見出し画像

いちどきりの炎節


ガシャッ。

何度目かの冷蔵庫が開く音がする。


「おやつは、短い針が10になってから」


びくっとして手を引っ込めた。

にへへ、と笑い顔をつくる。こんな子どもでも、バツが悪いと思うのか。


ベランダに入る影がギラギラしている。この暑さ。娘とふたり、なにをして一日をやりすごそう。8月に入ってから、汚れる部屋とご飯のことしか考えていない。私、こんなんだったっけ。


幼稚園のゆっこちゃんちは、いまごろ沖縄かあ。我が娘は、DVD漬けの毎日だ。


「10になったら、アイス食べていい?」

ダメという気力がない。いいよ、とぞんざいに言うと


「やったー!まりちゃん、なつやすみ大好き!」


喜びのあまり、奇妙なダンスをはじめた。なにそれ。こんな小さなことで、うれしいの?

でも5歳の夏は、一度きりだもんね。毎日がとくべつなんて、ちょっぴり羨ましい。


「かき氷器でもだすか…」


気分だけでも沖縄だよ。

青いシロップと笑い声が、残りの夏に溶けていく。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?