サンタクロースが消えた夜
「お父さん。本当のことを教えて欲しいんだ」
小学3年生になって間もない息子の一言だった。壁に向かって横になる、息子の背中にただならぬ気配を感じた。
いつもの夜が、特別な夜になるとは。
「本当はサンタクロースはいなくて、今までのプレゼントはお父さんやお母さんが用意してくれてたんでしょ?」
ビールを飲んで今日1日が終わろうとしている父に、その酔いを覚ますには十分な一言だった。
(さて、何と答えるべきか)
何故、こんな時に深読みしてしまうのだろう。
何故、正解を探してしまうのだろう。
何故、息子がそんなことを聞いてきたのか。
考える前に、答えを探していた。
本当のことを伝えるべきか。
まだ3年生の息子に夢を見させるべきか。
ほんの数秒が、
これまでの人生を振り返らせるようであった。
果たして、自分はいつサンタクロースを求めなくなったのだろう。
明らかに母の文字で、
「今年は忙しくてプレゼントを用意できなくてごめんね」と、
3個入りのプリンが置いてあった朝なのか。
それとは違う、特別な夜があったのだろうか。
一体、いつなんだろう。
父が遠い昔に忘れてしまったその日を、
ついに息子が迎えたのだ。
答えのない質問に、
答えを求めて考えを巡らせる。
悩む父を前に息子は眠りについた。
明日、どう答えるべきか。
サンタクロースが消えた夜。
答えのない、答えを探す。
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