暑さ対策の便利家電を使用したら顔を覆う危険な事故が起きた話

自然の物を使ってあるイベントの看板を作る事になったので素材集めを手伝いに行った。

会場に戻り、集められた大量のたんぽぽを受け取りダンボールに入れようとした所、室内の暑さに耐えかねたバイトの佐藤が卓上扇風機のスイッチをいれた。
その瞬間、風がたんぽぽに直撃し、綿毛たちが一斉に私の顔面に襲いかかってきた。
たんぽぽは先程まで外で作業をしていた私の汗をかいた顔面に張り付くだけでは飽き足らず、呼吸器官を的確に突いてきた。

特に喉に直撃したたんぽぽが私を苦しめている。
焦ったバイトの佐藤が私の産毛と化したたんぽぽを吹き飛ばそうと扇風機を近づけた為に事態はより悪化した。
すぐさま異変を察知した周囲の者が大丈夫かと駆け寄り安否を訊ねてきた。
大丈夫な訳があるまい。
たんぽぽと佐藤に息の根を止められそうである。

風の出所の全て消してくれと伝えたかったが
「全てを すぐに消す」
と、たんぽぽ襲来により短縮され物騒な発言となった。
しかも、風圧により扇風機の前で言葉を発した時のような宇宙人ボイスとなった為、今にも地球を侵略しそうな雰囲気が出た。
圧倒的科学力を駆使した恐怖の襲来の予感脳裏を過った事だろうが、安心してほしい。
その宇宙人は今たんぽぽにボコボコにされている。

私はトイレへ顔と口を濯ぎに向かったが、何故かトイレの前でカップルが別れる別れないと喧嘩をし私の行手を阻んでいる。
しかし、私の姿を見るや否や二人の会話は途絶えた。
ピンクの生肌の雛にまばらに産毛が生えかけている状態を想像してほしい。
その人間バージョンである。
紅潮した顔面に綿毛を生やした者が目から鼻から色んな水分を放出させ目の前に佇んでいる。
多様性に富んだセサミストリートでも決して許されないであろう佇まいであった。
お取込み中に、孵化して日の浅い幼体のビックバードお見せした事を謝罪したい。

顔を洗ったが、今度は前髪が水で張り付き悲惨な有様となった。
タオルを取り出そうとしたが、先程の部屋に置いてきてしまった為、私はなるべく気配を消してトイレから出る事にした。
しかし、カップルはまだおり、男の方が私を見ると喉から奇怪な音を発した。

話を聞けと彼女が怒っていたが、男の視線を辿り彼女の顔がこちらへ向くと、そのまま停止した。
先程のハゲ散らかした綿毛人間が、今度は湿り気を帯びて佇んでいる様を目撃してしまったのだ。
このままでは警備員が呼ばれかねない。
私は必死にたんぽぽの件りを説明しようと口を開いた。
「体内にたんぽぽが…入っ……ヘァッッ!!」
途中で言葉が途切れた為に身体にたんぽぽの種子を埋め込まれ自我を失っていく過程を描いたシーンのようになった。
因みに最後のウルトラマンのような奇声は鼻腔にたんぽぽの気配を感じたが故の私の呼吸の成れの果てである。
ヘァッッ!!のあたりは特に二人は怯えた目をしていた。
不気味さしかない出会いであった。

私は弁解を諦め、その場から逃走した。
奇妙な声かけをして逃走する不審者の出来上がりであった。
相手が小学生で屋外でならば、確実に連絡網で回される案件であった。

扇風機やサーキュレーターを使用する際は、近くにある物をよく確認し、作動しなければ地獄を見る事になる。
お子さんがいるご家庭は特に気をつけて頂きたい。
たんぽぽは、ああ見えてヤバい。

【追記】
素材集めの時に私は帽子を忘れ、薄手のパーカーのフードを被り作業をしていた為、先端の葉をもがれたピクミンのようなフォルムで葉などをかき集めていた。
葉を拾い見つめる様は、もがれた己の葉に想いを馳せるピクミンの哀愁が漂っていたと、バイトの佐藤は後に語った。 

しかし、鳥の雛とは可愛らしい存在であるが、同じ条件の佇まいとなった際に人間だと恐ろしさがでるのはなぜだろうか……。


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