見出し画像

僕ら2人は、”時間”と対峙すべきか、身を委ねるべきか

 この気持ちの高まりは、僕らの物語がエンディングに近づいていることを予感させるからだろうか。

 ふと、自分の感情が信じられなくなる。僕を本当に支配するのは、愛しさとか恋しさとか、そんな聞こえの良いものではなく、恐れなんじゃないか、と。僕はその恐れから逃れるように、隣を歩くガールフレンドに「かわいい」と言う。その度に、彼女ははにかむ。その顔を見て、僕はもう一度「かわいい」と言うと、今度は彼女が僕の手をキュッと強く握るので、僕は優しく握り返す。そんなことを繰り返しながら、いまの僕らのデートは終わっていく。僕の心は満たされていくと同時に、ドロドロとしたものが溜まっていく感じがする。

 僕らがいくら変わらないと誓い合っても、時間は進むし、それに伴って環境も変わっていく。僕らの世界はどこまで行っても、2人だけの世界であり、そこで通用する言語は世間に触れた時に一瞬に消えてゆく。「ずっと」だとか「変わらず」だとか、彼女の言葉が愛おしく、そしてとてつもなく切ない。僕は「在り続ける」ことを努力する以上に、「変化してしまう」ことに対する恐怖が強いのだ。そんな僕は、”時間”という絶対的な力の前に屈服してしまうのではないか。堂々と抵抗する意思を見せる彼女の姿を目の当たりにして、僕は改めて彼女の強さを身に染みて実感するとともに、心の中で彼女に感謝をした。

「”変わらない”と努力するのではなく、僕らも時間の流れに身を任せて自然に変わっていくことができればいいね」

 先日、僕が語った言葉に彼女はどのように返事をしただろうか。記憶を必死に遡っても、その言葉の断片すらも見つけることができない。僕自身、”時間”と対峙する方が正しいのか、それとも身を委ねる方が良いのか分からない。当分の間は、この難問と向き合うことになりそうだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?