入ってみますか!三次元 (地球体験記8)
頭を使わないテレパシーライフを貫き、小学校生活が終わった。
文学少女のSちゃんは私立の中学校を受験した。
私の学校では、お受験はとても珍しかった。皆と同じ中学に進学しなかったのはSちゃんを含む数人だけだった。
Sちゃんが私立の中学に行くことは母から聞いた。六年生になっても物語で遊んでばっかりで将来の話をほとんどしなかったから知らなかった。
校区の中学校のちょっと古い教育方針が好きではないからだと。親が行かせたくなくて、Sちゃんも同意したらしい。Sちゃんらしいなと納得した。
まってくれ、中学校ってそんなにヤバイところなの。
私の母は
「集団行動とか連帯責任を重視する感じやろうけど、そんなん公立やったら当たり前よねェ」
と聞いてもいないのに見解を述べた。それに
「マイペースを極めてきたZENにはいい機会よ。ちょったァ社会の荒波に揉まれておいで!」
と威勢よく応援された。顔がニヤついていた。
私の遊び方と中学校の方針は、母がニヤつくくらい、ちがうらしい。
中学受験という選択肢すら知らなかった私は、Sちゃんが私立中学に合格して初めて、何やらすげえ時期がやってくるみたいだぞと身構えた。
Sちゃんのお兄さんは当時高校生で、校区の(私が行く予定の)中学校を卒業したらしい。息子を通して中学の方針を見たSちゃんのお母さんが、Sちゃんは行かないほうがいいと判断したわけだ。
そんなのめちゃくちゃ氣になる!一体何が行われているんだ?集団行動とは具体的に何なんだ。
Sちゃんによると、一列に並んで背中を反らし空に向かって叫ぶ授業があるらしい。
なんだそれは。
叫ぶ内容は挨拶、校歌、返事など日によって違うらしい。声が小さかったら何度でもやり直しをさせられ、また時間内に体操服に着替えられなかったら制服に戻るところからやり直すらしい。
何?それは何をしているの?
地平線に向かって叫ぶ青春は小説で読んだことがあるけれど、授業中にしかも空に向かってというのは知らないぞ。
家に帰るなりSちゃんから聞いたニュースを母に伝えた。笑いながらガンバレと言われた。
知らない世界に足を踏み入れる感じがドキドキした。楽しい事をしてれば楽しい事が止めどなく降ってくる世界にいる私には「荒波」なんて想像できなくて、逆に心配も不安もなかった。現実味がなさすぎて。
人生の中に3年間そんな時期があったってええんやないか?知らんけど。
大変という感覚を知らないから興味津々だ。
仮に楽しくないことをしなくちゃいけないとして、楽しくないかどうか決めるのは自分だ。自由だ。どうやったら大変になるの?他に選択肢なんていっぱいあるでしょ?え、お腹痛いって言って逃げちゃだめなの?
私の怖いもの見たさに便乗してか、母は「部活には絶対に入りなさい」と言った。
部活についてもSちゃんから聞かされた。おどろおどろしい都市伝説みたいに。
文化部でも朝7時半から夜7時半までやらねばならないと。
部活動をしている人は部活動生集会というのに参加しなければならず、そこで厳しく礼儀作法を叩き込まれると。
そりゃあすごい。
絵を描くか本を読むことしかしてこず、のほほんとテレパシーで会話し、マラソンやシャトルランで学年ビリを更新し続けた私にとって、天地がひっくり返るような生活だ。
母は「しなさい」と滅多に言わない。選択肢を狭めることはしない人だ。だから驚いた。思わず「ハイッ」って言った。
中学校に入学した。
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