クラブサウンドのトランジェント処理
こんにちは、Nacoです。
2021年12月に始めたミックス&マスタリングサービス『85studio』ですが、お陰様で好評いただいております。本当にありがとうございます。気になる方はお気軽にお問い合わせください。
さて本題ですが、依頼いただくプロジェクトや自身のトラックメイクを通じて特に重要だなと感じるプロセスが「トランジェント処理」です。
利用ツールはトランジェントシェイパー(またはトランジェントデザイナー)と呼ばれるもので、有償無償問わず存在します。
トランジェントに係るミックスダウンやマスタリングのTIPSは数あれど、トランジェントにフォーカスしたクラブサウンド向けの記事ってほとんど無いかも…と感じ、本稿を記しました。
トランジェントって何?
ざっくり「瞬間的に鳴る音」だと理解して差し支えありません。リスニング体験的には「カチカチした音」のアタック部です。
ちなみに混同されがちですが、ADSRの「アタック」とは異なります。当該値は「ディケイ」に到達するまでの時間変化の速度を決める値になりますので、厳密にはトランジェントとは異なります。
とはいえ、高速のそれは「トランジェント」を産みますので、両者の関係は密接です。また、トランジェントシェイパーの大半が、操作値を「アタック」と記載しています。そのため、以後は、本記事でも「瞬間的に鳴る音」を「アタック」と記載します。
トランジェントの役割は?
「音の輪郭の形成」です。アタックが希薄な音は輪郭がボヤケてパンチがなくなります。では上げればいいのでは?といえば、そう単純ではないものの…かと言って複雑でもありません。上げたきゃ上げれば良いので。
大事なことは、目的(今回の場合だとクラブサウンド)に合わせて処理することです。
トランジェントの最適値は?
アタックを「やや削る」程度のコントロールがベターです。あまり削るとぼんやりした音になるためやり過ぎは禁物ですが、爆音想定のクラブサウンドでは、立ち上がりの速過ぎる音が仇になりやすいです。
トランジェントシェイパー(トランジェントデザイナー)でできること
瞬間的な音+その後の余韻を調整できます。それぞれ「アタック」と「サステイン(もしくはリリース)」と表記されています。
この「サステイン」が実は重要で、これ一つでグルーヴが変化します。例えば、ブレイクビーツのゴーストノートが聞こえるようになります。
もうひとつ例を挙げますと、ツイーターから降り注ぐようにシャンシャン鳴るハイハットってありますよね。あれも、サステインをブーストすれば簡単に作れたりします。
トランジェント処理 〜事前準備〜
今すぐNeutron Transient Shaperを挿せ!と言いたいところですが、事前に元素材をトリートメントします。
オーディオにフェードイン/アウトを施す
クラブサウンドではオーディオサンプルを多用します。ブレイクビーツがトレンドの今、特にファンク引用のドラムループは利用頻度が高いと思われますが、オーディオ断面にフェードイン/アウト処理しましょう。
生ドラムのループ素材はBPMが揺れているため、グリッドに沿ってカットすると意図しないスネアのアタックがほんの少しだけ残ったりします。これが非常に耳障りかつトランジェントコントロールの邪魔になりますので、面倒ですが確実に処理していきます。
シンセのアタックは少し遅くする
プラグインシンセは特に強烈なアタックを作ることができますが、プリセットに平気でめちゃくちゃ硬いシンセが混ざっています。これはアタックを少し遅らせましょう。
とはいえ、印象が変わり過ぎてしまわないよう、ほんの少しずつ遅らせて、カドが少し丸くなり出したあたりで止めます。
アタックをブーストしたいパートをコンプで叩く
トランジェントシェイパーは音を圧縮しません。そのため、トランジェントシェイパーでいきなりブーストすると、無闇にゲインを稼いでしまいがちです。
事前にコンプでダイナミクスを均したほうが、より少ない値で大きな聴感効果が得られやすいです。
ノイズを除去する
サステインを操作した際に小さなノイズが持ち上がってしまうことがあるため、面倒ですがノイズ対策はしておくに越したことはありません。
ノイズ発生箇所が分かっている場合は、ゲインのオートメーションで対応します。(ノイズ除去ツールを持っているならそれも併用)
全体に散らばったノイズやハムは流石にオートメーションでは対応できないため、気になる場合は別の素材にリプレイスすることをおすすめします。
録音状況の悪いデータをトリートメントするより、最初から音の良いデータを使う方が何倍も効率的かつロスが少なく済むからです。
事前準備でトランジェントが整理されたかも
上記の処理を丁寧に施した結果、ダイナミクスが整い、同時にトランジェントも理想的な状態に落ち着くことがあります。
この時点で特にこれ以上触る必要がないと思えるなら、そのままにしておきましょう。
トランジェント処理 〜実処理〜
輪郭が欲しい、カチカチうるさい、サステインを伸ばしたいと感じる場合に限り、更にトランジェントシェイパーを使います。
アタックは下げ方向で使う
アタックをブーストする=輪郭が際立つと、シャープかつクリアで良い音に聞こえるようになりますが、爆音では耳に刺さりがちです。
敢えてクリックを使うジャンルだと表現としてアタックは不可欠ですが、ナイトクラブでのプレイを想定するサウンドでは、特に高域の物理的なインパクトはかなり耳障りです。
アタックが強いように感じる音でも、他の音との比較で相対的に強く感じるだけで、ピークは-3db前後…というのが理想的です。この許容範囲は個々人のミキシングスタイルにより異なりますが、少なくともリミッターを挿さないと0dbを超えてしまう状態は原則避けたほうが良いです。
アタックをブーストする前にサステインを下げる
アタックが欲しいときは、まずサステインを抑えましょう。
例えば、ブレイクビーツの輪郭を出したいときにアタックをブーストする方法もありますが、サステインを抑えたほうが、元素材のキャラクターを保ちちながら輪郭を形成しやすいです。
この際に、事前準備の段で行ったコンプで均す処理を行っておくことで、違和感なくスネアのアタックだけを残せたりします。
サステインをブーストするときはどんなとき?
アンビエンスを聞かせたいときです。アンビエンスとは、そのパートの持つ空気感のことです。
特に生ドラムや環境音などでサステインを上げると、トラック全体の厚みに貢献することがあるためお勧めです。
僕は、全体を通して高域が足りない気がするときにサステインの調整を行うことがよくあります。高域をブーストする前に、存在しているけど埋もれている音を掘り出すようなイメージで作業します。
まとめ
全トラックメイカーは今すぐトランジェントシェイパーを使いましょう。
不明点はお問い合わせください。
それでは!
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