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クリスマスケーキを買いに行ったら裁判になった話 2

こちらの記事の続きです。

車に戻ると、彼女も機嫌が悪い様子だった。
「今日これからどうする…?」と聞かれ、申し訳ないけど帰ることにした。初めて車に傷をつけたショックと、やり場のない怒りでもうクリスマスどころでは無くなっていた。

彼女を家に送り届け、1時間かけて自宅に戻る。
後ろを走る車の運転手に、事故車を直さない不精な奴だと思われないか、と変に気にかけながら、事故前後のことを思い返す。

そういえば、自分の車にはコーナーセンサーがついている。障害物の接近を音で知らせる、車の四隅についているホクロのようなあれだ。なにか障害物が近づけば「ピピッ、ピピッ」という音を発し、近づけば近づくほどその音の間隔が短くなっていく。限界まで近づくと「ピー」と心電図が止まったような音を発するのだが、事故直前、ぶつかるまでは鳴っていなかったことを思い出した。車が何かにぶつかった、と理解が追いついたときには、「ピー」という音が車内に響いていた。

最初から軽トラがそこにいて、こちらから近づいていったのなら必ず音が鳴って気づくはずだ。だが、ぶつかるまで鳴らなかった。なんの予兆もなく、限界まで近づいたことを知らせる「ピー」という音がいきなり鳴ったということは、センサーの反応しない死角から急に障害物、軽トラが現れたということだ。停めようとしていたところに割り込まれたのだ。やはり自分は悪くない。そう確信した。

自宅に着くと、すぐに保険会社に電話した。
「お怪我はないですか?」という問いに、少し気持ちに余裕が出てきていたので、冗談半分で「怪我はないけど精神的に参ってます」みたいなことを言った気がする。すると、「突然のことで、さぞ驚かれたかと思います。心中お察しします」といった、100点の答えが返ってきた。プロだ、と思った。マニュアルがあるのかどうかわからないが、変な冗談で気を遣わせてしまったと思うと申し訳ない気持ちになった。

そして、事故の経緯を事細かに伝えた。コーナーセンサーのことも、どう考えても自分は悪くないと思っているということも話した。今後は示談に向けて保険会社どうしが交渉を進めると説明された。進展があったり、事故の状況で伺いたいことがあれば追って連絡する。また、相手の保険会社から電話が来てあれこれ聞かれるかもしれないが、事故の状況を正直に話してもらって構わない、とのことだった。

電話を切ると、どっと疲れが押し寄せてきた。横になっているといつの間にか眠っていた。2時間ほど眠っていただろうか。電話の音で目が覚め、画面を見ると知らない番号からの着信だった。自分でも人としてどうかと思うくらい不機嫌な声で「はい」と電話に出ると、事故相手の保険会社を名乗る人からの電話だった。


つづく。

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