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SDGs経営をしている企業=ホワイト企業か?

■SDGsの重要なプレイヤーを担う企業

SDGsを理解する上で欠かせないキーワードが「パートナーシップ」。政府によるトップダウンでなく、企業、自治体、NPO、研究機関、そして私たち個人と、さまざまな主体がパートナーシップを組んで取り組むことを重視しています。

皆が対等な立場で知恵を出し合って力を結集させなければ、飢餓や貧困の撲滅、気候変動対策といったハードルの高い目標を、2030年までに達成できないからです。

とくにマンパワーや技術力、知力、財力、社会的影響力を兼ね備えている企業は、大きな役割を担うことが期待されています。

実際に、SDGsに取り組む企業も増えています。この動きを前進させるため、国連の主導でESG投資という仕組みが作られました。

■よく耳にするESG投資とは

ESGとは

・Environment:環境
・Social:社会
・Governance:ガバナンス

の頭文字を取ったもので、これら3つを活動の主軸に据えた企業に投資を集中させようという考えです。従来の投資で重視されるのは「財務状況(どれだけ儲けているか)」でした。

これからは「再生可能エネルギー(自然エネルギー)を使っているか」「働く人の人権を蹂躙していないか」「不祥事に対するガバナンスは整っているか」といったことも、投資の重要項目となります。

逆にいえば、社会問題や環境問題に取り組まない企業には、投資が集まらなくなるということです。一例として、すでに石炭火力発電はダイベストメント(投資撤退)の対象になっており、それが結果的に再生可能エネルギーの普及を後押ししています。

また、就職情報会社の(株)ディスコが学生に行ったアンケート(2020年8月)では、70%以上が「SDGsを知っている」と回答。就職する企業を選ぶ基準の第1位は「社会貢献度が高い」(30%)という結果になりました。「将来性」(28.5%)や「福利厚生の充実」(25.5%)、「大企業である」(23.6%)を抑えての第1位です。

1990年代半ば以降に生まれた「Z世代」と呼ばれる10〜20代は、社会や環境に対する意識が高いといわれています。こうした結果になるのは意外でも何でもなく、むしろ当たり前なのかもしれません。

SDGsに取り組まない企業には、投資だけでなく「人」も集まらなくなるでしょう。

■実は画期的なトヨタの水素エンジン

トヨタ自動車を例に、SDGsへの取り組みを見てみましょう。
トヨタはさまざまな角度からSDGs経営を進めており、柱のひとつとしてCO2などの温室効果ガスを排出しない「水素エンジン」の開発に取り組んでいます。

水素は無色無臭の気体で、水、天然ガス、石油などさまざまな物質に含まれています。ガソリンと同じように燃料として使うことができ、燃焼させても温室効果ガスは一切出しません。

そのため「究極のクリーンエネルギー」とも呼ばれます。

5月22日に富士スピードウェイで行われた24時間耐久レースには水素エンジンを搭載した「カローラ・スポーツ」が初出場し、358周・トータル1634kmを完走。ドライバーの1人に、豊田章男社長が名を連ねるというサプライズもありました。(写真はGazoo.comより)

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■水素エンジンはEV以外の選択肢としても期待

現在のところ、次世代自動車の選択肢としてもっとも期待されているのが「電気自動車(EV)」。バッテリーに蓄えた電気でモーターを回して走るため、走行中は温室効果ガスを一切出しません。

SDGs経営の一環として、すべての配送車をEVに置き換える目標を掲げる物流企業も見られます。

しかしEVには落とし穴があります。それがバッテリーの原料に使われる鉱物資源。とくにリチウム、コバルト、ニッケルといったレアメタル(希少金属)は名前のとおり「レア=希少」なため、EVの普及によって一気に枯渇してしまう恐れがあります。過剰な採掘によって、これらが多く埋蔵されている中南米やアフリカの環境を破壊するリスクも避けられません。

これでは、SDGsのゴール12「つくる責任つかう責任」に反することになってしまいます。今は「救世主」のごとくもてはやされているEVですが、それ一択になってしまうのは良くないのです。

レアメタルを使わないバッテリーの開発も進められていますが、これから5年、10年の間にすべての車がEVに置き換わることはあり得ないでしょう。

そこで新たな選択肢となるのが水素エンジン。EVほどレアメタルを必要とせず、自動車メーカーが100年以上にわたって育んできたガソリンエンジンの延長線上で開発できるため、大いに期待できます。

まだ取り組みは始まったばかりですが、世界のトップ自動車メーカーであるトヨタが本腰を入れれば、意外に早く「水素エネルギーの時代」がやって来るかもしれません。

■トヨタはパワハラ自殺を教訓にできるか?

SDGs経営を推進するトヨタですが、一方でこんなニュースもありました。

まとめると以下の通りです。

・20代の男性社員が2017年に自殺した。
・原因は上司のパワハラだった。
・男性社員は入社後に配属された部署で日常的に「死んだ方がいい」などの暴言を受けていた。
・豊田労働基準監督署は2019年にパワハラと自殺の因果関係を認め、労災認定。
・トヨタと男性の遺族は2021年6月7日に和解。
・豊田章男社長が直接遺族に謝罪し、2度と同じ過ちを繰り返さないよう再発防止に努めると約束した。
・トヨタは防止策として社員が匿名で相談できる窓口の設置や、就業規則にパワハラの禁止や罰則規定を盛り込んだ。

SDGs経営を掲げているからといって、必ずしもホワイト企業とは言い切れないのです。とくにトヨタのように企業の規模が大きくなれば、良い面・悪い面いろいろな面が出てくるのは仕方ないことかもしれません。

だからといって現状を放置していたら、ただの「SDGsウォッシュ」です。

社長の謝罪は「本物」だったのか? 本当にパワハラで命を絶つ社員をゼロにできるのか? そして期間従業員や部品のサプライヤー(「下請け」という表現を使うか躊躇しました)に対しても、社員同様に大切に扱うことができるのか?

すべては今後のトヨタの取り組みにかかっています。

【2023年6月28日追記:水素エンジンは「グリーンウォッシュ」と紙一重】

大変ご無沙汰しております。もう1年以上、記事の更新が滞っておりますが、今も読んでいただき、ありがとうございます。

この間noteを離れ「サステナブル・ビジネスマガジン『オルタナ」などで記事を書いてきました。そこで取材をするうちに、実は水素エンジンも危うい代物であることがわかってきましたので、改めて説明します。

水素には大きく3種類あります。
・グレー水素:化石燃料(石油、天然ガス、石炭)から製造
・ブルー水素:化石燃料から製造。ただし製造時に発生するCO2を回収
・グリーン水素:水から製造。製造に必要な電力は再エネ(太陽光、風力など)で賄う。
※ブラウン、ターコイズなど、さらに細かく7種類に分類する場合もある

この中で真にサステナブルと言えるのは「グリーン水素」だけで、それ以外は化石燃料を使うため「グリーンウォッシュ」と言わざるを得ません。

温暖化をはじめとする気候危機は、ますます顕在化しています。すでに熱波や洪水で、世界各地で甚大な被害が出ています。これを食い止めるには、地球の平均気温上昇を産業革命以前と比べて1.5度以内に抑えなければなりません。

この「1.5℃目標」は国際的なコンセンサスとなっており、その達成には一刻も早く温室効果ガス(CO2など)を出す化石燃料の使用をやめなければなりません。これはIPCC(気候変動に関する政府間パネル)などの国際機関も強調しています。

トヨタが調達しようとしている水素は「ブルー水素」で、化石燃料の延命につながるので完全にNGです。「製造時に発生するCO2を回収するなら問題ないじゃないか」と思われるかもしれませんが、これらの技術はまだ開発段階です。

日本政府はCO2を回収して地中に貯留する 「CCS」という技術を推進しようとしていますが、地震の多い日本に適しているのか、貯留できる空間がどのぐらいあるのかなど、多くの課題があります。

本気で水素に取り組もうとするなら「グリーン水素」一択となりますが、乗用車に関してはEV化が世界的な流れになっています。トヨタも遅れてはならないと言わんばかりに、最近になって新たなバッテリーの開発を打ち出しました。日産やホンダといった国内メーカーもこれに追従しています。

ただし先に説明したように、バッテリー原料などEVにも課題はあります。解決策として、例えばフォルクスワーゲンはリサイクルを進めることで、新たな原料の採掘を限りなくゼロにする目標を掲げています。工場で使う電力を100%再エネ由来にするなど、環境負荷低減の努力も続けています。

しかし仮にEVが普及しても、世界の路上をたくさんの自動車が走り回るのが、果たしてサステナブルな未来なのでしょうか。これはEVか水素かというレベルの問題でなく、大量生産・大量消費という自動車業界のビジネスモデル自体を見直すべきタイミングに来ているのかもしれません。




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