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「広島原爆の日」、菅義偉首相の読み飛ばしに思うこと

■「核兵器のない世界」を読み飛ばし

前回は「核兵器禁止条約」を批准しない日本について書きました。そして昨日(8月6日)の「広島原爆の日」に、信じられないことが起きました。

すでに報道でご存知かと思いますが、「広島市平和記念式典」に出席した菅義偉首相が、挨拶文の一部を読み飛ばしてしまったのです。

首相官邸HPに挨拶文がアップされているので全文を紹介するとともに、読み飛ばされた部分を太字で示します。

本日、被爆76周年の広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式が執り行われるに当たり、原子爆弾の犠牲となられた数多くの方々の御霊(みたま)に対し、謹んで、哀悼の誠を捧(ささ)げます。
 そして、今なお被爆の後遺症に苦しまれている方々に、心からお見舞いを申し上げます。
 世界は今も新型コロナウイルス感染症という試練に直面し、この試練に打ち勝つための奮闘が続いております。
 我が国においても、全国的な感染拡大が続いておりますが、何としても、この感染症を克服し、一日も早く安心とにぎわいのある日常を取り戻せるよう、全力を尽くしてまいります。
 今から76年前、一発の原子爆弾の投下によって、十数万とも言われる貴い命が奪われ、広島は一瞬にして焦土と化しました。
 しかし、その後の市民の皆様のたゆみない御努力により、廃墟から見事に復興を遂げた広島の美しい街を前にした時、現在の試練を乗り越える決意を新たにするとともに、改めて平和の尊さに思いを致しています。
 広島及び長崎への原爆投下から75年を迎えた昨年、私の総理就任から間もなく開催された国連総会の場で、「ヒロシマ、ナガサキが繰り返されてはならない。この決意を胸に、日本は非核三原則を堅持しつつ、核兵器のない世界の実現に向けて力を尽くします。」と世界に発信しました。我が国は、核兵器の非人道性をどの国よりもよく理解する唯一の戦争被爆国であり、「核兵器のない世界」の実現に向けた努力を着実に積み重ねていくことが重要です。
 近年の国際的な安全保障環境は厳しく、核軍縮の進め方をめぐっては、各国の立場に隔たりがあります。このような状況の下で核軍縮を進めていくためには、様々な立場の国々の間を橋渡ししながら、現実的な取組を粘り強く進めていく必要があります。
 特に、国際的な核軍縮・不拡散体制の礎石である核兵器不拡散条約(NPT)体制の維持・強化が必要です。日本政府としては、次回NPT運用検討会議において意義ある成果を収めるべく、各国が共に取り組むことのできる共通の基盤となり得る具体的措置を見出す努力を、核軍縮に関する「賢人会議」の議論等の成果も活用しながら、引き続き粘り強く続けてまいります。
 被爆の実相に関する正確な認識を持つことは、核軍縮に向けたあらゆる取組のスタートです。我が国は、被爆者の方々を始めとして、核兵器のない世界の実現を願う多くの方々とともに、核兵器使用の非人道性に対する正確な認識を継承し、被爆の実相を伝える取組を引き続き積極的に行ってまいります。
 被爆者の方々に対しましては、保健、医療、福祉にわたる支援の必要性をしっかりと受け止め、高齢化が進む被爆者の方々に寄り添いながら、今後とも、総合的な援護施策を推進してまいります。
 先月14日に判決が行われました、いわゆる「黒い雨」訴訟につきましては、私自身、熟慮に熟慮を重ね、被爆者援護法の理念に立ち返って、上告を行わないことといたしました。84名の原告の皆様には、本日までに、手帳交付の手続きは完了しており、また、原告の皆様と同じような事情にあった方々についても、救済できるよう早急に検討を進めてまいります。
 今や、国際平和文化都市として、見事に発展を遂げられた、ここ広島市において、核兵器のない世界と恒久平和の実現に向けて力を尽くすことをお誓い申し上げます。原子爆弾の犠牲となられた方々の御冥福と、御遺族、被爆者の皆様、並びに、参列者、広島市民の皆様の御平安を祈念いたしまして、私の挨拶といたします。

この通り読み飛ばされた部分には、唯一の戦争被爆国である日本が「核兵器のない世界」の実現に向けた決意を語る、重要なメッセージが書かれていたのです。

菅首相は読み飛ばした原因について、このように弁明したといいます。

「原稿を貼り合わせる際に使ったのりが予定外の場所に付着し、めくれない状態になっていた。完全に事務方のミスだ」(共同通信ニュースより)

この言い訳の是非については論じるまでもないと思いますが、私はのりの付着などではなく、意図的に読み飛ばしたのではないかと疑っています。

前回(下記リンク)書いた通り、日本は「核兵器禁止条約」を批准していません。批准しない理由について、政府(外務省)は「日米同盟の下で核兵器を有する米国の抑止力を維持することが必要」と説明しています。

もし読み飛ばした部分をそのまま読んでいたら、“日本はアメリカの核の傘から飛び出して「核兵器禁止条約」を批准すべきだ”という議論につながるでしょう。菅首相はそうなるのを避けたかったのではないでしょうか…?

■ニュージーランド首相の力強いメッセージ

一方で、ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相は、こんな力強いメッセージを寄せてくれました。ニュージーランドは「核兵器禁止条約」を批准した数少ない先進国です。

実は今年でなく昨年(2020年)のメッセージなのですが、とても素晴らしい内容なので全文を日本語訳で紹介します。

世界が新型コロナウイルスに対応するチャレンジに直面し続けるなか、広島と長崎への原爆投下から75年を迎え、世界で起きた出来事の破滅的な影響を思い起こさせます。
1945年8月、世界は核兵器が何をもたらすのかを初めて目にしました。
最悪の結果を生み、爆撃の衝撃で亡くなっただけではなく、その後も長く続く放射能の後遺症で、人々に想像もできない苦しみや被害をもたらしました。
それ以降も、太平洋などでの核実験による悲惨な影響を目にしてきました。
現存する1万3000個以上の核弾頭の一つ一つが、広島や長崎で目の当たりにしたよりも強大な破壊力を有しています。
たった一つの爆弾が、破滅を意味します。そして、核戦争がそこで終わるとは誰も信じてはいません。
数百万人の命を一瞬にして奪い、環境に取り返しがつかないダメージを与えます。専門家は、いかなる国家や国家の集団、国際的な組織も、核戦争の影響に備えたり、対処したりすることはできないと警告しています。
備えることができないのなら、食い止めるしかないのです。
国連のグテーレス事務総長も言うように、国際的なコミュニティは、核の非武装化に向けた取り組みを再度活性化させなければなりません。人間性を守ると呼んでいます。
他人や将来の世代に残すことのできる課題ではありません。
ですからニュージーランドは、大多数の国連加盟国とともに、核兵器禁止条約を採決したのです。
私は、核兵器根絶に向けて必要不可欠なステップとして、そして全ての核保有国の核兵器ゼロの達成を含めた地球規模の交渉を求めて、他国もこの動きに加わり、このランドマークな条約を広めることを要請します。
このことが唯一、広島と長崎への原爆投下や、太平洋などでの核実験によって苦しめられた人たちに対する報い、レガシーとなるのです。 
(HUFFPOSTニュースより)

本来なら、日本のリーダーがこうしたメッセージを世界に向けて発信し、「核兵器のない世界」の実現に向けてリーダーシップを取るべきではないでしょうか。

アーダーン首相のメッセージ(動画)のリンクも貼っておきます。


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