やーこ
数人に囲まれ危機を迎えた話

数人に囲まれ危機を迎えた話

やーこ

猫を動物病院へ連れて行く途中、近くで現在の政策に対してメッセージを送るビラを配っている人達がいた。

私にもビラを渡しに来たのだが、両手は猫で塞がっている為受け取れない旨を伝えようとしたところ、太ももから臀部にかけて激しく攣ってしまった。あまりの痛さに「うおぉ…」地の底からうめくような声が漏れた。

しかも、痛くないところを探すように身体が意思とは無関係に捻れていく。
目の前で突如捻れ出した不審者にビラを配っていた人々も動きを止め緊張感漂うなか様子を伺っている。

不審者ではない事を伝えようと口を開いた矢先、攣った箇所を緩和させようと腰を捻った為に反対側の脇腹も攣ってしまった。
何故、一度攣ると被害は拡大していくのだろうか。

私は左右に捻れ現代アートのような立ち姿となり、痛みが去るのをただ静かに待つ事しかできない。

政治運動の集団に囲まれ、険しい表情で体を捻り猫を掲げる様はまるで団体の理念を象徴するようなポーズとなり、
此処に「猫を掲げる悪政に苦しむ市民の像」が君臨した。

攣るという事は実に孤独であり、周りのビラ配りの人々も何もすることは出来ない。
なんとか、攣りが解けてきたところで
それでは…と一言声をかけてから動物病院へ逃げる様に入館すると、そこの自動ドアは透明なので受付の人に先ほどの悪政に苦しむ像は見られていた。
(覚悟はしていたが、あの捻れてる奴やっぱりこっちに来た…)
と、絶望に近い気持ちで思った事だろう。
事情を説明したところ追い返される事なく笑顔で受け入れてくれたが、顔の筋肉だけで笑っているのが伺え、受付の仕事の大変さを知った。

そして、もし此処が街中ではなく彫刻の森ならば多少捻れたくらいではここまで悪目立ちはしなかっただろうと思いを馳せた。

診察の準備が整い名前が呼ばれたので猫を抱え椅子から立とうとした矢先、またもや悲劇が私を襲い「猫を抱えた医療費に苦しむ市民の像」が君臨してしまった。
「円盤投げ」の彫像をご存じだろうか。
円盤が猫になり、片手ではなく両手で持っているところを想像して頂きたい。
本日二作目である。

いつまでも入室しない事を不審に思ったのか先生が扉を開けた為、先生と看護師達はその像を正面から鑑賞する羽目になった。
開いたと思った扉は瞬く間に閉められた。
あまりの光景に心の準備が必要だったと後に先生は語る。
数秒後、気持ちに整理がついたのか扉は再び開かれたが、そこには先程まで捻れていた者が何事も無かったかのように真顔で立っていた為、それがまた何かに触れたのか先生は謝りながら再び扉を閉めた。
どうか、失礼だと怒らないでやってほしい。
この場面だけ切り取ると非常に変な先生に見えるが、普段は普通である。

襖を開けたら機織りしている鶴がいて、驚いて閉め再び開けたところ真顔の人間が至近距離で立っていたら大抵の者はとりあえず再び襖に手を掛ける事だろう。

さぞかしキャリーバックに入っていた猫も不審に思った事だろう。
因みに肩がけもした上で持っているので猫が地面に落下する心配はない。

しかし、妙に気に入ったのかあの後猫はいつもより頻繁に私によじ登ってきた。
可愛いので猫の要望に応え危なくないよう低めに抱っこし捻れていたところ、運悪く父に目撃され
「お母さん、やーこの様子が変だ」
と、胸の内に留めてくれればよいものを何故か母に報告していた。
ちなみにもう1匹の猫はその様をずっと訝しげな目で見ていた。
君たちの飼い主はこんなものなのだ、お互い仲良くやっていこうじゃないか。

因みに、ここの病院へは今もお世話になっている。
この受付の人は、前に治療以外にも急遽ノミダニ予防の薬を買おうと思い立った為に手持ちがギリギリになり、帰りに
「大丈夫ですか?なけなしになって」
と心配してしてくれる心優しい人である。
このご時世「なけなし」を心配される事があるだろうか。
途中身包み剥がされる事なく、私は無事に猫と共に帰宅した。

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