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6. ゆいいつむにたいけん 〜唯一無二体験〜

他の人から変わっているとよく言われる。

シラフで踊っていて職質されるのも
(もはや自分のアイデンティティなので何度でも擦る)
二重国籍で家族が住んでいない国で両方の
パスポートが切れたのも(多分今初めて書く)、
朝バードウォッチングを主催した同じ日に、
家に帰らずそのままの格好で夜踊ったのも、
それぞれで独立して、僕以外世界で誰も
経験していない出来事だと勝手に思ってる。
(驕りだと言われればそれまでだけど)

今宵もそんな非常人エピソードが一つ。

場所はいつものSlakthuset。
回す人はDJとして最初に僕のダンスを
認めてくれて、かつVIPに追加してくれたAmin。
曲はPop、R&Bと時々HipHop。
今夜も仕事終わりに、facebookで彼が
回すのをチェックしてから「VIPで入れるなら、
是非踊りに行くよ。」と彼に連絡。
(仕事でディナーをクローズからの次の日
ランチオープンでなければVIPでなくとも行く所)

僕が踊りやすいように曲を回してくれている、
と言うまでは驕っていないつもりだけど、
アーミンの曲の元で踊ってはや4年目である。
彼のプレイスタイルはばっちり抑えてるし、僕が
持っているもので曝け出せないものなどない。
(底が浅いとか中身がペラペラという説)
いつものように全力だ。シャトルランで
一回目から誰よりも早く体育館の反対側へ。

途中警備員 (スウェーデンではクラブに限らず
バーの入口でもよく見る) ではなく、
警察官が三名ダンスフロアに入ってくる。
スウェーデンのテロ警戒レベルが引き上げられる
前から、巡回なのかタレコミや通報なのか
クラブで警察を見かける事も日常のワンシーンだ。
特に逮捕シーンや、揉め事に出くわした事はない。

本人達の意思はともかく、工事現場でよく見る
蛍光色のベストは傍目目立つ気満々である。

ちょうどその時、僕はリアーナか
ジャスティンビーバーの曲を全力で踊った後で、
ヘトヘトでDJブースの段差に腰掛けていた。
ズボンの裾を膝上まで捲り、Tシャツも
肩までたくしあげて、俯いた状態で
息切れしている僕に彼らは当然声を掛けてくる。

警察官「あなた大丈夫?」
僕「うん」
今日は職質を免れた模様 (爆)

行きつけだからこそ、警備員さん皆に
顔を知られてるし、目が合うとニコっと
笑顔を返してくれる人もいるぐらいだ。
6-8人はいる警備員が皆問題なしと
判断しているからこそ、警察官も
一声掛けて確認するだけに留めたと思う。
(その後彼らの前でしっかりと全力で踊った)

ここ数ヶ月はまるで記憶になかった、
「無許可動画撮影」を2方向から同時に食らう。
慣れたからもはや何とも思わないけど、
(ハラスメントに毒されてるみたい)
僕が有名人と勘違いさせにくるのはヤメテって感じ。

そのスマホを向けてきた人以外からも
何人かからお褒めの言葉を頂き、
(一人の男性は汗だくの僕を見て
But why?と訊いてきた…笑 登山家の気分だ)
今日の話題を提供してくれた男性と会話する。

彼「君のダンスいいね」
僕「ありがとう」
彼「普段は何をしてるの?」
僕「日本食レストランで働いてる。
でもダンサーになりたい…!(ここ半年ぐらい
言い続けてるがまだ口だけ…)」

すると彼は
「君はもうダンサーだよ」
と言うので、
「でもダンスで報酬を貰ってないよ」
と返すと、
「じゃあ俺があげるよ、ほら」
と、500kr(クローナ)札を僕に渡してきたのだ。。!

スウェーデンで一番大きい紙幣は
1000kr札だけど、スウェーデン社会が
キャッシュレスになる前から
殆ど流通していないし (2008年以前は不明)、
店員さんがレジでお金を扱う時も、500kr札で
透かしを確認することがあるぐらい。

なので立ち位置的には日本の5000円札だけど、
実質福澤諭吉をくれたも同然である。
2023年の円安で、リーマンショックから
ずっと対krで12円前後をキープしてた
レートは今1kr=ほぼ14円の現在。
ましてや、世界で今スウェーデン・クローナは
通貨としてかなり弱い方なのにこの有り様だ。

道端でストリートパフォーマー (の真似事?)で
踊った時は、最高で一口200krだったので、
喜びや感謝の気持ちよりは恐縮が勝つ感じ。
(もちろん5, 6回はお礼を言って頭を下げている)
相手はビール片手に立っているので、
酔っ払って気前がいいのかなと少しの納得感も。

これだけでも、割と珍しいエピソードだと思う。
でも、酔っ払いなら普通に愛想が良い店員さんに
高額なチップを渡す事はそう珍しくなさそうだ。
これだけなら、アルコールを提供する人は
何度も経験あると想像できるので、唯一ではない。

だけど、話はここで終わらないのだ。
汗だくで、かつ息も切れ切れの僕を見て、
彼はダンスの動きのレクチャーをしだす。
(一応、彼がビール瓶を持っていなければ
お酒が入ってるか分からない程度の嗜み方だ)

そして、上手い。。
いわゆる「切り離し」が完璧に身に付いている。
上半身も、足も動かさずに、まるでMJのように
腰だけを前後左右に細かに刻めるテク。

僕の持ち味は技術ではなく、
「踊りで見せる持ちうる全てのエネルギー」と、

「踊る事で、【誰にどう思われても自分は自分】
という自己受容と生き方への態度」と、

「型がない故の、型にはまらない即興の動き」が

だと思っているけど、正に雲の上の存在だ。
文字通り僕のスキルは彼の足元にも及ばない。

わざわざ見せてくれているので、動きを真似る。
多分だが彼の意図としては、僕があまりに
非効率な踊り方で疲れているので、
切り離しで無駄な動きを減らせるよう
コーチングしようとしてくれたのだと思う。

でも、残念な事に彼はコーチではない。
(7000円貰ってケチをつける成人済ダンサー志望)
切り離しをまるで練習していない僕は、
真似ているつもりでも上半身が動いてしまう。
そんな僕を見て、彼はダンスフロアで
ひたすら首を横に振り続けるのだ。

勿論、曲調に合わせてではなく。

何でも吸収したいとは思う。
ただ、お金を貰った上でも押し付けは
正直少ししんどいし、精一杯やってるのを
頭ごなしに否定されたらモチベも下がる。

「不出来な生徒にはさっきの500kr札は
値しない、返してくれ!」と言われたら
即差し出す心の準備はできていた。
それ程までの、5分10分では
到底埋まらない技術の差と、今の自分の全否定。

彼が僕に見切りをつけて、輪になって
踊ってる他のグループ (見た感じ皆他人同士) に
行ってからは、制約が解かれ再びのフリーダム。

全否定されて気分は良くないけど、
彼に悪気は1ミリもないし、技術の差は
それこそ全く否定できない事実なのだ。
そこに囚われ続ける僕ではないけど、
いつもみたく水に流すんじゃなくて、
彼が如実に示してくれた、僕の課題について
今後どう取り組むかを改めて考えようと思う。

「型に囚われない」という主張は別に、
「土台を構築しない」事を正当化する理由には
ならないと言うのが、今夜の気付きだ。


お金を貰って、レクチャーを受けるという、
唯一無二の体験である。これまでなかったし、
今後クラブに行き続けても多分二度とない。
最後まで読んでくれてありがとう。


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