【読書のおと vol.16】
百花 川村元気 文藝春秋 2021年
たまたま立ち寄った本屋さんで、装丁と帯に惹かれてこの本を手に取った。
冒頭の文章が、時系列とか状況が読めない文章だったので、これは難しい本を選んでしまったと一瞬戸惑ったのだが、読み進めていくうちに、その表現が、これから始まっていく物語の伏線になっていることに気がついた。
物語をとおしては、息子の視点で書かれているが、母の視点、恋人の視点、周りの人たちと関わり合いながら時間が過ぎていく。
認知症の進行とはこういうものなのであろうか。こういう状況が、いずれそう遠くない未来に、自分にも訪れるのではないかという現実に重ね合わせながら読み進めていく。
母と子の二人暮らしで育った主人公が、母の秘密を知ってしまう場面は、話の展開に驚きながらも、涙をこらえきれなかった。
ラストシーンも素直に終わってくれない展開がさらに涙を誘った。
それでも何か心が軽くなる読了感だった。
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