となりで見る朝焼け

一人旅は、心のメンテナンス。
疲れを感じたら非日常を求めて旅に出る。
そうやって、ずっと生きてきた。

ある日、恋人ができた。
猫が好きで甘いものに目がない彼。
旅に出ると告げると、「楽しんでね」と笑顔で見送られた。

潮のかおりがする海辺の町にいく。
宝石みたいに輝く魚の刺身、ふわっと薫る地元の酒。陽だまりで猫が丸まっている。町の名物は、すべすべの豆大福だ。
旅の景色に、ときおり彼の顔が浮かぶ。

最終日の朝、海に行った。防波堤に腰掛け、水筒から熱々の紅茶を注ぐ。立ち上る湯気の先に刻々と変わる空の端が見える。

薄氷のような青、淡いピンクと紫に染まる雲。
そして、オレンジに光出す世界。

同じ景色を見て、「きれいだね」と静かな声でわかちあえる人が隣にいたら、きっとそれを幸せと呼ぶのだろう。

彼はもう起きてるかな。ぽってりした豆大福を買って帰ろう。朝日に照らされる海を、もう一度この目に焼き付ける。



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