夜道で男に背後を取られ危険な目にあった話

犬が夜道でも安全なよう七色に光りを発する首輪を友人から貰ったが、犬が装着を拒否した為、私が首に付けて散歩する事となった。

しかし、接触が悪いのか、首輪は点滅したのち、早々に光を失ってしまった。
更に犬のトイレ袋を忘れてしまい、犬を家に戻した後に急いで道に回収しに行き、帰宅しようと振り向くと男が私の後方に立っていた。
よく見れば男は、下半身のチャックを開け放ち身体の一部を露出させていた。

最近また露出狂が出ると近所で囁かれていたので「ついに出会ってしまった」という意で言葉を発したが
「ついに会えた……」
と、生き別れた兄弟との感動の再会のようになってしまった。
数秒停止した後、露出狂は「…え?」と言葉を漏らした。
その瞬間、私の首輪が再び光を取り戻し輝き始めた。

接触がこのタイミングで戻ってしまった。
露出狂を目前に満を持して光りだしたようになってしまった。
露出狂は酷く狼狽えた顔をした。
今や不気味な者を見る目で露出狂に見られているが、決して私の一存で光っている訳ではない。
私は一先ず
「落ち着きましょう」
と声をかけたが、七色に発光する視覚的に一番落ち着きのない者に言われたところで説得力が生じる事はなかった。

私は若年性認知症か何かで男が露出をしている可能性も加味し、まず危害を加える気はない、話をしようではないかと言葉を発し近づいた。
しかし、首輪により顔が下から七色に照らされているうえに、謎に笑顔で犬の糞をとる金具を片手に詰め寄る様は、露出狂の精神に得も言われぬ恐怖を芽生えさせた。

露出狂の顔は恐怖に染まった。
私が怖がる必要はないと示す為に発言した「悪いようにはしないですから」という言葉が仇となり、露出狂は逃げだした。

しかし、露出狂の足取りがおぼつかない。
酒に酔っているかのようであった。
このままでは転倒し頭を強打してしまうかもしれない。
すると、前方を近所の正義感の強いオヤジが
がこちらに向かい歩いていた。
私はオヤジに、この男が露出狂であり尚且つ足取りが危ないので捕らえて欲しいと応援要請を試みたが、オヤジの目には決死の表情で逃げ惑うちょい出しの露出狂と

「出てますよ!出てますよ!危険ですよお!」

などと叫びながら七色に顔を発光させ走り迫る正気の沙汰とは思えぬ者が映しだされた。
これが私が今出せる限りの応援要請であったが、露出狂のチャックが開いているのに気が付かなければ、私の方が危険度が遥かに高く見える事態となった。
前方の正義感の強いオヤジが顔見知りであった為に事なきを得たが、ここが知らぬ土地であったら真っ先に私が捉えられていた可能性すら浮上している。

露出狂は捕まった。
やはり酒に酔っていたのか呆気なく捕まった。
これから私とオヤジと露出狂の、警察署での長い夜が始まる事だろう。

蝉声の響く薄暗い夜道の中、私の顔だけが七色に照らされていた。


【追記】
警官が到着すると、首輪は再び光ったり消えたりと点滅を繰り返した。
しばらく警官と話をした後
「……とりあえず、それ外します?」
と、首輪について控えめに言及された。
どうやら気になって仕方がなかったようであった。
何故それを付けているのかと訊かれ
「犬が嫌がったので代わりにつけてます」
と告げると警官の一人は急に下を向き、何かを書いていた手を止め小さく震えていた。


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