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企業価値担保権、成立までの道のり_vol.3 データで見る担保提供と倒産の関係

令和6年6月7日に成立した「事業性融資の推進等に関する法律」は2026年内までの施行が予定されている。
7月11日に金融庁ホームページに公表された「我が国における事業者の持続的な成長を促す融資実務とその影響に関する調査研究」を見ると、帝国データバンクによる数字の分析が主に2つの点について行われている。
「取引行数について」と「担保の種類について」である。

取引行数とは、文字通り会社が取引を継続している金融機関の数であり、2022年度では1行取引が48.6%、2行取引が26%、3行取引が12.7%と減少していき、6行以上と取引のある会社は3.7%である。(帝国データバンク調査)
相手方となる金融機関は、メガバンク、地銀、信金・信組、政府系金融機関と様々あるが、1行から2行と取引でほぼ4分の3の割合となり、大多数と言える。
取引行数が増えれば、その分支援が受けられると考えることも出来るが、業績悪化場面で、取引行間の利害調整が難しいというデメリットがある。
これが実際倒産という最悪の局面でどのような数字として現れてくるかである。

我が国における事業者の持続的な成長を促す融資実務とその影響に関する調査研究 15頁
株式会社帝国データバンク

1、2行取引の会社は、3行以上の取引のある会社と比較し、倒産割合が半分以下とのこと。
分母となる会社の数は当然1、2行取引が多いが、割合で見れば明確な差があることがわかる。
一番左の「基準年」は2012年~2017年において「最初に低迷期を迎えた年」でこれは「売上高平均で直近2期が過去5期の80%未満」と定義されている。
そしてその1年後に爆発的に倒産が起こっている。

つまり、2割売上が減った年度が2年続けば、倒産回避のための策を講じなければならず、それが失敗すれば倒産に至るということである。
この割合が3行以上と取引を行う会社においては、倍以上のリスクとして数値に現れている。
また、6行以上と10行以上に分けた場合、割合は上がっていく。
金融機関であるので借入先(デット)となり、スタートアップのVCのような株式保有(エクイティ)ではないため、メインバンクが不在で、取引行が増えれば増えるほど利害関係が複雑化していき、業績悪化の際の対応が遅れることは想像に難くない。

企業価値担保権においては、企業価値担保権者は、会社と企業価値担保権信託契約を交わす受託者1社と考えられるので、多行取引の弊害は軽減されると考えられる。

次に不動産を担保提供をしている会社と倒産の関係である。
基準年(低迷期、上記と同じ定義)において、不動産を担保としている事業者の割合はなんと9割以上とのこと。

我が国における事業者の持続的な成長を促す融資実務とその影響に関する調査研究 14頁
株式会社帝国データバンク

更に、倒産との関係を示すデータが以下である。

我が国における事業者の持続的な成長を促す融資実務とその影響に関する調査研究 24頁
株式会社帝国データバンク

売上2割以上減が2年続いた低迷期基準年の1年後、高い割合で倒産が起き、不動産担保提供している事業者がそうでない事業者の約2倍の割合で倒産している。
これは抵当権の実行により資産を失うこととなり、更なる業績悪化を引き起こすことによると考えられる。
我々司法書士も日常当たり前に抵当権設定登記を代理しているが、この数字を見ると物権の強力な効果について考えさせられる。

企業価値担保権においては、重複する抵当権等の実行が禁止されており、この点についても手当てがなされている。

制度上は、企業価値担保権は現行の金融機関融資の問題点を解決する希望が見いだせるものと言える。
しかし、現実的な運用に至るまでの道のりはまだ遠いと言っていいだろう。

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