出版社が小説投稿サイトを作るメリット

 メリットは大きく分けて3つあると考えられる。

  1. 新しい才能の発掘

  2. 既存プラットフォームに依存しない収益モデルの構築

  3. 企業のブランドイメージ向上 

①新しい才能の発掘
 現在の文芸において、新しい才能を発掘する手段で一番代表的なのは、新人賞だ。しかし、新人賞を募集する文芸誌の発行部数はもはや数千部であり、極論を言えばほとんど誰も読んではいない。少年ジャンプの新人賞であれば、受賞者の作品が少年ジャンプに乗ることで、新人作家にとっては莫大な広告効果になる。しかし、そもそも発行部数の少ない文芸誌に載ったところで、新人作家の広告効果はほとんど無に等しい。つまり、文芸誌の新人賞で新しい才能を発掘することはもはや形骸化しており、一刻も早くインターネットに特化した才能発掘システムを構築する必要がある。例えば、現在でも小説投稿サイトに投稿された作品を編集者が発掘し、それが出版につながるケースは多い。しかし、それらは編集者個人の資質に左右される部分が多く、システムとして完成されているかというと疑問の余地が残る。それをシステム化するためには自社で小説投稿サイトを運営し、小説投稿サイトと文芸編集部が一体化することで、新しい才能発掘のプロセスをシステム化するしかない。そうすれば、編集者個人の実力に依存せず、再現可能で持続可能な才能発掘システムが構築されるはずである。

②既存プラットフォームに依存しない収益モデルの構築
 現在の出版社の収益モデルは、大きく紙の本と電子書籍に分けられる。紙の本は印刷会社や書店流通を通し、書店にて販売されるが、この流通システムを用いることができることは、ある種出版社が持つ特権と言える。しかし、近年紙の本の市場は縮小傾向にあり、収益モデルとしてはもはや機能していない。そこで登場したのが電子書籍市場である。電子書籍の市場は現在でも拡大傾向にあり、紙に代わる収益モデルとして出版社の経営を支えている。しかし、電子書籍市場においては、AmazonやAppleのような多国籍企業がプラットフォーマーとして絶大な影響力を持っており、出版社はプラットフォーマー側の意向に従わざるを得ない。また、漫画といったコンテンツはこの電子市場において出版社は利益を上げることができるが、雑誌をはじめとしたメディア系コンテンツはYouTubeやSNSの台頭によって、その発行部数を落とし、収益額も低下傾向にある。そのため、出版社は自社でプラットフォームを運営し、より安定した収益を確保していく必要があるのだ。そして、そのプラットフォームとして最もコストが低いと考えられるのが、小説投稿サイトである。

③企業のブランドイメージ向上 
 基本的に読者はコンテンツがどこの出版社から発行されたのかを気にしない。しかし、少年ジャンプのように突き抜けたブランドを持つと、作家はその出版社で本を出したいと思うし、読者もどのブランドの新作なら面白いだろうと手を伸ばしてくれる。しかし、集英社や講談社といった大手出版社は別として、中小の出版社にはそのような強力なブランドがない。だからこそ、強い作家を発掘することができないし、大手出版社で売れている作家を引き抜いてくることしかできなくなる。だからこそ、小説投稿サイトを作るべきなのだ。今まで大手出版社のみに集中していた新人作家を、小説投稿サイトを作ることで自ら発掘していく。小説投稿サイトは今でもいくつかあるが、出版社の強みは自社IPを持っていることである。自社のIPを小説投稿サイトで連載したり、小説投稿サイトの宣伝に使うことで、小説投稿サイトの空間作りをより円滑に進めることができ、なろう系に偏りがちな小説投稿サイトの中で差別化することができる。小説投稿サイトを利用してくれるユーザーはクリエイターであると同時に、出版社の存在を知ってくれる読者なのだ。


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