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型が身につく鍼灸臨床 -導入編-

 はじめまして。鍼灸師の松浦知史と申します。これまで学んだことや臨床で感じたことなどをnoteに綴ろうと思い始めました。以下のような方に向けて情報を発信できればと考えています。


✓ 対象は鍼灸学生~若手鍼灸師向けとなります。
✓ 鍼灸師として成長したい方に適しています。
✓ どのように学んでいけばいいのか解説します。
✓ キャリアの築き方について触れていきます。



はじめに

鍼灸臨床の本質とは?

 私も鍼灸師になって8年目に突入しました。鍼灸臨床の世界に入り込み、がむしゃらになって働いてきました。臨床で教えられること、感じることはたくさんありますが、鍼灸臨床の本質を表している一語を挙げるとするならば、それは"混沌"です。
 道を切り拓いてくれた先人たちもこの混沌に立ち向かい、ある程度の道筋を示してくれました。これは言わばマニュアルや攻略本といったものですが、これさえあれば鍼灸臨床は手中に納まるわけではありません。私も臨床で分からないことがたくさんあります。何度も失敗を経験し、その都度なにが問題であったのか考えるようにしています。

「分かる」 「分からない」 「分かったつもり」

 分からない事態と対峙したときに、すぐに「分かる」ことと、考えたり調べても「分からない」ことがあります。私どもは幼い頃から、できないことができるようになり、分からなかったことが分かるようになり、学校や社会はこれを成長や評価の基準としてきました。一方で、考えても答えの出ないことはたくさんあります。現代は、まとめ記事やマニュアル本など、「分かる」ことに照準を合わせた情報に溢れていますが、これらを手にして「分かったつもり」でいるのが一番深刻な状況なのかもしれません。
 分からない状況やなかなか上達しないときに、「なにが原因なんだろう?」と原因を探ったり、工夫をしますよね。このようにすぐに答えの出ない問いを考え続ける能力を「ネガティブ・ケイパビリティ」と言います。

 ネガティブ・ケイパビリティについて非常に分かりやすくまとめられたコラムのリンクを貼らせていただきます。

出典:関西ビジネスインフォメーション株式会社 様

鍼灸臨床の道標でありたい

 今回お話しする「型が身につく鍼灸臨床」も決して正解を導いたものではなく、マニュアルや攻略本でもありません。しかし、私自身も悩み考え続けて「分からない」ことを「分かる」ように努力してきました。その「答えのない問い」に対して向き合う過程を「見える化」したのが今回お話ししようとしている内容で、これから鍼灸師として成長したい方にとって混沌を照らす道標であってほしいです。

鍼灸師の臨床力が問われている

鍼灸業界の問題点とは?

 『鍼灸学系大学教育モデル・コア・カリキュラム』では、鍼灸師の臨床力が問われています。それは、就労鍼灸師および鍼灸施術所は増加の一途をたどっているものの、国民の鍼灸療法の年間受療率は4.9%(2020年)と、それ以前の7.5%前後に回復する兆しは見られていないからです。医療の市場は、医療機関へのアクセスがよくなると需要が増えると言われていますが、鍼灸の市場ではそうとはならず、逆に受療率が低下してしまいました。その原因は複数の要因が絡み合っていると考えられていますが、要因のひとつとして鍼灸師の臨床力の低下が指摘されています。医療の特性として、質の高い鍼灸臨床を提供することができれば受療者は増えるはずですが、そうでなければ減ります。つまり、鍼灸師の臨床力の低下がこの問題と直結していると考えるのが妥当だと言えます。

鍼灸師に求められる臨床力とは?

 さて、「鍼灸師に求められる臨床力」とは一体なんでしょうか?私自身も考えましたが、答えは分かりません。それが分かっていれば、すでに鍼灸の市場規模は拡大し、国民受療率も向上しているはずだからです。2022年の衛生行政報告例の概況によると、就業はり師は13万4,218人、就業きゅう師13万2,205人、鍼灸療法を提供する施術所は7万2,575か所ほど存在しますが、これだけの数があっても太刀打ちできなかったわけですから、一介の鍼灸師が悩んで考えても到底答えが導き出せるわけがありません。
 だからといって、諦めることを推奨しているわけではありません。不確かなこと、なかなか答えが出ないことを無理に解明しようとせず、不透明な状況下であっても、その状況に耐えながら今できることを積み重ねていくことが重要です。先にも述べたネガティブ・ケイパビリティですね。

コア・カリキュラムの卒業時における到達目標の柱について

 ここでは「4年制大学卒業時には、どんな鍼灸師を卒業させたいか」をテーマにグループディスカッションを行い、3つの到達目標を定めました(図1)。

図1

 鍼灸師に求められる能力が多岐にわたることが分かります。必要な基本的要件(コミュニケーション能力と高潔な倫理観、幅広い知識と対応できる能力)と基本的な鍼灸診療能力と技能を有する鍼灸師が増えることが望ましく、国民もそうした鍼灸師を求めています。その期待に応えるべく日々努力することが今の鍼灸師には求められているのではないでしょうか?

 次回は鍼灸師の臨床力向上に向けて基本的な診療能力ともいえる「鍼灸医療面接」についてお話していきたいと思います。

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