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【読書メモ】今週読んだ3冊



『私が殺した少女』原 りょう

・誘拐事件発生。容疑者は、探偵。
・主人公の探偵がとある誘拐事件に巻き込まれて、身代金の受け渡しをさせられる。途中までうまくいっていた犯人との取引は、しかし突然のトラブルに襲われる。小説の探偵は事件に巻き込まれるのが常だが、本作の巻き込まれ方はかなり一方的で不運。依頼人の家に行ったらいきなり逮捕されるんだもの。本文いわく「まるで拾った宝くじが当たったように不運な一日」。
・「すかいらーく」がまだあったり、千円札が夏目漱石だったり、携帯電話が無かったりと時代を感じる。どれくらい昔の設定なのかと思ったら「ケネディが大統領に就任」という奇術があったので1960年ごろ。時代柄か登場人物の喫煙者率が高い。
・「最近はテレホンカードしか使えない公衆電話がある。これからの探偵はテレホンカードぐらい持っていないといけないのだろうか」的なくだりがある。いまではテレホンカードも過去の遺物だよ。
・昭和の小説なので「ホモの変態」的な台詞がある。シスジェンダーのゲイとヘテロセクシャルのトランス女性の区別がついてなかったりもする。
・昭和の東京を駆ける探偵小説。このコンセプトにグッとくる人はぜひ。
・本作はミステリーというよりはサスペンス。ミステリーがトリックなどの謎を解くのに対して、サスペンスは人間関係の秘密を紐解いていく物語形式である。という定義を聞いたことがある。
・ロジカルな推理を繰り広げる展開はあまりなく、次々と明かされる新事実を推進力に物語が進む。悪く言えば後出しジャンケンなので本格ミステリ的な推理はほぼできない。

『八日目の蝉』角田 光代


・「母」になるための逃避行。
・主人公と不倫した末に堕胎させた男の子供を誘拐して、今度こそ「母」になるため逃げ続ける話。
・「母」になれない女性の劣等感、「普通」になれない苦しみがテーマの一つなのかな、と思った。物語の舞台となる80年代はまだ女性は子供を産んで母になるのがフツーみたいな社会だったし。
・『八日目の蝉』というタイトルは、そういった「普通」になれない人間を表している。他の仲間は早くに死んでいくのに、自分だけ八日目まで生き残った蝉。それはひどく孤独だけれど、八日目の景色という他の仲間は見れなかった光景を見ることができる。それは決して悪いことじゃない。「普通」じゃないことへの救い、みたいな感じ。
・小豆島の情景描写が美しくて見応えがある。一度でいいから行ってみたくなるわぁ。

『白い闇の獣』伊岡 瞬


・小学生の少女が殺害された。犯人は15歳の少年。事件当時の少年法の規定により刑事罰に問われず、わずか数ヵ月で社会復帰。 それから4年後、犯人たちが謎の転落死を遂げたことで事件はふたたび動き出す。
・あとがきで「本作は少年法の是非を問うものではない」みたいなことが書いてあるけど、それはいささか無責任に感じた。物語は典型的な「少年法で守られる凶悪犯!残された遺族の無念!許されざる者に鉄槌を!」というよくあるやつ。少年法が復讐劇フィクションの便利なネタとして扱われすぎな気がする。
 別作品の名前を出すけど『15歳のテロリスト』は少年法の問題点を指摘しつつも「罪人に裁きを!」みたいな抽象的な展開ではなく、「検察の捜査を入れられるようにして真実が明らかになるべきではないか」という現実的な結論だった。実際の社会問題を扱うならフィクションの便利なネタとしてではなく、もっと具体的な作者の考えが欲しい。
・進行中の犯罪を追う、オーソドックスなサスペンス。途中で何度か意外な展開はあるけど、あまりビックリ感はない。ラストで明かされるとある事実も、直前のシーンがあまりにショッキングだったのであまり印象には残らなかった。
・女性への暴力、および性暴力の描写がガッツリあるので注意。


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