【読書記録】『AX アックス』
伊坂幸太郎『AX アックス』(角川文庫)
2020/2/21
殺し屋を引退したくなった殺し屋(妻子あり、なお恐妻家)の物語。片面的スパイファミリー。
AX(アックス)ってなに?と思ったけれど、言われてみれば斧だった。『All you need is kill』のバトルアクスのことを思い出した。
最初はなんの話?とあらすじに戻ってしまい、やっぱり分からず読み進めるしかなくなってみれば、裏では業界内で有能な殺し屋が表では妻対応マニュアルまで作る恐妻家という設定で、事あるごとに妻への対応を考える様子がなんともシュールな笑いを生む。気付けば寸暇を惜しんで読み進めてしまっていた。
平凡なサラリーマン家庭の男が、専業主婦の奥さんのご機嫌をうかがってダイニングテーブルで所在なくしている姿が目に浮かぶ、そんなほのぼのとした日常が描かれているのに、それが、殺伐とした殺し屋の非日常と違和感なく共演している。“裏で殺し屋”をここまでリアルに描く作品はなかなかないのでは。
それでいて、父親としての何気ない愛情と優しさを感じる、家族の暖かい物語。ラストに胸が締めつけられない人はいないはず。
伊坂幸太郎らしい、じんわりと心温まるいい話。もう一度読むのは大変だろうけれど、とても好きになった。
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