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なぜ、日本株は上がるのか?(その①)

日経平均が40,000円を突破しました。

そこで、日本の時価総額トップ10企業の株価は「なぜ、上がっているのか?」を整理(=パターン分け)してみようと思います。

そう思ったのは、「日本と米国の時価総額トップ10企業の違い」からです。

米国のトップ10はマイクロ・ソフト、アップル、エヌビディアなど「超グロース企業」が並んでいるのに対して、日本のトップ10には(失礼な言い方になりますが)三菱商事や三菱UFJ、NTTなどの「オールド・エコノミー」的な企業が入っています。

「オールド・エコノミー企業の株価が上がるの?」とも思ったりするのですが、パフォーマンス的には日本のトップ10もこの1年・2年はとても良い成績でした。ですので、「オールド・エコノミー的な企業なのに、なぜ、そんなに株価が上がるのだろうか?」といったことを整理してみようと思ったためです。

株価が上がるパターンを整理することで、株価を見る時に「どこを見ればいいのか?」「どのように考えればいいのか?」といったことが明確になるかもしれない、という発想です。

では、早速。

まず、以下をご覧ください。

「過去1年間の(時価総額トップ10の)株価パフォーマンス」です。半導体相場でしたので、東京エレクトロンのパフォーマンスが群を抜いています。

一方、三菱商事やトヨタ自動車が「過去1年間で、90%以上の値上り」で2位、3位にランクインしているのは驚きです(失礼!)。

2024年2月26日時点

こちらは「過去2年間」のパフォーマンスです。三菱商事、三菱UFJという言わば「オールド・エコノミー」的な企業が1位、2位の値上りです。

2024年2月26日時点

半導体関連企業のように急成長しているわけでもないのに、どうして株価が大きく上昇するのだろうか?

そのあたりのことをパターン分けしてみようと思います。

ファーストリテイリング - 典型的なグロース株

まず、最も基本的なパターンからです。

典型的な「順調に成長している企業」がファーストリテイリングです。なので、典型的な「グロース株」です - グロース=Growth=成長。

グロース株は、売上げと利益が拡大していくので、それにあわせて株価も上がっていく、というシンプルな関係です。

理屈的には、利益が毎年20%のペースで拡大すれば、株価も20%ずつ上昇していくという関係(あくまでも、”理屈的には”です)。

それに加えて、成長期待が大きくなったり、業績がより安定してきたりすると、PERが拡大することがあります。例えば、PER20倍だったものが、30倍になるといった具合に。すると、株価は利益成長以上に上昇することになります - 利益が20%拡大 × PERが1.5倍に = よって株価は30%上昇、といった具合に(反対に、PERが縮小することもありますので、そこは要注意です)。

以下は、ファーストリテイリングの売上げと当期利益の推移です(単位:百万円)。そして、その下は同じ期間の株価チャートです。

2007年8月期~2024年8月期(会社予想)の期間だと、売上げは5.8倍に。当期利益は9.8倍になっています。株価は13.7倍です。

当期利益には若干の凸凹があり、株価はほぼそれにあわせて(多少)上下しながらも、右肩上がりに上昇してきています。

マネックス証券の「銘柄分析」から数値を抜粋
マネックス証券の「銘柄分析」から数値を抜粋
2007年以降の同社の株価推移です

そして、以下はファーストリテイリングのPERの推移です。

2000年代後半~2010年代前半には20~30倍だったPERが、2017年以降は30倍以上に拡大しています(直近は40倍を超えています!)。利益の成長にあわせてPERが拡大し、それが株価を利益成長以上に押し上げる要因になっています。

会社発表のEPSと、毎年10月末の株価により計算

PER拡大の背景は「海外事業の成功」だろうと思います。海外事業が軌道に乗ったことで、さらに大きな成長余地が認識され、それがPER拡大というカタチになったのだろうと。

売上げと利益が順調に伸びている会社は、多くの場合「グロース株」。そして、グロース株への投資戦略は、「売上げと利益が着実に成長する企業」を見つけ、その企業の株式に(割高にならない価格で)投資をする、という実にシンプルなやり方なのだろうと思います。

加えて、「市場が織り込んでいる業績」よりも大きな成長を遂げる企業を発掘することができれば、株価のリターンはさらに大きくなる可能性がある、という点も付け加えておきます(※ ここがグロース株発掘の魅力)。

例えば、世の中の大半が「ユニクロは海外では売れないだろう!」と考えていた中で、「いやいや、あの品質であの値段なら世界中でウケるはず!」と考え、ファーストリテイリングの株を買った人は、大きなリターンを上げることができた、ということだろうと。

三菱商事 - バリュエーションの上方修正

「いつも割安」だったバリュエーションが上方修正される(=高くなる)ケースです。

上方修正が「いつ起こるか?」、「そのきっかけは何か?」を探知するのが難しいのですが、割安なだけに「株価が、さらに下落する」ことが少ないため、リスクの小さな投資スタイルになります。

三菱商事のケースでは、「あのウォーレン・バフェット氏が(三菱商事に)投資をした!」という事実がそのきっかけ(=カタリスト)になりました。

総合商社はたくさんの事業を行っているので、会社の中身がわかりづらく、そのため株価はずっとディスカウントされてきました(所謂、コングロマリット・ディスカウント)。

しかし、バフェット氏が投資をしたことで(それを発表したことで)、それまで三菱商事を素通りしていた投資家の多くが、同社の事業の中身をちゃんと見るようになった。そして、評価するようになったということだろうと思います。それが、三菱商事に対する「評価」を上方修正させたのだろう、と。

以下は、三菱商事の売上げと当期利益の推移です(単位:百万円)。前述のファーストリテイリングの売上げや利益の成長と比較すると、まったく別物の曲線を描いています。

売上げは2013年3月期~2018年3月期の間が大きく落ち込んでいます。当期利益は(売上げほどは)大きな落ち込みにはなっていませんが、それでも2016年3月期には約1,500億円の赤字を計上しています(いずれも、資源価格の下落が要因です)。

マネックス証券の「銘柄分析」から数値を抜粋
マネックス証券の「銘柄分析」から数値を抜粋

こちらは、同社の株価チャートです(2007年1月~2024年2月)。多少の上下はあるものの、2020年8月にバフェット氏が同社への投資を発表するまでは同社の株価はほぼ横ばいの状態です。

当社作成

三菱商事のPERはずっと「概ね7~8倍」という割安で推移していました。それが、バフェット氏の投資をきっかけに拡大し、現在14倍を超える水準になっています。利益の拡大とあわせて、それが大きなリターンを生み出す原動力になっています。

会社発表のEPSと、毎年5月末の株価により計算

PBRで見ても同じ結論です。ずっと0.5~0.7倍くらいで推移していたPBRが1.0倍を超え、現在1.5倍になっています。

会社発表のBPSと、毎年5月末の株価により計算

ちなみに、PBRについてはいろいろな考え方があります。例えば、「投資にはぜんぜん使えない」という考え方から、「特定の業種においては、便利なモノサシになる」という意見まで。

個人的には「後者」の考え方を持っています。特に、「投資会社」のような業種にはPBRは良いモノサシになるのではないかと思っています(例えば、REITとか)。総合商社は、自身のバランスシートを使って多くの事業に投資をしている業態ですので、「投資額(=自己資本)に対して、時価はどうなっているのか?」を表すPBRは「使えるモノサシ」のように思っています - 高い収益性(ROE=10%以上)なのに、PBR1.0倍割れは「お買い得」のように感じます。

それから、以下は三菱商事のROEの推移です。直近、ROEが急速に改善しています。同社は2022年5月に発表した中期経営計画の中で、資本効率の向上・ROEの二桁への改善を謳っています。それを着実に実現していることも、同社のバリュエーションが上方修正された大きな要因だと考えます(大型株の場合には、ROEが10%を上回ると、PBRも反応し、拡大していくケースが多くあります)。

会社発表のEPSとBPSから計算

それに、世界一の投資家であるウォーレン・バフェット氏が投資をしたのに、「この会社はダメだった。株を売却して、撤退だ!」なんて言われたら、三菱商事の経営陣はカッコ悪くてしようがありません。「恥の文化」が強い日本では、これがコーポレート・ガバナンスを強化する強烈な圧力になっているように思います。

あわせて、東京証券取引所が「PBR1.0倍割れ企業は、名前を公表するぞ!」と言い出したのも「恥の文化」を大きく刺激しているように思います。

要は、日本企業のコーポレート・ガバナンスが変化しかけている。そして、エスタブリッシュメント企業ほど「恥」には敏感なので、大きな地殻変動になる可能性がある。そして、その圧力が株価を押し上げる一因になっている、ということだろうと。

割安に放置されていた企業のバリュエーションが上方修正される、というケースは結構あります。そして、割高株と違って「株価が大きく下落する」という可能性が小さいので、リスクの小さな投資スタイルになります。

難しい点は、「バリュエーションは、いつ上方修正されるのか?」「そのきっかけは何なのか?」がわかりづらいところです。なので、割安株に投資をしたら「じっと待つ」という長期戦が必要になるケースがほとんどです。

現在だと(前述した)「東証によるPBR1.0倍割れ企業」への圧力はバリュエーションを上方修正させる「きっかけ」になっていると考えています。業績は良く、ROEも10%以上あるのにPBRが1.0倍を割り込んでいる企業は要チェックだろうと思います(※ 外れるかもしれませんので、くれぐれもご注意を!)。

その他、「きっかけ」になりそうな材料としては、①REOが改善し、10%を超えてきた、②「市場のテーマ(半導体やEVなどのような)」になる事業を持っている(それが再評価される)、③売上げの伸びが大きくなっている(割安株という投資家の認識が、グロース株へ移行するかもしれない)といったあたりは要注目だろうと思っています。

三菱UFJ(8306)- シクリカルな株

メガ・バンクの株価は、基本的に金利に対してシクリカルです。

シクリカルとは「循環的」といった意味で、「金利が上がると株価が上がり、金利が下がると株価も下がる」といった循環を繰り返す株価になります。

そして、この1~2年は日本の消費者物価指数が上昇し、日銀の金融緩和政策も転換されるのではないか(=金利が上がり出すのではないか?)という局面でしたので、三菱UFJの株価は上がりやすい局面だったのだろうと考えます(=循環の”上り坂”にさしかかった局面)。

以下は、三菱UFJの売上げと当期利益の推移です(単位:百万円)。こちらも、前述のファーストリテイリングと比較すると別物の成長曲線になっています。

売上げについては「低金利」下でしたので、成長することは難しくなります(足元は、海外での金利上昇によって売上げが拡大しています)。

マネックス証券の「銘柄分析」から数値を抜粋

当期利益は、金利のサイクル(及び、景気のサイクル)によって上下しています。

マネックス証券の「銘柄分析」から数値を抜粋

株価は、大きく見ればリーマン・ショックの後に大きく下落し、(途中で凸凹はありながら)足元、それが回復してきたといった曲線です。そして、足元の回復は「金融政策の転換期待(=金利上昇期待)」によるものだろうと考えます。

2007年1月~2024年2月の株価チャート

個人的には、メガ・バンクのバリュエーションは、PBRとROEで見るとスッキリする感じです。

三菱UFJのPBRは(株価チャートと同じように)リーマン・ショックの後、大きく低下し、0.3~0.6倍のレンジで推移していました(アベノミクスで金融緩和が進んだのが大きいと思います)。そして、そのPBRが直近、大きく復活しています(金利上昇期待と、後述する東証からのプレッシャー)。

会社発表のBPSと、毎年5月末の株価により計算

ROEは、一時的に低下したタイミングを除けば、概ね6~7%で推移しています。上場企業としては、ややもの足りない水準であり、それがPBRが1.0倍を割ってしまう大きな原因だろうと考えています(売上げの成長力が小さいこととあわせて)。

会社発表のEPSとBPSから計算

一応、上記のPBRとROEをひとつのグラフにまとめてみました。横軸がROE、縦軸がPBRです。どうでしょうか? 規則性はありそうでしょうか?

上記2つのグラフを統合しています

加えて、「東証からの『PBR1.0倍割れ』の注意喚起」は、三菱UFJにとっても大きな圧力になっているのだろうと思います。こちらも「恥の文化」として。

シクリカルな株は、その株(及び、業界)がシクリカルであるということと、何に対してシクリカルなのかという点を事前に知っておくと便利です。そして、株価の循環を促す要因を継続的にウォッチして、投資のタイミングを計る、と。

一般的にシクリカルな株とされるのは、鉄鋼、化学、非鉄、卸売り、海運などの業界です。売上げの成長はあまり見込めない中で、景気の循環や市況の変化によって業績が上下します。そして、それにあわせて株価も動く特性があるためです。

例えば、海運株は「バルチック海運指数」と呼ばれる英国のバルチック海運取引所が日々算出する運賃に敏感に反応します。景気が良くなり、海運需要が盛り上がってバルチック海運指数が上昇すると株価は上がりやすくなります。また、コロナ禍の物流の混乱時など突発的な海運市況の変化にも敏感に反応します。

シクリカル株を狙う場合には、そうしたパターン化による投資がいいのかもしれません。

バルチック海運指数の推移 - Bloombergのデータより

もうひとつシクリカルな株について付け加えておくと、「その業界が成長市場へと変化し、株価がグロース株として評価されるようになる」というケースがあります。すると、バリュエーションが一気に上がる傾向にあります。

半導体がそうです。

半導体は3~4年毎に需給が逆転するので典型的なシクリカル株でした。しかし、生成AIの登場によって「大きな未来」が拓け、成長する業界へと変貌しました。株価もグロース株として評価されるようになり、バリュエーションも高くなっています。

こうした「産業の根本的な変化」を探知することができれば、大きなリターンにつながりますし、何よりも株式投資がおもしろくなりそうです。

まとめ

日本の時価総額トップ10のうち、ファーストリテイリング、三菱商事、三菱UFJの3社について、その株価が上昇した要因を考えてみました。

ポイントは、それぞれ要因が異なるので見るべき点や考えるべきことが異なるという点です。

ごくあたり前のことなのですが、事前に整理(パターン分け)しておくと、考えやすくなるように思います。

それでも、株式市場は「想定外の要因」で動くのが常です。ここで整理したパターンはあくまでもひとつのケースとして考えていただいて、「それ以外の可能性もある」点はぜひ忘れないでください。

残りの7社についても、「その2」「その3」でレビューをしてみたいと思います。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

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