これらの設定項目についてはある程度の知識が必要ですから、専門家に任せることでより精度の高い調査結果が期待できます。

調査にかかる費用やスケジュール

結論から言うと、ケースバイケースです。
上述の日本貿易機構(JETRO)の無料市場調査であれば0円ですし、ミニマムの費用感としては10万円〜が相場とされ、実際に現地のクライアントやマーケットを直接調査する場合は、最低でも30万円~40万円が相場のようです。(ちなみに当社が2015年にアメリカで市場調査を依頼した際の費用、総額3000ドル、納期は約1ヶ月、報告書は200ページほどでした)
さらに見落としがちですが、高額な予算を投じて調査資料をそろえても、その情報を読み解くには知識、分析力、時間が必要です。そのため、ある程度現地市場に明るく、その後の販売戦略、マーケティング戦略、販売・流通・回収・カスタマーサービスの構築などの知見もある企業や専門家へ依頼できるとその後がスムーズです。
ただ、その結果、自社が求める情報や結果にならない場合や、期待していない調査結果によって海外進出を断念せざるを得ない可能性もあります。豊富な資金力がある大企業ならともかく、中小企業にとっては大変痛手な損失となってしまうこともあり得ます。そのような損失を防ぐために、海外市場調査はひとまず最小限の費用で始めたい、という企業が多いのではないでしょうか。その場合は、先述したJETROの無料調査を活用したり、進出を検討している国に在住している人に直接依頼することで大幅に費用を抑えることが可能です。調べられる内容には限界があり調査会社のレポートほど十分ではない場合もありますが、取っ掛かりの調査としては有効ではないかなと思います。

まとめ

市場調査には決して安くない費用と時間がかかります。しかし、海外で事業を軌道に乗せられるかどうかを予想するためには、正しい情報を集めることが何より重要な一歩となります。そして収集した情報を入念に分析して自社の戦略に盛り込むことで、海外進出の扉が開かれると言っても過言ではありません。

ただ、市場調査の結果はあくまでもデータ上の話であって、海外進出は実際にやってみないとわからない部分が多いものも事実です。

当社がアメリカで行った商品(歯ブラシ)の市場調査の結果は、
大人用歯ブラシのニーズは高いが、ベビー用の歯ブラシニーズは低い”
というものでした。しかし、「ニーズは低くてもベビー用歯ブラシを売るんだ」という強い信念をもって「どうしたらニーズを掘り起こすことができるのか」ということに注力した結果、現在のベビー用歯ブラシのアメリカでの売り上げは、大人用の5倍以上となっています。

つまり何が言いたいかというと、市場調査通りにビジネスが進むとは限らないが、自社の海外の販売戦略(Sales strategy)やマーケティング戦略(Marketing strategy)を考えるためには、市場調査の結果を入念に分析して反映させることは、必要不可欠と言えます。

8clickでは、ユーザー企業様の海外進出を支援するさまざまなサービスを展開しております。海外でのビジネスをご検討される際にはぜひお問い合わせください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?