日本で海外の人と接したら文化の違いから危険な目にあった話

バイト先の児童館に外国から来た幼児親子が現れた。

ボールプールの部屋を借りたいらしく「この部屋は15分間使えます」と伝えたいが、職員は電話対応中であった。
私はゴルゴ13がサーティンであるから、15は…と連想させたが実際口から出てきたのは
「ゴルゴリミット」
と、数字の部分を全て投げ捨てたものであった。
私の英語力が無であった為にゴルゴに限界が訪れてしまった。

ゴルゴの危機だけが伝わり、肝心の時間に関しては何も伝わらない。
英会話は諦めボディーランゲージに振り切り
「I'mオクロック」
と、一声かけ私は時計に擬態した。
しかし、片腕を上げて直立しているところから15分を指す長針として曲げるのは上半身でなく腕だけにするべきであった。
見つめながら一刻みずつ徐々に上半身が折れ曲がっていく気持ち悪いスタッフと化した。

職員は電話対応中であったが、私のI'mオクロックが網膜に直撃したため、事務室で奇声を上げ、電話先に謝罪をしていた。
私がこの親子の立場ならば、言葉の壁に向こう側に心の壁を増築する事だろう。

自分は時計だと宣言し、時を告げる代わりにゴルゴの危機を告げ折れ曲がっていく不気味なスタッフから早く逃れたい……そんな気持ちから相手の理解力が急激に向上したのか意外と伝わった。
ボールをプールに流し入れる際、私は少しでも子供に盛り上がって貰おうと、効果音を入れた。ここは異国情緒に乗っ取り
「ジャジャーン!」ではなく
「デデーーーン!」と発する事にした。
しかし、イントネーションが尻下がりになってしまった為、年末のガキ使のアウトの音と酷似してしまった。
気が付かず連呼していた為、職員は書類の山に追われていたというのに頭の中で
「浜田、アウト」
が頻繁に鳴り響いた。
この時ばかりは「あのオクロック野郎いい加減にしろ」と思った事だろう。
非常に集中力を欠かれたと後に語った。

しばらくすると、その母親にやむを得ぬ事情で子供を見ていてくれとボディーランゲージで頼まれた。私よりも数万倍上手いボディーランゲージであった。
母が去ったあと、子供は微妙に人に慣れていない猫の距離でこちらを伺っていた。
緊張を解く為、私は幼児用のオモチャのスイッチを押し音楽を鳴らし踊った。
意外にもこれが受け、子供も踊り出した。

本物の音楽が確かにここにあった。
館内の温度は急上昇し、そのダンスステージを大きく揺らした。
ふと部屋の入り口に視線を向けると見知らぬ親子と職員が呆然とこちらを見ていた。
異国の親子の他に、初めて館内利用する親子が来館し職員が各部屋を案内していたのだ。
私の体温は急降下し、その心臓を大きく揺らした。

思わず私の顔から表情は消えたが、曲はまだ止まっていない。
真顔で顔だけを停止させ身体は微妙に踊り続けたまま見つめてくる大人の図がこの保護者と職員の前に繰り広げられた。
本来この部屋は幼児ルームであるが、不気味なスタッフが踊り狂う場所だと認識された事だろう。
まさか長く在籍しているバイトのスタッフが営業妨害の限りを尽くした暴挙をお見舞いするなどと誰が思おうか。
真の敵とは内部にいるものである。

クビになるかもしれないと脳裏に過ぎった。
こんなにも心が重いアンパンマンのマーチは初めてであった。

このような事態を避ける為、互いに何かしらの翻訳アプリなどを知っておくと良いと思った。

【追記】

帰り際、母親が
「アリガトウゴザイマス、ウレシイ」
と、言い握手してしたくれた。
不気味なスタッフでしかなかったが、熱意は伝わったようであった。
一方その子供は私の足に絡まっていた。
「ハーメルンの笛吹きの才能があるよ」
と、職員は褒めているのかいないのかよく分からない言葉を私に投げ掛けた。
笛ではなく奇妙な踊りで子供を拐っていく様は、見かけた瞬間とりたえず撃たれそうだと思った。

あとは職員からの「I'mオクロック」と「デデーン」に対する苦情のあらしであった。

奇妙な踊りは許されたようであった。


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