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選択するということ②


是非、まずはこちらを読んで頂きたいです



ここまで高校サッカーにおける多くの要素を並べてきたが、これらをすべて含めて「実力」というのである。

何でもそうかもしれないが、高校サッカーにおける実力は、もちろん運やタイミングも重要な要素である。

はっきり言って自分は実力不足だった。

それなのにずっとそんな自分を受け入れることができずにいた。

1年生の頃から成長していなかった。

いや1年生の自分より劣っていた。

練習が終わってから、
ナイターの明かりで照らされ静寂に包まれた、
どこか神秘的なグラウンドで何度も想像した。

選手権、県予選決勝、スコアは0-0、アディショナルタイム残り1分。

ラストワンプレーで自分の目の前にボールがこぼれて転がってくる。

左足で持ち出してカットインしてシュート。

ファーサイドネットにシュートが突き刺さる。

鳴り響く歓声。

自分の名前を叫ぶ応援団。

チームメイトと抱擁して喜びを分かち合う。

そんな瞬間を何度も何度も想像した。

ただ、その躍然たる想像の世界と自分に置かれている閑散な現実の世界が遠くて虚しくなった。

入学当初、あれ程あった自信もいつからか諦めに変わっていた。

だがしかし、そんな自分に突然、最後のチャンスが舞い込んだ。

リーグ戦にスタメンで出場できるようになった。

監督が求めるように、とにかくスピード勝負で縦突破をした。

今までの中では一番感触が良かった。

ただ、例によって僕の緊張が解けることはなかった。

何試合かスタメンで出場が続いて迎えたある試合で、
僕はとにかく調子が悪かった。

一回ミスをしてから焦って同じようなミスが続き、
やがて消極的なプレーをするようになった。

あれだけ縦突破と言われていたのに、後ろ向きなプレーをしてしまった。

開始から20分も経つことなく、すぐに交代させられた。

「何だ今日のプレーは」

と言われた。

その一言だった。

「あー、おれのせっかく掴みかけたラストチャンス完全に今、逃した。」

終わった、、

と思った。

ラストチャンスという具体的な物体があるとしたら、
間違いなく掴み損ねて地面に落ちた音が耳に届いた。

その頃、季節は夏に差し掛かり、
学校生活ではいよいよ進学先を見据えてクラス全員が受験勉強という四文字に向かっているようで追われる日々だった。

クラスメイトで部活をやっていた友達は何人かいたが、徐々に減っていき、ついに一人取り残された。

私立のスポーツ校であったので、優先順位としては部活の方を高い位置に置く人間が多く、その代表格であったサッカー部には本気で勉強している人はいなかった。

だからこそ
「勉強していてもやれることを証明してみせる」
というプライドのようなものもあったし、負けてたまるかという想いもあった。

特進クラスであったので、担任からは国公立大学に進むことが全てだと耳にタコができる程言われていた。
(全然関係ないが監督の口癖は"タコ"だったなあ)

毎日のように、

「部活はやめろ」「将来について真剣に考えろ」

と強く言われていた。

それでも初めのうちは反抗して、
自分はサッカーをやるためにこの高校に入学してきたから文武両道を実現してみせると言い張っていた。

ただ次第に、勉強の成績もサッカーの調子も上がらず、最後のチャンスを逃したと思っていた自分は、部活を辞めるべきなのかもと考え始めた。

そこから2か月くらい毎日とにかく悩んだ。

こうやって振り返ると自分の人生悩んでばっかりじゃん

  1. サッカーを続けたら受験を失敗するかもしれない、また当たり前だが、サッカーだって今後活躍できる保証はない。

  2. サッカーを続けて、サッカーは活躍できても受験に失敗するかもしれない。

  3. でも、もしかしたら、サッカーを続けてサッカーも受験も成功するかもしれない。

  4. いや、サッカーを続けて、受験だけ成功するかもしれない。

  5. 違うそれはない、サッカーを辞めても受験を失敗するかもしれない。だったらサッカー続けとけばよかったと後悔するかもしれない。

  6. 違う違う、サッカーを辞めて国公立に進学できるかもしれない。国公立に行けなくても間違いなく勉強には専念できるため、少しでもいい大学には行けるかもしれない。

様々な可能性を考えだしたらキリがなかった。
だって全部やってみないと分からないことだから。

ただ、当時の自分にはその選択をすることが何より苦しかった。

将来の夢として、人生をかけてやってきたものを
安定した将来のために捨てるという選択を迫られている現実が酷だった。

どの道を選択しても絶対に後悔するような気がして、
八方塞がりで前に進めなかった。

いつの間にかサッカーも勉強も両方手に入れるという選択肢は消えていた。

消していた。

大人になるって嫌だ。

現実を見た気になって、一番リスクが低い選択肢を選ぶ。

一緒にサッカーをしていてプロサッカー選手になった友達も何人かいるが、彼らは全員覚悟が違った。

言うまでもなく才能もあったが、見ているところが自分の一つも二つも先で、安定なんて求めていなかった。

今思えばどの選択をしても基本、後悔することになるというのは当たり前だ。

なぜなら、何かを選択するということは何かを捨てることなのだから。

両方選ばない限りどちらかは切り捨てられる。

でも今の自分だったら思う。

「欲張れよ」

「リスクなんか考えて小さく収まるな」

「ダサいぞ」と。

結局、当時の僕にそんな声は届いているはずもなく、
サッカー部を辞めるという選択をした。

あの日、遠征から帰ってきた監督のいる部屋に行って、伝えたあの瞬間を一生忘れることはないだろう。

僕の高校サッカーが終わった瞬間。

それはピッチの上で対戦相手に負けて鳴り響くホイッスルにより伝えられるものではなく、

煙草の匂いが漂う簡素なプレハブの静まり返る監督室の中で自分で伝えたものだった。

13年間、直向きにやってきた僕のサッカー人生には本当に呆気なく終止符が打たれた。

その最後のピリオドは小さいが心に濃く残った。

こんなにやり切れなくて悔しいことはなかった。

ただ自分で決めた選択。

サッカーと大学受験、両方失うのだけは避けようと必死で努力した。

僕ら特進クラスは"隔離棟"と呼ばれる他のクラスとは少し離れた場所に教室があった。

特進クラスではない同級生がみんな楽しそうにキラキラして見えた。

遊んでいる同級生を横目に誘惑に負けることなく勉強に打ち込んだ。

サッカーという自分の全てを失った(自分で手放した)僕にはもう勉強しか残っていなかったから。



秋になり、選手権の予選が始まった。

どこか素直にみんなを応援できない自分がいた。

自分がいたらどうなっていたんだろう。

そんな無駄なタラレバを考えた。

試合がある日は気になって勉強に手がつかなかった。

Twitterで試合の速報が出ないか、幾度も親指を上下に動かしてタイムラインを更新している自分がいた。





ーデロリアンに乗って過去に戻れたなら、
現在の自分は当時の自分を説得できるだけの話を
してあげられるだろうかー


つい最近の自分はまた、
人生における大きな選択を迫られた。

「教員を続けるか、辞めるか」

今回も同じように考えられ得る可能性は全て考えた。

その選択をするリスクも利益も。

今回もかなり時間は掛かったが、今回はリスク回避のための選択をしなかった。

「公務員」という生涯安定の肩書きを捨てた。

同じ"逃げ"でも今回の逃げは高校生の頃とは違う。

前向きな判断による選択ができたと思っている。
(自分の選択が間違っていたと思いたくないから正当化している部分もあるし、人って大抵自分で決めた道が正解だと思い込むように補正する機能がついている。)

一見、仕事を辞めるという判断は逃げであるように見えるかもしれないが、僕にとっては”攻め”であって”チャレンジ”であった。



ここで一つある言葉を紹介したい。

じぶんをかえるためにうごいてもいいし、
じぶんをかえないためにうごいてもいい。
にげてさがして ヨシタケシンスケ 赤ちゃんとママ社 2021.2.24


これは、大好きな絵本の中の自分を助けてくれた言葉

何度も僕に寄り添い、心を落ち着かせてくれた言葉

この絵本は、ボランティアを通して知り合った年上の女性に教えてもらった。

彼女は、

「絵本は小さな美術館、大きな哲学書なんだよ。」

と、さらっと教えてくれた。

言葉の持つ力はすごい。

言葉は人を救うし、人生を変える力があると思った。

一つの言葉を知る前と知った後とでは見える景色がまるで違う。

その辺りから自分も言葉を大切にしたいと思ったし、
言葉で何かを伝えられる人になりたいと思うようになった。

今回の場合、自分の選択は先程紹介した一節の
前者でも後者でもあると思っている。

ある意味自分を変えるために転職をしたし、
ある意味自分を変えないために転職をした。

今までの嫌いな自分を変えたいという想いと、
ここは変えず保ち続けたいという部分があった。

この経験は自分にとって大きなものとなり、
間違いなく考え方が、人生が、広がった。

もしかすると、今の自分なら18歳の自分を救ってあげられるかもしれない。

「人は必要な時に必要な人と出会う。」

過去に出会った人は過去の自分に間違いなく必要な人だったし、

今出会っている人は今の自分に必要な人だし、

この先未来に出会う予定の人は未来の自分に必要になるだろう人。

だから、18歳の僕に今の僕が必要ならきっと出会えるはず。


いや、もしかしたら既に出会っているのかも




負けるな18歳の自分!!!



おわり


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