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【読書メモ】先週読んだ5冊




『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』小野寺 拓也/田野 大輔 


・「ナチスは良いこともした」
 「ヒトラーには優しい心もあった」
 ・・・ホントかな?
・ナチスの考案と言われている社会保障や経済政策は、前政権からの引き継ぎか他国からの受け売り。オリジナルなものではない。たとえオリジナルであったとしても、それは「良いこともした」と担保されるものでもない。政策のオリジナル性とナチ党の良し悪しはまったくの別問題。いまで言う高速道路を初めて作ったとしても、戦争やホロコーストが無謬化されるわけがない。
・充実していたと言われる社会保障も、ユダヤ人や障害者などドイツ国民として「好ましくない」とされる人々を排除したもの。それが良い政策だと言えるわけがない。
・ヒトラーが山荘で少女と交流する例の写真はプロパガンダとして使われたもの。そして少女の祖母がユダヤ人と分かり、そのことがゲシュタポで問題にされることもあった(結局写真の使用は継続された)。例の写真を見て「ヒトラーって良い人だったんだ」と思った人は、約90年前のプロパガンダに時を超えてまんまと引っかかっている。
・「ナチスは悪という『常識』を疑え」という風潮に、確たるエビデンスで反論する名著。「常識を疑え」を、疑え。


『屍人荘の殺人』今村 昌弘

・外にはゾンビ、中には殺人犯。さあどうする、探偵。
・ゾンビの群れから身を守るために立てこもったペンションで密室殺人が起こる話。ゾンビパニック×密室殺人という、ぜったい誰かがやるだろうなと思った組み合わせ。
・『此の世の果ての殺人』(あと2ヶ月で人類滅亡って時に殺人事件)、『方舟』(地下に閉じ込められてから殺人事件発生)など、「こんな時に人殺してる場合か」というシチュエーションのミステリに最近はよく当たる。
・ミステリの説明に加えてゾンビの定義の説明も始まるので、やや説明が多い印象。
・ゾンビパニック×密室殺人というキャッチーさの勢いに頼らず、しっかり密室ミステリしてる。「ゾンビがいるくらいだから、これくらいのトンデモトリックぐらいいいだろ」みたいな雑な展開にはなっていない。設定を活かした論理的な密室殺人だった。
・登場人物の名前の覚え方を教えてくれるのはありがたい。「名張 純江=ナーバスな性格の子」「七宮 兼光=親の七光りのボンボン」など。


『ヘヴン』川上未映子

・思春期の緻密な心理描写や、見せ場となるシーンの豪華な情景描写は良い。だけど、それ以上にイヤな気持ちになるシーンの比率が高すぎる。主人公が陰湿で執拗なイジメを受けるシーン(しかもやたらと長い)や、スクールカースト上位の中学生男子の詭弁にやり込められるシーン(これもやたらと長い)など。そのうえ、加害者に報いを受けさせるなどしてカタルシスを得る展開も無い。なろう読者が「主人公がピンチに陥るシーンがイヤだ」「ムカつく奴らをブッ飛ばしてスカッとする展開がいい」となる気持ちが、今なら分かる気がする。


『精霊の守り人』上橋 菜穂子


・強くてシブい中年女性が主人公なのはいいすね。けれどヘテロフラグはしっかり立ってる。むむむ、ヘテロとは無縁のカッコいい中年女性キャラが欲しいぞ。
・「人生を勘定するのはやめろ」というセリフが刺さる。これで得だとか、あれは損したとか、お前にいくら借りがあるとか。そういうセリフ。打算で動いてもいいことはない、後悔ばかりが積もるだけなんだよな・・・。
・敵だった奴らと物語の後半で共闘する展開はアツい。共闘する理由付けも納得のいくものであり、王道で燃える展開。
・「山から流れる川が二股に分かれたデルタ地帯」が舞台だと最初の方で説明してくれるので、作品世界の地理が頭の中にすんなりと入ってくる。
・本格ファンタジーだと固有名詞を読者に覚えさせるのが大変ね。チラッと出しただけだと忘れちゃうし、何度も名前を出すとクドい印象を与える。上手く物語の流れに組み込むセンスが問われる。


『君はヒト、僕は死者。世界はときどきひっくり返る』零真似

・開幕早々ラッキースケベ。女性キャラが本気で嫌がってるのをコメディチックに描いてる。ラノベのノリについていけません!
・生者と死者。空に浮かぶ真昼の国・天獄と、地の底の夜の国・地国。対照的な世界の構図が物語を象徴するモチーフになっている。こういう、ちょっと凝っているけれどパッと見で分かりやすい世界観は好まれそう。
・ヒロインが序盤を過ぎたあたりで主人公を好きになるんだけど、その理由が分からん!  一回ゾンビから身を守ってくれたぐらいじゃ、感謝こそすれど恋愛的に好きになるのはまだ早いと思うぞ!
・きらめく「地国」の大地をスクーターに二人乗りでどこまでも行く情景はいいすね。こういう、頭に情景がパッと浮かぶシーンをどんどん思いついていきたい。
・物語は地国編と天獄編の二部構成。そのあいだに主人公とヒロインが想いを確かめ合う非常にエモいシーンがある。いわば物語のサビ。音楽で言うところのサビ。中盤あたりに物語が一気に盛り上がる山場を作ると展開にメリハリが付いて読者を飽きさせない、って物語作りの本に書いてあった。
・世界を敵に回してでも君を愛する。そんなベタな台詞も、シーンを整えて堂々と言われると説得力と感動があるんだな、と。


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