傘
傘ほど都合のいい存在はないかもしれない。
雨が降った時だけ利用され、その後雨が上がれば傘立てに忘れられたりする。
つい先ほどまでしっかりとその身を守ってもらっていたというのに
傘の中でもビニール傘は特に不遇である。
ビニール傘ほど盗難されることに寛容的になれるものがあるだろうか。
ビニール傘ほど自分のものがどれだか分からなくなるものがあるだろうか。
なんかビニール傘を盗まれたことに怒っていたら少し小さい奴だと思われる可能性すらある。
無個性であることが与える影響もあるかもしれない。
江戸時代では店の名前やロゴの入った傘の貸し出しを行うことで、歩く広告的な役割を担っていたこともあるという話をいつか聞いたことがある。
そんな傘が今はどこか面白みのないものになっている。
確かにあんなに細いのに持っていて邪魔になるものも少ない。
ただ、傘の中でも日傘は特別な存在。
ビニール傘の嫉妬の対象であることは間違いないだろう。
一番大きな違いは、持たされるか、持つか。
ビニール傘は雨によって持たされる、受動的。
日傘もその要素を含むが、どちらかというと持ち主の意思で能動的に持つ。
絶対に必要なものではないからこその需要がある。
あと折り畳み傘の存在も忘れてはいけない。
スタイリッシュさとコンパクトさ故にきっとこちらもビニール傘の嫉妬の対象。
僕は曇り時々雨という天気予報を確認し、リュックの中に折り畳み傘を忍ばせた。
外に出ると予報通り雨が降る。
用意周到にリュックから取り出し、折り畳み傘を開く。
折り畳み傘は、活躍の機会を与えられることを待ってましたと言わんばかりにその羽を伸ばす。
雨が止んだ。
濡れた折り畳み傘を専用の袋に入れることは面倒
だがそのままリュックにしまうことは憚られる。
結局手で持ち歩き、僕は居酒屋に入る。
楽しい時間が過ぎた。
酔っぱらって少し体温の上がった帰り道を歩く手には折り畳み傘はなかった。
もちろんリュックの中にも。
リュックの中には、折り畳み傘を入れる以外の用途が見つかることのない袋が虚しげに取り残されていた。
最近、梅雨入りしたらしい。
ビニール傘が日の目を浴びる季節。傘なのに。
おわり
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