下山したら素晴らしい天気になってしまった羊蹄山
羊蹄山と言えば優美な姿を指して蝦夷富士と呼ばれる日本百名山の一つだ
私は夕方遅く倶知安側登山口の半月湖野営場に到着した
登山者が主に利用するトイレと駐車場があり申し訳程度に水道設備と狭い芝地があるだけの野営場だ
まあ予約不要で無料なのが行き当たりばったり旅の私には合っているので文句は言えない
軽ワゴン車の先客が一人ちょうど食事の準備をしていた
自転車があったので声をかけてみた
今度羊蹄山でレースがあるので事前トレーニングに来たとのこと
この日は一日中雨だったので自転車も大変だっただろう
しばらく話していると今度は外国人の登山者三人組が下山してきた
フィンランドから来たということだった
かなり消耗した表情
何も見えなくてちょっと残念でしたねと言ったけれどこれは慰めにもならない
この人達も大変だっただろうな
翌日は曇りの天気予報なので今日よりはマシだろうと多少の期待をして車の横にテントを張って寝ることにした
午前四時に鳥の声で目が覚めた
テントから這い出して顔を洗いゆるゆると支度をしている内に次から次へと登山者の車が駐車場に入ってきた
皆さんそそくさと用を足しては去っていく
駐車場が登山口なのだ
こちらも落ち着いてはいられない
と思いながらも紅茶を淹れたりしてぐずぐず
それでも五時には出発した
ここから山頂まで登り火口を周回してもう一方の真狩コース登山口に下山する予定なのだ
下山口からは羊蹄山自然公園入り口バス停まで歩き14時30分発倶知安行きに乗る
そして羊蹄登山口バス停で降りる
そこからまた歩いて元の野営場に戻る
と
こういうプランなのだ
文字にして書くと理解しにくいかもしれない
十勝岳に登った時と同じく私は縦走したいのだ
登りと下りは違う道を歩き
未知との遭遇を二倍味わいたい
前置きが長くなってしまった
結局どうだったかと言えば
山頂から雄大な景色を見ることは遂になかった
残念
しかし山登りで見ることのできるものはそれだけではない
と悔し紛れに書いておこう
樹林帯の登山道をひたすらジグザグに登り続ける
これがとても長かった
九合目あたりから灌木も低いハイマツに変わり森林限界に差し掛かった
高山植物も登山道に目立ち始めた
ガスの中から垣間見えるお花畑も幻想的
高山植物と言えばコマクサは本州高山の砂礫地でも見られる可憐で貴重な植物だが羊蹄山では除去の対象となっているそうだ
この山では元々自生していない植物なのだが愛好家が種を蒔いて増えてしまったらしい
始まりは善意からであったようだが
元々そこにある自然の植生を保護する観点から今は除去の努力が払われている
ここは国立公園特別保護地区なのだ
富良野のラベンダー畑とは違う
破壊するのが人間なら保護するのも人間
人間が関与し続けなければその土地固有の生物多様性が維持できないとすればその状態自体がとても脆弱に感じる
地球上で一番環境に負荷を与えているのは間違いなく人類なのだからその一人としてはちょっと肩身が狭い
便利さ快適さを追求し過ぎる事なく登山、旅を楽しむ
それを心掛けたい
足し算ではなく引き算で自然と向き合えば人はより豊かなものをそこから受け取ることができる
そんな気がする
山頂近くの稜線は風が強く吹いていた
遮るもののない独立峰なので展望を期待したが何も見えなかった
頂上に到達した時には出発から五時間経っていた
その後岩稜帯を超えて下山口に向かった
六合目あたりから俄かにガスも切れて下界の緑が目に飛び込んできた
小樽の海も見えた
爽やかな乾燥した空気に変わった
寒がりの私は着たり脱いだりの一日だった
そして下山口に着いた頃にはすっかり天気も回復
手入れされた広大な芝地のキャンプ場の横を通りバス停に向かった
そして夕方には無事半月湖野営場に戻ることができた
よく歩いた一日だった
私にもう一つ大切な山の記憶が加わった
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