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【ガンバ大阪】そこに「本気」はあるのか..心に響かぬブランドコンセプトに対する感想

10月に創立30周年を迎えるガンバ大阪から「クラブコンセプト」が発表された。どうやらこの節目を迎えるにあたり、1年以上かけ検討を重ねてきていたのだという。

おお、それは全く知らんかった。

その成果がYouTubeでお披露目されるということで、てっきりまたいつものノリで仙石さんが出てきて社長がババーンとテロップを広げる感じかなと思いながら案内されたURLをクリックすると、もうバッチリ編集された映像が再生され始めた。

60分にも及ぶ長編大作である時点で少しイヤな予感はしたのだが、どうにも心に響いてこない内容だった。あるべき姿、それを実現するための具体策、それを表現するためのキャッチコピー。それらがどうにも空虚に映ったのはなぜだろう。

個人的にも小規模ながら企業やブランディングに携わっている身としての考えも交えながら、率直な思いを綴りながら振り返っていきたい。

■ ブランディングはなぜ必要なのか

初めに、ブランディングに着手したこと自体はめちゃくちゃ好意的に受け止めています。ブランディングは重要。
ただ、経営の世界でもクリエイティブの世界でも頻繁に耳にする言葉である一方、人によってその受け止め方はまちまちな危険なワードだったりもする。そこで自分なりに設定している定義が、

「差別化して、好きになってもらう」

ということ。
顧客とのありとあらゆる接点で「その会社らしさ」を感じさせ、同業他社との違いを打ち出すことで好感・共感を持ってもらう。それによって事業の価値を高めていく施策。

スターバックスが日本の従来の喫茶店との比較で清潔感・開放感を徹底的に打ち出して、ビジネスパーソンや学生に愛される空間を作ったのがわかりやすい例として用いられています。

したがってガンバ大阪が我々サポーターやスポンサー、地域のみなさんに対して「我々はこうすることで皆さんに好きになってもらいたいんです!」と表明するのは、次の30年を紡いでいく上でとても大事なことなんです。

■ 「弱いからダメ」なのではない

ただ、どうにもインターネットの世界に漂う空気をかぎつけたところ、あまり雰囲気はよろしくない。何よりも、残留争いの真っただ中というタイミングでの発表となったことが、好意的に受け止められない最たる原因である。ただ、先ほども書いた通りブランディングのプロジェクト自体は1年以上前から着手されていたそうだし、この窮地を打破するための急ごしらえの策ではないということは理解が必要。

とはいえ、くり返しになるが動画を見た感覚はやはり空虚だった。

■ あまりにもつまらなかった小野社長のトーク

まず最初に、悲しいまでに伝わらなかったのが小野忠史社長の「熱意」。動画の前半に当プロジェクトに関する説明がなされるのだが、用意された原稿を間違いなく読むことだけに注力されたような話しぶりで、これを絶対に成功させるんだというスピリットが全く放たれていなかった。
気持ちのこもらない話を延々と聞き続けるほど苦痛なものはなく、つまらないセミナーを受講しながら「はよ終わらんかな」と思いながら時間の経過を待っていた(途中から倍速に設定を変更しながら

■ どうやって実現? どうなれば成功? 漠然としたコンセプト

続いて発表されたのがブランドコンセプト。いよいよ今回の主題である。カッコよくまとめられたムービーに引き続き、ドドンとコピーがお披露目された。

Screenshot 2021-09-27 at 21-36-17 ブランド ガンバ大阪オフィシャルサイト

目指すゴールは「日本を代表するスポーツエクスペリエンスブランド」

サッカーのフィールドに留まることなく、新たな体験を生み出すことによって、最高の熱狂を生み出し、人々の生活に新たな様式をもたらす、日本を代表するスポーツエクスペリエンスブランドになることを目指します。

なるほど(なるほど

Screenshot 2021-09-27 at 21-35-38 ブランド ガンバ大阪オフィシャルサイト

ゴール達成のためのテーマは「青い炎となり、熱狂を生み出し、中心となる」

心の中に熱く燃え続ける情熱。ガンバ大阪は情熱を燃やし、熱狂の源となる青い炎となり、人々に新たな経験を生み出し、ファン・サポーター、地域、日本のスポーツ文化の中心となる。

ういっす。

Screenshot 2021-09-27 at 22-40-06 ブランド ガンバ大阪オフィシャルサイト

そして共通の価値観は「私たちは、栄光に向けて真摯に挑み続ける戦士である。選手、クラブ、地域のつながりと成長を促し、大阪から、アジアを超え、世界へ。ガンバ大阪を愛する人々と共に夢を描く、誇れる存在となり、サッカーのフィールドに留まらず、新たな体験を創出する」

..ピンと来ましたか?

ブランドコンセプト文とは往々にして仰々しくなるものだが、それにしても結局どういうこと?と問いかけずにはいられなくなる。本当に、我々に向けられたメッセージなんですかねこれ。インターブランド社がこしらえたもんだから、これが王道なんだろうけど。

がんばって噛み砕いて解釈すれば、

「いいサッカーは見せるのはもちろん、それだけじゃなくてもっとサポーターやファンとか地元の人らの日常に溶け込みたい。そこで楽しさを提供したいし、そうしながら大阪を代表する存在になって世界にも知られるクラブになる」

ってことですかね。合ってますよね。

正直「いいこと言うなあ」とは思わないですね。スケール感の大きさに対して、現状の課題はどこにあるのか、具体的にどうすれば目標を達成できるのか、どうなれば成功・到達したと判断できるのか。そこが漠然としているせいで全く心に響かない。

ただ、到達すべき目標に関しては動画の後半に行われるトークセッションでおぼろげながら共有されることになる。

特命広報大使に任命された(毎度おなじみの)加地亮さんがこんなことをおっしゃっていました。

「大阪といえば阪神タイガース。やっぱり阪神はすごい。『大阪といえば?』というアンケートでガンバは28位くらいだった。それをトップ5、いやトップ3に入れるくらいにしたい」(要約)

確かに阪神タイガースはすごい。はっきり言ってバケモン。良くも悪くもスポーツメディアの中心にドンと居座り、年齢や性別を問わず多くの人々を巻き込んできた。
野球に全く興味のない人でも、ユニホームがタテジマで、本拠地が甲子園で、六甲おろしという歌があって、ラッキー7にはジェット風船を飛ばすくらいのことは知ってるんじゃないだろうか。

つまり、ガンバ大阪もその領域を目指すと。「野球は阪神、サッカーはガンバ」と言ってもらえる存在になると。

大阪でトップ5に入るって大変ですよねえ。適当に抜粋しただけですけど、

・ 阪神タイガース
・ ユニバーサルスタジオジャパン
・ 吉本新喜劇
・ 新世界(通天閣)
・ ガンバ大阪

この並びに入るってことでしょ? 格落ち感すごくない?w

まあでも「日本を代表するスポーツエクスペリエンスブランド」になるってそういうことでしょうよ。その覚悟でコンセプト設定したと理解してます。

■ 前園真聖氏が起用される心もとなさと疑問

で、この超難度のミッションをクリアするための策として特命広報大使が起用されたわけだが、それが前園真聖氏というのはいかにも心もとない。
外部の風を入れるというのは正解だと思う。OBにこだわって知名度・発信力に乏しい人材を起用するよりは、多方面に名が知れ渡っている前園氏の方が適任なのは間違いない。

(唯一、OBにして抜群の知名度を誇りビジュアルも映えコメント力にも長けた人材に心当たりがあるのだが監督業でボロボロに酷使してしまったのが痛恨の極みである)

ただ、前述の通り阪神タイガースに肩を並べるだけの存在を目指すというのなら、もっと発信力のある人物を起用しなければ。
サッカー界から選ぶのならば、それこそケイスケホンダ氏とか呼ぶくらいじゃないと。あるいは全方位的好感度重視でいくのなら武井壮氏とか。僕はあんまり好きじゃないけど。それくらい本気の人選じゃないと「目指すゴール」の現実味がわいてこない。

そもそも巷における前園氏の感覚ってどうなの。最近はバラエティー番組とかも出てるらしいですけど、個人的な印象としては「飲酒→暴行事件」で止まってるんですけどね。そんな人がどうして「日本を代表する(ry」に相応しいのか。

■ 根本的な問題は「サッカーの質」

30年後、創立60周年を迎えたときに「あの時ブランディングに着手しといてよかったね」となればいいが、正直その未来を想像するのは難しい。果てしなく遠い道のりと、その第一歩を歩む現状の不甲斐なさが余計にそう感じさせてしまう。

まず、何をすべきか。それは、ちゃんとしたサッカーを見せること。

ガンバに関わる全ての人が「誇り」を感じるためにも、求められるのはまず結果。
世界のトレンドが緻密な戦術・ポジショニングを練り上げながら構成されているのに対し、未だに「ボールを蹴る上手さ」で勝負しようという前時代的なベクトルには危機感しか覚えない。
このままでは(名前を出して悪いが)ジェフやヴェルディのように、ただ存在し続けているだけのクラブに落ちぶれてしまってもおかしくない。

サッカー界の潮流をしっかりキャッチアップできるチームづくりを実現するには、それに相応しい指揮官と選手を呼んでこなければならない。
ロクなコネクションもなくOB人事にすがり、有望な選手は獲れず、下部組織から大事に育ててきた若手はトップチームに何の貢献もせぬまま海外へ出ていってしまう..そんなマネジメントしかできないフロントには自ずと限界が訪れる。
抜本的に体質を変えるには、一定の期間だけ親会社から出向し、任期が終われば去っていく腰掛けの人材ではなく、クラブの浮沈がそのまま自身の評価につながる「本当の責任者」が必要ではないか。

パナソニックの看板を背負ったサッカーチームが万年J2では恥ずかしいですよね?くらいの煽りで経営陣を一新するくらいの気合いがほしい。それくらいじゃないと「日本を代表する(ry」は実現しないでしょう。

ブランドコンセプト実現を目指して、どこぞの海外クラブと提携しますくらいの発表があれば、YouTubeの低評価の数字があんなに多くなることもなかったでしょうね、きっと。

強ければブランディングできるわけではないですけれども、品質を伴わない製品にはブランドは宿らないと思うわけです。

■ 忘れられないエクスペリエンス

この話をしながら、ふと思い出した出来事があるんですよ。
2010年9月、万博で行われた大阪ダービー。試合前に「What you got ?」の煽りVでボルテージを最高潮に高め、打ち合いの末に安田理大のJ初ゴールでセレッソを負かした最高級の試合のこと。

未だにこれを超える煽りVは見たことがない。今でも武者震いするわ。そしてこの動画を収めてくれていたアロさんは神。

当時は京橋のワンルームマンションに住んでいた僕は、この試合を見終わって京阪の京橋駅から自宅までの道を歩いていたんですよ。もちろんガンバのユニを着て、それはもう誇らしげに。
そしたら道路の向かい側を歩いていた人々(酔っぱらい)が聞いてきたんですよね、「きょうガンバ勝ちました?」って。
僕は両手を突き上げガッツポーズのジェスチャー。それを見た向こうも「ヨッシャーッ!!」と絶叫。
その一連のやり取りが、どれだけ気持ちよかったことか。

要はこういうことだと思うんです。

ガンバの存在がホームタウンの枠を超え、大阪の人々の心の中に絶えず存在し、そこで得られる喜びと誇りを分かち合う。それが次なる愛情となり、じわりじわりと輪が広がっていく..

めちゃくちゃ大変な道のりだけれども、「阪神一色」と言われる大阪の地にもそのポテンシャルは宿っていることを実感した経験からすれば、決して不可能ではないはず。

奇しくも、きょうの動画の進行役を務めてくれた下田恒幸アナウンサーの名言が胸にしみる。

ガンバ大阪といえば吹田・北摂。ユニフォームは青黒。それくらいはみんな知っている。マスメディアにもそれなりに取り扱われ、仕事仲間や友人との日常会話の中にも違和感なく登場してくれる存在。そして何より、僕が初対面の人とのトークでも「ガンバが好きなんですよ」と胸を張って言えるように。

壮大なるブランドコンセプトを現実とするか、それとも絵空事に終わるか。それは自分たち次第。ガンバ大阪の「本気」は果たして見られるだろうか。

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