カツアゲにあった話


昔、カツアゲにあった。

当時中学一年生の自分に、同じく中学生くらい(おそらく年上)が突如金を貸してくれと申し出てきた。

しかし、私は今コンビニでパピコを買ってしまったが為、手持ちは十数円くらいしかなかった。
これはあまりに小銭が少なすぎて、出しても殴られるのではないだろうか?
出しても出さなくても殴られる世界線に私は戦慄した。

尚も出すように要求する中学生に、何故か申し訳ない気持ちすら感じながら財布を目の前に出し、ひっくり返して中身を見せた。

……8円。

「えっ」

中学生があまりの少なさに声を漏らした。

「えっ」

私も予想よりも少なかった金額に驚きの声を上げた。
しばらくお互いに気まずい沈黙が訪れた。

しかも、その日は母が迎えに来る事になっていた為、家に電話をする約束をしていた。
その電話代がないという事態に陥っている事にこの時初めて気がついた。
もはやカツアゲどころではない。
何故私はパピコを買ってしまったのか…と己の行動を恨んだ。

なんとなくだがそのカツアゲの人が話しやすい雰囲気を醸し出したので、よかったらパピコ食べます?と半分差し出した。
残金が無さすぎて急に心細くなったのだ。

「お、あ。いや、なんか8円しかないのに悪いな…」

と、むしろ若干遠慮される始末である。
それ程までに私のお財布事情は深刻なのだろうかと、中学生ながらに不安になった。

貰ってすぐに帰るかと思いきや、何故か一緒にパピコを吸い上げる事となった。
不良も一心不乱にパピコを吸い上げては迫力もなにもあった物ではない。
私はアホな子供であったため、口中の全ての空気を無にし、真空にする如く必死に吸い上げていると

「おまえ、まずは手でこうやって揉んで溶かすんだよ。そうすると吸いやすくなるから」

と、パピコを吸うにあたってのご指導までしてくれる有様である。
その面倒見の良さに付け込み

「家に電話しないといけないんですけど、10円玉持ってませんか?」

と聞いてみたところ

「何で金貸してって言った奴から金借りようとしてんの?」

と、至極真っ当な答えが返ってきた。

パピコあげたじゃないですかと言うと、まるで見た事のない変な虫を見た時のような顔をしていた。既視感があると思えば、コウガイビルを始めて見た時の友達の顔と酷似していた。

あの時のコウガイビルの気持ちが少しわかった気がした。

しかし困ったと、事情を話したところ、物凄く深いため息の後に、そっと10円玉を差しだしてくれた。
有難うと大喜びでお礼を言い、母に電話をし、すぐに返すから待っててくれと伝えると

「えぇ?…いいよ。帰るわ」

と、帰ってしまった。
カツアゲに見捨てられてしまった。

その後、カツアゲにあったと友人に告げると、大変驚いて先生に言いに行こうと言ってくれたのだが、カツアゲにあったが10円を貰って帰宅したという何故か利益を上げている結果にどう説明したら良いのか分からず、結局大人には伝えなかった。

母に言おうものなら、パピコに電話代を使った事実が判明し余計に怒られてしまうのでこれも言えない要因の一つであった。

昔、カツアゲをしたらむしろ10円を失った事がある者はご連絡頂きたい。
なんかすみませんでした。



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