見出し画像

【読書感想】半年で100冊読んだ話

 3月からの半年で本を100冊読みました。多いか少ないかで言えば、たぶん、だいぶ多いほう。空いた時間にオーディオブックで隙あらば小説を聴いていたら、いつの間にかこんな量になりました。スキマ時間、すごい。
 せっかくなので感想をアウトプットしようと思い、この記事を書きました。「レビュー」ではなくあくまで「感想」であり、中には一言程度のものもあるので、毒にも薬にもならないものが大半だと思います。
 「へー、こんな本もあるんだ~」ぐらいに思っていただけたら幸いです。


『羊と鋼の森』宮下 奈都

 特に才能も無いのにピアノ調律師になった話。
 高校生の頃にピアノ調律師と運命の出会いをしてしまったおかげで、専門性の高い職業に就いてしまった若者。それでもコツコツやれば、なんとかサマになるんでない?という感じ。

『すべて真夜中の恋人たち』川上 未映子

 社会性の無い30代女性と、優しい50代男性の恋愛の話。
 「大人の恋愛」と呼ぶには初々しい、心地良い距離感の男女の話。
 私、社会性が無い女性が主人公の話が好きかも。

『明け方の若者たち』カツセ マサヒコ

 こんなはずじゃなかった社会人のお話。
 タイトルが先に読んだ↑のやつとちょっと似てるから、という謎の理由でチョイスした一冊。就職に成功した自分を曲がりなりにも「勝ち組」だと思っていた大学4年生が、就職したことで「何者でもない自分」になってしまう。何者にもなれなかった若者。こういうテーマが刺さる人が多いんだろう。
 みんなそれなりの居場所を見つけ出して、そこに入る。人によってはブカブカだったり、はみ出して窮窟かもしれない。
 私? 私はいまのポジションが丁度よいと思ってるよ。

『スマホ時代の哲学』谷川 嘉浩

 実用書。
 スマホと向き合う前に自分と向き合えよ、という話。
 簡単に他人と繋がることのできる時代だからこそ、孤独を大事にしよう。SNSは私たちから注意力を奪い、安易な快楽に導く。という感じの本。
 SNSはさびしさを埋めるのではなく、むしろSNSがさびしさを生み出しているのではないだろうか。
 ネットで嫌なニュースを見るとTwitterのタイムラインでみんなの反応を見がちだけど、それよりも「自分自身はどう思うか」を大切にしよう。正しく傷ついて、痛みを引き受ける。大切な「傷つく心」を押し殺さないためにも孤独が必要。
 「孤独」と「さびしさ」は似ているようで、全く違うモノ。孤独とは自分と向き合うこと。だけどさびしさは自分と向き合う意志を奪い、他人と繋がろうとすることで自分の心から逃げださせるもの。
 SNSは私たちにさびしさを植え付けて注意力を奪う。だから抗え、孤独を持て。 

『人間失格』太宰 治

 顔だけは良いダメ人間が凋落する話。
 転落人生の小説と紹介されることが多い作品だけど、主人公は容姿にだけは恵まれていた。逆に言うと、容姿に恵まれていてもダメな奴はダメになるということ。

『正欲』朝井 リョウ

 特殊性欲を持つ人間のひがみの話。
 「多様性という言葉が持つ『おめでたさ』」。それは私も薄々感じていた。日本のメディアでは特に「多様性を大切にしよう」というフワッとしたメッセージばかりが前面に出されて、肝心のマイノリティの権利には触れようとしない。
 「多様性が尊重される世の中と言われるが、結局のところマジョリティに都合の良いものばかりが持て囃される」というメッセージには共感できる。だけど、そこから「水に興奮する特殊性欲は受け入れられないくせに」に展開するのが残念、あまりにも残念。なんでそっちに行くかな。「ゲイはお洒落」「レズビアンは美しい」みたいな「褒める差別」を批判するなり、いくらでも他に話の展開のさせ方があったでしょ。
 セクシャルマイノリティと特殊性欲を同列に語る危うさを持つ一作。小説としての作りは丁寧なのにものすごく雑な作品。これが本屋大賞4位ってマジですか。

『春のこわいもの』川上 未映子

 2020年春という令和版ノスタルジーの話。
 まだ3年しか経ってないのに、あの頃の記憶が懐かしさを伴って思い出されるのは不思議な体験。

『マイクロスパイ・アンサンブル』伊坂 幸太郎

 小さなスパイと大きな人間の話。
 伊坂幸太郎作品は長らく追ってきてるけれど、初期作品と比べるとキレが落ちたと思う。主に伏線回収が。初期の頃は「あのアレ、実は伏線だったの!?」と驚くことが多かった。今では伏線がどれだかすぐに分かってしまう。読者としての慣れもあるのかな。
 『オーデュボンの祈り』の城山や『重力ピエロ』の葛城みたいな分かりやすくクズな悪役が出てこないのも、キレが落ちたと思う一因だろうか。ともすれば主人公よりもキャラが立ってる悪役も伊坂作品の魅力の一つだったんだけどな~。
 なお、伊坂作品に特有の「おかしみ」は健在。

☆おすすめ!『この本を盗む者は』深緑 野分

 女子が女子と一緒に不思議な本の世界を旅する話。
 百合でした。そうと知らずに読んだから不意打ち食らいました。主人公は女の子、ヒロインも女の子で異性愛要素は無し。
 ファンタジー、ハードボイルドなど、さまざまな世界を女の子ふたりで旅するお話。勝気な主人公と不思議系美少女のヒロインのやり取りが毎回良くてね・・・
 アニメ映画にしたら絶対に映えそうな一作。

☆おすすめ!『此の世の果ての殺人』荒木 あかね

 2ヶ月後に人類が滅亡する世界で殺人事件を捜査する話。
 百合でした。やっぱりそうと知らずに読んだから不意打ち食らいました。主人公は女性、ヒロインというか相棒役も女性で、やっぱり異性愛要素は無し。
 人類滅亡が確定している世界のミステリーという設定がまず面白い。主人公もまた変わった人で、この状況で自動車学校に通って免許の取得を目指している。終末世界なのにマイペースな女性がどっこい生きてるのがなんか良い。
 相棒の女性がとにかくカッコいい。元刑事で、事件の捜査で主人公を常に引っぱっていってくれる頼れる人。いわゆる夢女子製造女と呼ばれる部類。
 終末世界だから警察がマトモに機能してないのも、殺人事件の捜査を一般人である主人公がやることになる理由付けとなっている。普通、一般人が殺人を調べようとしたら「いやいや、そんなの警察に任せなよ!」というツッコミが入るので。
 カッコいい探偵役の女性に振り回されるワトソン役の主人公女性。こういうのでいいのよ。こういうミステリーが読みたかったのよ。
 いやほんと、メチャクチャ良い作品だったのでみんな読んで・・・

『三体』劉 慈欣

 宇宙の果てからヤバい奴らを呼んじゃった話。
 いわゆる反科学に対して「宇宙人に地球を侵略してもらうために人類の科学発展を遅らせている」という、それこそトンデモ陰謀論めいた理由付けをしていたのが面白かった。
 冒頭の文革の描写が辛い。

『横道世之介』吉田 修一

 ちょっと変わった男が色んな人の人生をちょっとずつ変える話。
 大学生が主人公なので、大学経験のある自分にとって懐かしい読書体験だったな~。バブル期が舞台なので、最近の若いモンである私にとっては新鮮さもある。

『AX』伊坂 幸太郎

 恐妻家の殺し屋の話。
 伊坂幸太郎らしさがあった。殺し屋の牧歌的な日常を描くのは、本人が愛読を公言している殺し屋ケラーシリーズの影響が見られる。今回は伏線の張りかたは分かりやすいほうであり「してやられた感」は薄い。『モダンタイムス』と同じく恐妻家主人公。

『キリンに雷が落ちてどうする 少し考える日々』ダ・ヴィンチ・恐山

 どうでもいいことを面白く綴るエッセイ集。
 本当にどうでもいいことをここまで面白く書けるものなんだ、とビックリした。書き残す行為って大事なんだな、と、しみじみ実感しました。

『スモールワールズ』一穂 ミチ

 狂気と愛と、ときどき癒しの短編集。
 4番目の話、兄を殺された女性と加害者の往復書簡が一番面白かったな~。許しの物語。小説が二人の書いていた手紙の文面で進行するので、加害者が十分に教育を受けられなかったことがたどたどしい文章から伝わってきて辛い。

『プロだけが知っている小説の書き方』森沢 明夫

 実用書。
 小説を書く上で押さえておきたい話。
 小説の読者を引き込むには「謎」を提示するべし。ミステリーでなくても「謎」を入れるべし。「あれはどうなるんだろう?」という感情が、最後まで読んでもらう吸引力になる。
 「無名の新人が大御所作家レベルの作品を書いても編集にボツにされる」という話が世知辛い。確かに、新人が村上春樹みたいな作品を書いてきたら「なんだこの文章が冗長な作家は」と思うかも。村上春樹ファンの人、ごめんね。
 「他人の不幸はネタになる。インターネットで他人の不幸話を収集しろ」とオススメされたけど、ネットでその手の話を探すのはメンタルがゴリゴリ削られるのよ。
 小説を書く時は、まず結末を決めること。カーナビと同じで、結末という目的地を設定できたらそこまでのルート(エピソード)も決まる。でも書き続けている過程で「こっちの結末の方がいいな」となるのもザラなので、そこは臨機応変に。
 主人公はスタート時はちょっと落ちこぼれか、もしくは中の上ぐらいがいい。あまりに不幸すぎたり恵まれすぎていると、読者は「こいつは自分とは無縁の存在だな」と思ってしまう。

『七つの魔剣が支配する』宇野 朴人

 剣を使う魔法使いの話。
 ラノベも読んでみたいと思って手を出してみた。1巻ラストがあまりにも衝撃的だったので2巻以降も読んだけど、9巻まで読んだいま現在において、今のところあのラストを超える展開は無いな。1巻の時点ではラノベ的なノリが薄いと思って気に入ってたんだけど、2巻以降は男友達がTSしたり唐突なお色気展開があったりと急にラノベ感を出してきおった。

『エンタテインメントの作り方』貴志 祐介

 実用書。
 エンタメ小説で押さえておくとよい話。
 まず結末を決めよう。「書いてくるうちに展開が浮かんでくる」とはよく言うけれど、それは着地点をしっかり決めているからこそ出来る芸当。支柱がしっかり立てられているからこそ、キャラクターや展開を安心して泳がすことができる。支柱なしにそれをやると、途中でシナリオが破綻か空中分解する。
 結末→クライマックス→冒頭の順番に考える。この3つが橋の橋脚となり、作品のブレない軸になる。
 文章に書いていない部分を作者がどれだけイメージできているかが鍵。たとえば学校のシーンなら、教室の風に揺れるカーテンや差し込む夕日を本文で描写はしなくとも、作者の脳内にその光景が広がっているか否かで表現の質は大きく変わる。
 楽しみながら書くこと。作者が楽しんで書かないと読者もノッてくれない。
 小説は重要な部分だけを描けばよい(貴志祐介の持論)。細々とした情景はあえて描かず、読者の想像力を信じよう。
 一芸は後からついてくる。小説界では一芸に秀でた者が伸びるものだが、最初から「自分の一芸はこれだ!」と決めつけると、自分の可能性を狭めることになる。自分の書きたいものを書いていけば、自然と「その作者らしさ」が読者の評価によって出来上がっていくもの。小説において自分らしさを決めるのは自分ではない、読者だ。

『対岸の彼女』角田 光代

 清掃業を通じて出会った、とある女と女の話。
 女が女を想う気持ちがストレートに描かれている。恋愛感情では無いものの強い繋がり。
 最近はラノベばかり読んでいたからか、展開のゆっくりさにびっくりしている。小説はそんなもんです。
 文章表現は簡素で頭にスッと入ってくる。回りくどかったり気取った表現を使わなくてもいいのだ。
 何のために歳を重ねるのか。そのことを改めて考える。

『コンビニ人間』村田 沙耶香

 コンビニに最適化された人の話。
 発達障害者としてめちゃくちゃ身につまされる主人公。作中の「喧嘩を止めて!」と言われたので喧嘩してる人をシャベルで殴って止めたら怒られた、というエピソードほどのインパクトは無いものの、こういうディスコミュニケーションの経験を挙げれば例にいとまが無いので。
 コンビニで18年間働いた結果、体と頭がコンビニ業務に最適化された人のお話。でもコンビニの仕事って客として見ていて分かるけどレベル高いし、社会にコンビニが星の数ほどあることを考えればつぶしの効く仕事なので、そんなに悪くないんじゃないかな。
 クズ男が清々しいほどのクズで、いっそ安心する~。

『サラバ! 上』西 加奈子

 主人公の出生時から身の上話が延々と続く話。
 こういうストーリー形式なのは分かるけど、なんというか、もう少し省略できない? はしょらない? まとめられない? と思うぐらい、大筋に関係あるのか無いのか分からない主人公の家族構成や家の話がずーっと続く。それが辛いので上巻で読むのをやめてしまっている。

 『15歳のテロリスト』松村 涼哉

 少年法を正面から問う話。
 「少年法に守られる犯罪者を許すな」みたいな安易な加害者批判をむしろ否定するものであり、あくまで検察の介入という形で真実を追求できるようにすべき、という形に落ち着く。
 主人公が真実に辿りつくまでの過程が描かれてない気がする。なんか、気が付いたら真実に気付いてた。さては思いつかなかったな、主人公がどうやったら真実に気づけるかが。
 こういう「思いつかなかったら思いきって開き直る」姿勢も作家として大事なのかも。

『本好きの下剋上 1』香月 美夜

 無類の本好きが本の無い世界に転生する話。
 いわゆる異世界転生モノ。その世界の人間の身体をジャックするタイプ。
 ファンタジー世界なのに魔法が無いの? と疑問を持たせてから、主人公たち平民階級には魔法に縁がない世界であることを明かす。主人公の生活描写に沿ってだんだんと世界観を明かしていく、センスが無いとできない手法。こういうの、素人はぜんぶ一気に地の文で説明しちゃうやつ。
 知識持ち込み系の異世界転生モノ。ただし周囲の理解を得られず、子供ゆえに知識を実現するための物的リソースも無い。周囲をオオッと言わす系ではなく、むしろ少しずつ理解を得ていくタイプ。

『模倣犯 1』宮部 みゆき

 女性ばかりを狙った連続誘拐殺人事件の話。
 硬派なサスペンス。孫娘が誘拐された祖父、家族を皆殺しにされた過去のある少年、事件を追うライター、事件を捜査する刑事。彼ら彼女らの視点でひとつの劇場型犯罪を追う。
 物語の展開はゆっくりめだが、決してダレることはない。犯人からの電話、容疑者候補の浮上、少年の家出など、多彩なエピソードが差し込まれて読者を飽きさせない。しかもそれらには一つも無駄なものがなく、どれも本筋に深く関わってくる。怒涛の展開を矢継ぎ早に投下して読者を飽きさせないライトノベルとは対角に位置する。別にどっちが優れているという話ではなくてね。

『模倣犯 2』宮部 みゆき

 誘拐犯の凶行の話。
 2巻では倒叙法(犯人視点で事件を描く手法)で物語が進む。この犯人がわりとクズである。

『模倣犯 3』宮部 みゆき

 誘拐犯の凶行と葛藤と末路の話。
 一つの事件の一つひとつのエピソードを、異なる視点から丁寧に追う。丁寧にプロットを組まないと作れない構成。起こる出来事を慎重に吟味して、論理的に次の展開を考えないと必ずどこかで破綻するやつ。それが綺麗にまとまっているのは本当にすごい。
 フェミサイドが重要なテーマとして盛り込まれている。女性ばかりが殺される事件と、アイキャッチ的に女体を多用することで、女性という属性を「殺してもいいもの」として喧伝する社会。それらは本当に無関係と言えるのか。
 「この人はこれから殺されるので、この人が恋人と出会って結婚するまでの馴れ初め話をエモたっぷりに描写しますね。なのに殺されちゃうなんて残念ですね」と言わんばかりの回想シーンがヤバい。

『模倣犯 4』宮部 みゆき

 誘拐事件の「その後」の話。
「イヤな奴」のイヤさ加減の解像度が凄い。被害者面をして憚らない加害者の家族。妻の入院費と引き換えに離婚届を要求するクズ夫。
 読者だけは真実と犯人を知っている。これが倒叙方式の醍醐味か。真実を知っているのに主人公たちは気づかずに見当はずれのことを言っているもどかしさと、いつか真実への道が開けるワクワク感。プレイ済みゲームの実況動画を観ているような。なんか違うか。

『硝子のハンマー』貴志 祐介

 密室殺人の話。
 トリックの仮説を出しては「いや、それ無理です」と覆される展開の連続。その仮説が説得力バツグンなゆえに、否定された時に主人公と一緒にショックを受ける体験ができる。
 「そんなトリック、あり!?」という殺害方法。このトリックを最初に思いついて、後から物語を考えたらしい。

『ティアムーン帝国物語~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー 1』餅月 望

 処刑された姫が幼少期にタイムスリップしてバッドエンドを回避する話。
 まず思ったこと。これ、転生じゃなくない!? 自分の幼少期に戻るのは転生じゃなくてタイムスリップって言いません!?「転生」というワードがこのところ便利に使われ過ぎてる気がするわ~。
 主人公は姫君だけど人間くさくて、すなわち感情移入しやすい。姫だけど打算的で、ときどき詰めが甘い。
 「バッドエンドを回避する」という目的がハッキリしていて、主人公の行動原理は全てそのことを中心に回っている。そのためストーリーが分かりやすく、「なんで主人公こんなことしてんの?」と思うことがない。
 各エピソードは短めで話の単位が小刻み。テンポが良い。話の中のオチが弱いと感じる時もあるが。
 主人公の利己的な行動を周囲が勝手に「有能な姫君」として解釈する。コメディ的な「おかしみ」を感じる。後で知ったことだけど、「本人にはそのつもりが無いのに周囲が行動を勝手に良い方向に解釈して善人認定される」というのはWEB小説の物語の「型」として確立されているらしい。「俺、また何かやっちゃいました?」の親戚みたいなものかな。

『深夜特急 1』沢木 耕太郎

 インドのデリーからロンドンまで行く話。
 「旅文学の傑作」とラジオのCMでやっていたこともあり、街や土地の風景が臨場感に溢れており、その土地に行ったような気分さえ味わえる。
 香港・マカオ編。70年代のその街にはもう二度と行けないし、貴重な読書体験ができました。マカオ編を聴いて、とりあえず自分はギャンブルには手を出さないことを決めた。
 Audibleで聴いたけれど、朗読テンポが戦場カメラマン。あの、いっときバラエティ番組でよく見た戦場カメラマンの会話テンポで、延々と朗読される。雰囲気を出そうとしているのは分かるし、実際雰囲気バリバリなのだけど、ぶっちゃけじれったかったです。初めて倍速機能を使おうかと思ったわ!

『謎解きはディナーのあとで』東川 篤哉

 お嬢様刑事と毒舌執事が事件を解決する話。
 気軽に楽しめる本格ミステリー。短編集という形式と、殺人事件の話とは思えないほど語り口が軽くてコメディタッチなので、かなりライトな印象。人が死んでるんだぞ、なんだそのギャグは。

『サイレント・ブレス 看取りのカルテ』南 杏子

 人間の最期を看取る話。
 訪問診療の医者、という今まで読んだことのない題材の医療小説。
 必ずしもハッピーエンドではなく、中にはバッドエンドに近いものもある。
 短編集の形式であり「だいたい最期は死ぬ」という、ある種の様式美がある。問題はどんな最期を遂げるか。
 余談だけど、患者を看取る主人公の名前が水戸倫子(みと りんこ)はちょっと安易すぎない?

『君が最後に遺した歌』一条 岬

 ある女性との記憶の話。
 「歌が上手くても、逃げることにしか使えないから」というヒロインの台詞が繰り返し引用される。こういう印象深いセリフがあると、作品自体を印象付けることにも繋がる。
 恋人の余命を聞いた時は「・・・ベタすぎん?」と思った。

『凍える牙』乃南 アサ

 つよいわんこを追いかける警察の話。
 警察という男社会で生きる女性捜査官が主人公。バツイチ。バイク乗りカッコいい。
 よりによってミソジニーおじさんの刑事と組まされるのが読んでいてストレスだったな~。最後まで自分のミソジニーを反省した素振りも無かったし。
 1996年の作品だからか、「おかま」など引っかかるワードが多数。

『鍵のない夢を見る』辻村 深月

 ハズレなしの短編集。
 小学生の頃の盗癖がある友達、地元の町役場の気持ち悪い男、DV彼氏、夢想家の儚げ系イケメン、育児ノイローゼの母。
 ストーリーは劇的なようで、その題材は現代の生活に根差している。ストーリーにハラハラしつつも共感もできる。そりゃ直木賞も取るわけだ。

『ダークゾーン 上』貴志 祐介

 人間で将棋をする話。
 異能デスゲーム。みんなコウモリとかドラゴンなどの人外なのでイメージするのが大変。主人公とヒロインはかろうじて人間。
 デスゲームと将棋という斬新な組み合わせ。突飛なだけでなく、しっかりと説得力をもって設定に組み込まれている。それぞれ役割を持つ役駒、その特性を活かしたストーリー構成は二転三転して読者を飽きさせない。
 作者さんは将棋が趣味らしい。趣味を作品作りに活かせるのってスゴいと思う。

『ダークゾーン 下』貴志 祐介

 人間で将棋をする話、終局。
 パワーインフレが起こってフルパワーのぶつけ合いをしたり、高度な読み合いをしたりと毎回バリエーションに富んだ展開。将棋にちなんで七番勝負なので七回戦もある。私だったら、七つもバトル展開を考えられません。プロってスゴいね。
 オチはちょっと弱いかな。
 物語とは関係ないけど、女性に甘いだけの男性を「フェミニスト」と呼ぶ懐かしの表現があってクスッとしました。

『スロウハイツの神様 上』辻村 深月

 クリエイターが集うアパートの話。
 児童漫画家志望、画家志望、脚本家、そして大人気漫画の原作者。メインキャラが全員、なにかしらを作る人。小説を書く人志望の自分として刺さるものがある。
 バランス良く配置されていたスロウハイツの住人に、中盤からゴスロリかまってちゃん美少女が乱入する大番狂わせ。読者に「面白くなってきやがった」感を植え付ける。

『スロウハイツの神様 下』辻村 深月

 クリエイターたちの未来の話。
 脚本家は「カッコいい女性」だが、同時に脆さと弱さを持つ女性でもある。いずれにせよ魅力的な女性キャラ。
 物語は群像劇として進む。物語は複数のエピソードを絡めつつも、脚本家と漫画原作者を中心として回り、脱線はしない。漫画原作者のニセモノ出現という「謎」も提示して物語を引っ張る。登場人物が多いほど、並行するエピソードが多いほど、中心となる軸が必要となる。綿あめの割り箸みたいに、複数の登場人物とエピソードを絡めとる軸となる強烈な人物や概念が必要。

『氷菓』米澤 穂信

 省エネ主人公の小規模な事件の話。
 文章のラノベ感がすごい。主に、持って回った言い回しが。
 主人公の論理は「省エネ」。彼の行動は常に省エネを原理として決定される。主人公の行動原理がハッキリしている作品は良い作品。
 ジャンルはミステリー。いわゆる人の死なないミステリー。ただ、解決は分かりやすいものではなく「あ~、そういうことだったのね、なるほど。ふ~ん・・・」とモヤモヤする感じは残る。
 「私、気になります!」が印象的なセリフとして繰り返し使われる。やっぱり決め台詞を用意しておくほうが作品が際立つ。

『愚者のエンドロール』米澤 穂信

 素人が書いたミステリーを推理する話。
 『氷菓』シリーズ2巻。ミステリーの素人が脚本を書いたミステリー映画の真相を予想する、というひとヒネリ加えたミステリー。
 「ミステリー」の定義も焦点になる。世の中には『13日の金曜日』や『エルム街の悪夢』がミステリーだと思っている人たちがいるらしい。素人のミステリーなので、そうした初歩的なことも考えなければならないのが面白い。
 ・・・定義でよく荒れる百合ジャンルに身を置く者としては、他人事だとは思えません。

『クドリャフカの順番』米澤 穂信

 あるモノが消える文化祭の話。
 『氷菓』シリーズ3巻。今回は1巻みたいな「モヤモヤする真相」が復活しちゃったな、という感想。文化祭のお祭り感は楽しい。私の母校も文化祭にものすごく力を入れるところだったので、学生時代を思い出して懐かしくなったり。
 最後のオチは主人公の「省エネ主義」という行動原理が無ければ成せなかった。

『遠回りする雛』米澤 穂信

 省エネ少年のミステリーな日常の話。
 『氷菓』シリーズ4巻。今回は短編集。季節を飛び越えて様々な事件が起こる。もちろん人は死なない小規模な事件。
 まだ主人公たちが出会ったばかりで距離のある初々しい頃から始まるので新鮮。時系列が前後するとこういうこともできる。

『ふたりの距離の概算』米澤 穂信

 新入部員が出ていく話。
 前回は短編集、今回は連作短編。新キャラ登場、そして退部を叩きつけられる。
 新入生勧誘会にて、製菓研究会が看板を出しておらず、使っているデスクが不自然に大きく、せっかく用意したコンロとヤカンを何故か使っていないことから、学校内でとある事件が進行中であることを見抜く。主人公たちの推理力が相変わらずパない。

『まずは、自分をまるっと肯定しよう』藤村 高志

 実用書。
 とりあえずやるべきことをやれ、という話。
 やるべきことをやっていないと、常に「アレをやらなければ」というタスクが脳内でバックグラウンド処理され続けるため生産性が落ちる。可能な限り、やるべきことは早めに済ませるべし。私も積み百合小説は早めに読んでしまおうっと。
 気がかりなことが気になって、他のことに支障が出るなら、気が済むまでやればいい。

『ボクたちはみんな大人になれなかった』燃え殻

 スマホ時代から90年代を追憶する話。
携帯電話も無かった時代、テレホンカードで公衆電話を使う描写が懐かしい。私はほとんど使ったことはなかったけれど。
 「君は面白いから大丈夫だよ」うろ覚えだけど印象に残ったセリフ。なにが大丈夫なのかよく分からないけれど、大丈夫な気になれる。
 展開は正直いって冗長。エクレア工場からテロップ会社に転職、2人の女と関係を持つ、仕事中に事故る、という展開を多少の山や谷はあれど、大抵は意外な展開もなく進む。

『嘘つきジェンガ』辻村 深月

 3人の嘘つきの話。
 「嘘」をテーマにした3つの短編集。最初の話はコロナ禍が舞台。今後はそうした作品も増えるのだろうか。
 嘘にもグラデーションがある。許せないような嘘から、大切な何かを守るためについた嘘まで。嘘でもいいじゃん、と思えるような。
 3番目の話はアクタージュ事件がモデルだろうか。もちろん設定はかなり変えてるけど、「これアクタージュのやつでしょ」と分かる人には分かるやつ。

『祝祭のハングマン』中山 七里

 刑事物のフリをしたトンデモな話。
 最初はオーソドックスな刑事物だと思ったよ。刑事が主人公で、事件を捜査して、手がかりを集めて。でも、絵に描いたようなニヒル探偵が出てきたあたりから作品の様子がおかしくなる。犯人が法的に手を出せない相手で、仲間として絵に描いたようなスーパーハッカーが出てきて、しまいには違法捜査で証拠を集めてくる。トンデモ展開の果てにあるラストは、刑事物では絶対に許されない。
 100冊の中でいちばん「・・・なんじゃこりゃ」と思った一作。

『マレー鉄道の謎』有栖川 有栖

 目張りされた密室殺人事件の話。
 「国名シリーズ」という作品の6作目から読む。理由は、マレーシアに行ったことがあるから。
 あとがきで作者自身がツッコミを入れているが、『マレー鉄道の謎』というタイトルなのに事件やトリックにマレー鉄道が一切関係ない。『トレーラーハウスの謎』でしょ、これ。
 主人公たちのいるところに強烈なにわか雨が降ってきたら、突然「これを”男性的な雨”と表現したら最近では差別的とか言われちゃうのかな~。でもそうなると名詞に性別がある言葉はみんな差別になっちゃうけどフェミニストはどう思うのかな~(チラッチラッ)」みたいな物語上、不必要な地の文が数行にわたって続く。こういうのを見ると、昔の男性が書いた小説だな~って思っちゃうね実際。

『ヘルドッグス 地獄の犬たち』深町 秋生

 暴力団に潜入する刑事の話。
 暴力団の組織構成や抗争、登場人物の関係性を字の文で長々と説明するのは好みが分かれそう。
 正義感の強い刑事が暴力団に潜入したことで暴行や殺人に手を染めざるを得なくなり、良心が激しく揺さぶられるシチュエーション、いいですね。さっきまで暴力団員のアニキとして殺人と暴力沙汰を演じていた主人公が、一人になった途端に良心の呵責と暴力への嫌悪に耐えきれなくなってトイレに駆け込んで嘔吐するシーンがめっちゃよかったです。
 相棒ポジションのヤクザの青年のキャラがめっちゃ好み。生まれが最悪な、ピュアなサイコパス。素で暴力を楽しめる純粋な子。子供っぽい面と暴力性が同居している。

『ヘルドッグス 煉獄の獅子たち』深町 秋生

 想い人を失った刑事が、かりそめの恋人を得る話。
 ヘルドッグスシリーズ第2弾。時系列は1巻より前らしいけれど、読み終わったあともそのことに気づきませんでした。私の読解力よ。1巻で壊滅したはずのとある暴力団が何故か存在していることに違和感は抱いていたんですけどね~。
 前回も救いのない話だったけれど、今回は見方によってはそれ以上に救いが無い。特にあるキャラクターはかわいそすぎて、もう少し良い事があってもよかったんじゃない!?と理不尽な思いに駆られる。

『自分を変える習慣力』三浦 将

 実用書。
 良い習慣を付けて、悪い習慣を断ち斬ろう、という話。
 良い習慣は新たな良い習慣を呼ぶ。私の場合、朝は30分早く起きる習慣を最初に作った。すると眠気さましのコーヒーを淹れるようになる。コーヒーを淹れているあいだヒマなので、体をほぐすためにストレッチをする。健康的である。
 習慣を定着させるコツは、しんどくならないように、頑張らない。無理しない。肩の力を抜いて、70%ぐらいのパワーでやること。

『罪と罰 上』フョードル・ドストエフスキー

 老婆を殺す話。
 とうとう大長編の古典文学に手を出す。
 昔の小説だからなのか状況の5W1Hの描写が不親切に感じる。「いま、誰が何のシーンをしてるの?」と見失うことが多々あった。最近の小説がいかに読者が置いてけぼりを食らわないよう気を遣ってくれているかが分かる。
 昔の作品だからなのか「きちがい」というワードが繰り返し出てくる。そんなに何度も「きちがい」「きちがい」言わなくてもよくない? と、思うぐらい出てくる。

『罪と罰 下』フョードル・ドストエフスキー

 老婆を殺した話。
 オチを言ってしまうと、主人公は最後には無事に捕まる。量刑は人を殺した割には案外軽くて済んだ、というオチ。重くて陰鬱なイメージが強い作品だけど、結末はわりと希望がある。
 「うっちゃっておくれ」という台詞が何度も繰り返し出てくるので印象に残った。
 ロジオン・ロマーヌイチ・ラスコーリニコフ。本作の主人公の名前。最初は「10秒で忘れるわ」と思っていたけど、1000ページ近い大長編で何度も繰り返し名前が出てくるので、さすがに覚えた。

『サンドイッチクラブ』長江 優子

 小学生と砂像の話。
 砂で創る彫刻、砂像が物語の重要なファクターとして登場する。小学生の少女である主人公と親友の女子は、とあることから砂像作りと関わることになる。やがて崩れる運命の砂像が小学生のグラグラしたアイデンティティと重なって、象徴的に映る。
 主人公は小学生の女子ふたり。将来の夢が無くて成績も平凡で取り立てた特徴も無い子と、入学式に防毒マスクを持ってくるほど伝説に事欠かなくて口癖は「憲兵を呼ぶ」「アメリカの大統領になる」とキャラ立ちが激しいのに、実は誰よりも心が弱い子。
 登場人物にYoutuberキッズがいるのが今風。
 夢や目標のない子供が主人公なのは、おそらく多くの読者の共感を呼ぶ。若者はもちろん、悲しきかな夢を見つけられなかった中高年まで。

『イシューからはじめよ 知的生産の「シンプルな本質」』安宅和人

 実用書。
 効率的にアウトプットをするには、意味のある仕事だけをやること、みたいな話。
 「競馬で勝つには当たり馬券だけを買えばよい」みたいに聞こえるけど。意味のある仕事だけ出来たら、こんな苦労しないわ!
 「言葉は概念を説明するうえで最もバグが少ない方法」という解説はものすごくしっくりくる。Twitterでよく流れてくるコミックエッセイって分かりやすいけど、分かりやすさの副作用として誤解も生まれやすい。

『六人の赤ずきんは今夜食べられる』氷桃甘雪

 赤ずきんを狼から守る話。
 「食べられる」は何の比喩でもなく、文字通りムシャムシャ食べられる。いや、比喩でもイヤだけど。か弱い子供を救うのは大人の使命、という原始的な欲求に訴える話。
 限られた空間でモンスターと戦う、パニックホラーというやつ。
 導入がやや長い。世界観の説明や主人公の身の上話は後にして、まずは主人公を赤ずきんたちと交流させてもよかった。それから「実は彼女たちは今夜、狼に食べられるんですよ」と状況説明したほうが、いったん心を通わせた相手だから「助けなきゃ!」という気持ちになるのでは。なんだか、主人公が一人で盛り上がってる感じがどうにも。

『夏へのトンネル、さよならの憧憬』八目 迷

 時をかけるトンネルと、ミステリアスでクールで時々バイオレンスなヒロインの話。
 トンネルの中に入ると、1秒経つごとに外の世界では20分が過ぎている。数分も過ごせば1週間は経っている。そんな不思議なトンネルのお話。
 家庭環境が悪い主人公と、同じく家庭に恵まれないヒロイン。どこか欠けた者同士が出会うのは青春モノあるある。
 トンネルの中では亡くした妹や過去に失った大切な物など、立ち止まらざるを得ないものが現れる。早く脱出しないとどんどん時が過ぎていくのに、そういう意地悪をしてくるところがニクい。

『狼と香辛料』支倉 凍砂

 商人とつよつよ狼の話。
 名前だけは聞いたことがあるラノベを読んでみた。うだつが上がらない商人の荷馬車に美少女が!なるほど巻き込まれ系だったのね。
 物語の展開はよく言えば硬派、悪く言えば地味。取引と商談を繰り返す商人の日常と、たまにある一攫千金。そして暗躍する敵対商会。ときどき差し込まれるヒロイン萌えシーン。
 ヒロインの戦闘能力はとても高い。強キャラ系ヒロイン。だけど主人公は商人なので、商売敵をブッ飛ばして一件落着というわけにはいかない。そんなことをしたら商会から追い出されて商人仲間からハブられる。ヒロインがいるおかげで武力はやたらあるのに、力だけでは解決しない世界の住人が主人公なのは面白い。
 主人公の行動原理が弱めに感じる。「ヒロインを北の村に連れていく」「いつか自分の店を持つ」という目標はあるけれど、それは今すぐやらなければならないことではない。切迫した何かが無いと小説として盛り上がりに欠けるなあ、と思っていたら2巻でめちゃくちゃ切迫した状況になった。そうそう、そうこなくては。

『贖罪』湊 かなえ

 罪もないのに罪を背負わされた4人の少女の話。
 モノローグから構成される、ある少女の死にまつわる4人の女の人生。凄惨な事件の犯人を目撃した人間の、その後を描く。モノローグ文体で会話文が無いと、人間同士の会話文を考えなくていいから普段他人と話さない身でも書きやすそう、というのはモノローグをナメすぎだろうか。
 やられた方はいつまでも覚えていて、それが呪いとなって積みに積もり、ある日とつぜん自分を動かす。そういうお話。
 少女たちは殺人事件の犯人を目撃したのに、犯人の容姿をうまく証言できなかったことで被害者の母親から責めたてられる。少女たちは「罪」を抱えたまま大人になり、あるきっかけからとある男を殺すことになり、贖罪を果たす。ここにロジックの飛躍がある、いい意味での飛躍。目撃証言が出来なかった「罪」への贖いが、まったく関係のない男を殺すことで果たされるのだろうか。直接的には関係ないが、間接的に過去の「罪」、そして贖いへの意識が殺人に繋がった。
 作品を作る上では、ガチガチに固めた矛盾のカケラも許さないロジックだけでなく、時にロジックの飛躍も必要になる。人間は論理だけで動く生き物ではなく、感情に大きく左右されるから。その場の感情に振り回されて人生を棒に振ったり、計算も打算もかなぐり捨てて愛を選んだり、時に常人には理解できない狂気に駆られたり。こうした”飛躍”を重要なピースとして物語の一枚絵にはめ込められたらいいな。

『ミステリーの書き方』日本推理作家協会 編著

 実用書。
 プロ作家が伝授する、ミステリーの書き方の話。
 以下、作家ごとに内容を要約。
〇福井晴敏
 エネルギーは創作に吐き出せ、ネットに使うな、限りあるエネルギーを無駄遣いするな。
 技術は後から付いてくる。とにかく思いついたものを書け。
人間の喜びや痛みを余すことなく書くのが小説。人間の心を描くこと。人間の心が分からないなら、分からないなりにあがくサマを照れずに描く。
〇森村誠一
 作品アイデアのアンテナを張り巡らす。ドラマチックな非日常よりも、日常の会話など何気ないところからヒントを得ることが多い。行列に並んでいる時も前後の客の会話に耳を傾けるといいかも。
〇山田正紀
 複数のジャンルを横断した作品を書くなら双方にリスペクトを。人気のジャンルのキャッチ—な部分だけを表面的に拝借するだけ、というのは失礼極まりない。(私の心の声:ステレオタイプな「百合キャラ」を当て馬として出すヘテロコンテンツに爪の垢を煎じて飲ませたい)
 これからはたぶん、感動ものが売れる。プロを目指すなら流行りに乗るべし。感動ものは技術で作れるから。
〇五十嵐貴久
 小説には古典が山のようにある。映画や漫画、アニメと比べてもその量は多い。
 なんだかんだで基礎が大事。古典を読んで基礎を磨こう。
◯石田衣良
 会話文の作りかた。
 全てのセリフは、結末へと向かう矢印である。物語の流れを構成するもの。
 セリフを書く前に、そのセリフで何を伝えたいか、何を表現したいかをしっかり考えておくこと。
◯伊坂幸太郎
 シュルレアリスムな組み合わせを考えること。書店強盗とボブディラン(アヒルと鴨のコインロッカー)、死神とCDショップの試聴機(死神の精度)など。「死神+空を飛ぶ」では当たり前すぎて面白くない。「死神+CDショップ」で、いつまでも試聴機からどかない邪魔な客が実は死神、という意外な組み合わせがよい。
〇東直己 
 魅力的な主人公には弱点がある。弱点があれば、物語を説得力のある展開にできる。
 桃太郎には弱点が無い。一切の挫折展開のないまま鬼が島に乗り込んで鬼をボコボコにする。なんだ背中のノボリの「日本一」って。勝手に日本代表を名乗るな。
〇貴志祐介
 悪役は作品の神に愛されている。
 主人公が犯人の車を追ってカーチェイスしている時、犯人の車がエンストしたので捕まえることができて事件解決になったら、お粗末すぎて「金返せ」案件である。しかし主人公の車がエンストしたら、それはピンチというおいしい展開としてむしろ面白くなり、読者から受け入れられる。
 主人公と犯人はコインの裏表。基本的には犯人のほうが勝つ展開が多いので、必然的に犯人は勝ち続ける。最後には主人公に負けるとしても。
 「ご都合主義」でも主人公がやるとブーイングものだが、犯人がやると逆にカリスマ性のようなものが増す。
〇神崎京介
 小説は倫理道徳を説くものではないが、読んだ人の心が汚れるものであってはならない。
 主人公の容姿の描写はあえて曖昧にして、描くとしても年代ぐらいに留める。細部を読者に委ねて頭の中で再構築してもらう。そうすれば感情移入してもらえる。
 状況説明は地の文ではなく会話のほうが自然。でもやたら説明口調な会話は不自然。
〇花村萬月
 推敲のしかた
 推敲とは、文章をカッコいいものにすること。破綻したストーリーを直す行為では断じてない。
 ベストセラー小説の冒頭に「その食堂の広さは広い。」という文章があった。こういうのを直すのが推敲。
 推敲とは、シェイプアップ。文章をスリムにすること。贅肉をそぎ落とす。基本的にはそぎ落とす作業だが、たまに筋肉を付けるようなこともする。
〇恩田陸 
 タイトルの付けかた
 読者に「読みたい!」と思わせる、内容の魅力を伝えるタイトルを考えよう。
 良いタイトルとは、タイトルを見て、ある程度の内容をイメージできるもの。なおかつ、実際はどうなんだろうという興味が湧くもの。「こういう感じかな、でも見てみないと分からないよね。気になるなあ」
 『羊たちの沈黙』はちょっと怖い雰囲気があって、内容が気になる。キリスト教の知識があるなら「羊」の意味も分かる。
〇横山秀夫
 作品に緊張感を持たせる方法
 頭で主人公の心を鷲掴みにする出来事を起こす。主人公にとって最も起きてほしくないことを起こす。日頃から思っている「これだけは起きてほしくない」を起こす。主人公が潜在的に抱いている恐怖を具現化してやる。
 「起こってほしくないこと」は殺人事件では都合が悪い。主人公が殺されると物語にならないし(幽霊が主人公の場合は除く)、主人公と親しい人物にしても殺されるのは主人公ではないから当事者ではない。刑事や探偵が主人公の場合も同じ。主人公が当事者となる最悪な出来事としては、社会的な死や組織内での死などが挙げられる。不正がバレたりなすりつけられたりして失脚したり。主人公が最悪な出来事の当事者その人であること。
 「起こってほしくないこと」としては「職業人として起こってほしくないこと」「個人として起こってほしくないこと」がある。横山作品では裁判官が裁判中に居眠りをして、かつ年の離れた愛人の名前を寝言で言ってしまうシーンから始まるものがある。これは職業人として絶対に起こってほしくないことだ。
 最も極致に陥るであろう職業・立場の人を主人公にしてみよう。
 時間制限を設定しても緊張感が増す。2日以内に警察の不祥事を解決しないと世間に公表しなければならなかったり。

『島はぼくらと』辻村 深月

 島で育った4人の男女の青春な話。
 田舎コミュニティをむしろ肯定的に描いている。同じ作者の『スロウハイツの神様』では田舎の閉鎖的コミュニティをネガティブに描いていたので、ちょっと意外。
 「Iターン」というワードが何度も出てくる。「地方創生」「地域住民と外部からの移住者の共生と軋轢」「地方コミュニティの良い面」がテーマ。(しかしIターンという言葉も妙と言うか、ツッコミ待ちに思えてくる。Iって直線じゃん。まっすぐじゃん。ターンしてないじゃん。)
 父親を亡くした主人公は地域コミュニティに育てられたので、よくある地方コンプレックスは無いようだ。むしろこの島を好いている。
 島の男たちは「兄弟」として盃を交わしている。女たちは男たちの兄弟関係に付随する形で姉妹のような心のつながりを持つ。つまり、夫同士が兄弟だと妻同士も仲良くなる。なんかホモソーシャルの副産物としての女同士の関係性だし、未婚の女性はどうなってんの!なんか気に入らねえ!と思ってたら、終盤でそのことを作品自ら批判してくれたわ!やっぱりそう思ってたのね!

『反応しない練習』草薙 龍瞬

 実用書。
 疲れるから無駄な反応はするな、という話。
 悩みの解決方法は、無駄な反応をしないことにある。悩むのはしょうがない。人生はままならないもの。そこを認めて、そのうえでどうするかを考える。
 心が乱れたら、すぐさまその状態に名前を付ける。客観視することで冷静になれる。これをラベリングと呼ぶ。
 嫌な気持ちになったとき、即座に気分転換できる習慣を付けておくこと。私の場合は深呼吸をすることにしている。四つ数えて息を吸い、四つ数えて息を吐く。四拍呼吸法というやつです。

『みんな知ってる、みんな知らない』チョン・ミジン

 ふたつの孤独な部屋の話。
 「幼い頃にひとりぼっちで閉じ込められた経験」のあるふたりの少女の話。ふたりの話は独立しており、彼女たちが関わることは無い。
 同時期に発生した少女誘拐事件と少女置き去り事件が、繋がりそうで実はそんなに繋がってなかった、ある意味斬新な話。でも面白かったです。
 「負けないで、あらゆる辛い記憶に」。あとがきで語られる、全ての女性へのメッセージが心強い。勝たなくてもいい。だけど、負けたくないね。

『路地裏に怪物はもういない』今慈 ムジナ

 現代最後の怪異の、平成最後の夏の話。
 イン・メディアス・レス形式。「主人公がヒロインや仲間と出会って仲良くなって、怪異捜査をするようになる」までのエピソードがまるっと省略されて、いきなり主人公たちが仲良くしているシーンから始まる。ダラダラ展開されるより手っ取り早くて、私としては助かります。
 あからさまに化物語から影響を受けている。むしろ受けてなかったらウソだ。
 「怪異」「乖異」を同音異義語で使っているらしいが、音声ではよく分からない。オーディオブックでは漢字の説明をさりげなく付け足す手もあるのでは。実際、そうしてくれる作品もあるし。ラノベによくあるこの手の言葉遊びとオーディオブックは相性が悪い。
 主人公とヒロイン関係性:現代の最後の怪異の主人公と、怪異を殺す使命を持った一族の当代であるヒロイン。ヒロインにとって主人公は最後の存在意義であり、同時に殺すべきモノ。なかなかに上質な関係性を考えましたね。

☆おすすめ!『裏世界ピクニック 1』宮澤 伊織

 大学生が「くねくね」を狩る話。
 名作百合SFをオーディオブックで再読。
 空魚のセリフの少し幼い読み方が解釈通り。めっちゃ八重歯キャラっぽい声、と言うと分かるだろうか。
 「オフィーリアかと思った」の言い方が良い。大事なセリフだということを理解した声の出し方。
 空魚の早口オタク台詞が実際にちょっと早口で朗読されている。朗読者のストーリーへの理解が厚い。
 アニメとはまた違った趣の演技なので、原作ファンの人も聴いてみてね。

『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』ジェーン・スー

 エッセイ集。
 とある大人女子の叫び。
「Facebookに上がるフレンチビュッフェが女子会なら、スペインバルか居酒屋に集う終業後の女たちは海賊の宴だ。分かるか? あの『カリブの海賊たち』で出てくる宴。二本足で立つ動物が出てこない、ディズニーランドの素晴らしきアトラクション」
「30代単身は竜宮城だ。気がつくと37歳になっているぞ」
「20代の稼ぎを30代で全部使うのも一興。清水の舞台から飛び降りてしばらく骨折してるの楽しいィー!家賃と同じ額のワンピースを買って、着るたびに『家賃』と思っていた」
「こんなにソワソワした40代になるとは思わなかった。こんなに子供っぽい30代になると思わなかったのと同じように」
「30代前半は二度目の思春期」
 印象的な文章が多すぎる一冊。いい歳になるのが楽しみになる。

『キミとは致命的なズレがある』赤月 カケヤ

 とある殺人の記憶の話。
 サイコパス系サスペンスなのが好みだし面白かったんだけど、ホモフォビックな描写があったのが残念。
 「ッス」語尾の女子が可愛い。
 犯人が誰なのか終盤まで全く分からなかった。判明した時の「マジで!?」感は半端ない。

『本を守ろうとする猫の話』夏川 草介

 出版業界の現状をファンタジーに語る話。
 読書をステータスとして誇示する男、本を切り刻んで短文に要約してしまい「効率的な読書」を作り出す男、利益至上主義に囚われた出版社の男。本を取り巻く諸問題を擬人化したような者たちと、本好きの少年が対峙する話。
 読書をステータスとする風潮、忙しいのでタイパ良く読書をしたい需要、売れればいいという商業主義。これら出版業界の現状を読者が共有していることが、本作の物語を理解する条件となる。
 物語はもっぱら主人公の古書店と、古書店から繋がる不思議な世界のみを舞台とするため、街なかの書店で店員が「分厚い本は売れないな~」「もっと分かりやすい本が売れるんだよな~」とボヤくシーンなどの『読者に前提情報を共有するフェーズ』が無い。ミステリーでもどんな事件が起こったのかが最初に説明される。なんの説明もなく推理が始まるミステリーは読んだことがない。
 これは大きな賭けである。たまたま私が「本がなかなか売れない出版業界」という前提情報を知っていたからいいものの、そうでない読者は完全に置いてけぼりである。「読者がメタレベルで前提情報を共有している前提で物語を進める」は物語のテンポが良くなる反面、リスクも大きい。
 いちばんスマートなのは冒頭で手っ取り早く前提情報を共有すること。たとえば『ルパン三世 カリオストロの城』の冒頭では、カジノ泥棒のシーンを通して「主人公はこのふたり、ルパンと次元です」「ふたりは泥棒です」「障害物を軽々と飛び越えられるくらいの身体能力があります」という説明が手っ取り早くされる。

『ハンチバック』市川 沙央

 社会から取り残された女性が、「普通」をやろうとする話。
「私は紙の本を憎んでいた。目が見えること、本が持てること、ページがめくれること、読書姿勢が保てること、書店へ自由に買いに行けること、――5つの健常性を満たすことを要求する読書文化のマチズモを憎んでいた。その特権性に気づかない『本好き』たちの無知な傲慢さを憎んでいた」
「紙の匂いが、ページをめくる感触が、左手の中で減っていく残ページの緊張感が、などと文化的な香りのする言い回しを燻らせていれば済む健常者は呑気でいい」
 読書バリアフリーという概念はもっと広がってほしい。本は紙の本を読める能力がある人だけのものではない。腰痛持ちとして言うけれど、紙の本を読む姿勢を維持するのって思ったよりもハードル高いよ?
 「妊娠→堕胎」までやれば、世間の健常者女性と同じになれると思っていた。世間の女性は「おろす」行為をやっているから。だから大金を払って男を自分とセックスさせる。それは狂気。「普通になりたい」という狂気。「普通」を押しつける社会が生んだ代物。
 社会から取り残された女性とクズ男の組み合わせは『コンビニ人間』でも読んだ。最近の芥川賞はこういうのが好みなの?

『あなたはあなたが使っている言葉でできている』ゲイリー・ジョンビショップ

 実用書。
 とにかく、やれ! に集約される話。
 「目標を達成するために努力する」ではダメなのだ。いま、目標を達成しろ。
 がむしゃらになれ。ただし、それはレンガの壁を素手で叩くわけじゃなくて、ハンマーとノミで慎重に崩していく。ちゃんと方法は選んだ上で、ひたすらに前へ進む。
 成功する人は、待たない。やる気が出るのを待たない。ふさわしい時が来るのを待たない。神なんて降りてこない、インスピレーションが湧いて出るのを待ってなんかいられない。
 自分のスゴさは自分でアピールしろ。自分では何も言わないのに、他の誰かが「こいつスゴいんですよ」と喧伝してくれるはずがない。

『推し、燃ゆ』宇佐見 りん

 推しが炎上した少女の、その後の人生の話。
 理由も見返りもない、必要ない。ただ推しが推しであるがゆえに推す。だけどそれは、本当に純粋な奉仕の気持ちだろうか、と思う。「推しを推す」という行為を通して自己陶酔に浸っていないと、どうして言えるだろう。
 認知もされず、ただ金だけを捧げ続けた。救いも何もない関係性。さすがに、実際のアイドルの推し現場はもう少し救いのあるものだと思いたいけれども。

『むらさきスカートの女』今村 夏子

 ある意味、ヒロイン観察系な話。
 主人公が普通にストーカー。女性同士だからヤバさの感じが希釈されていると思うべきか、いやいや女性同士でも普通にヤバいでしょというべきか。うん、後者だな。
 「むらさきスカートの女」と呼ばれる女性の行動に対して「ダメだ、そうじゃないだろう」という、心の声で謎目線のツッコミを入れる主人公。むらさきスカートの女ならこうするべきだ、という謎の解釈が主人公の中で完成してしまっている。本人の意志とは関係なく。
 主人公が、主人公であるにも関わらず物語や登場人物にほとんど関わってこない。むらさきスカートの女を観察して様子を描写するだけの存在になっている。
 主人公が「むらさきスカートの女」に執着している理由が一切明かされない。「友達になりたい」とは地の文で言っているけど、どうして友達になりたいのか明かされない。そこが怖い。
 むらさきスカートの女が上司の男と付き合って「女」になり、おそらく主人公にとってつまらなくなった。むらさきスカートの女は主人公にとっての「推し」だったのかもしれない。

『根腐れ』誉田 哲也

 他人に奉仕しているようで、実は自分が満足することしか考えていない話。
 花に水をやりすぎて根腐れさせる人間。花が好きなんじゃなくて、水をやる自分が好きなだけだ。
 自分に余裕がないのに他人に尽くしてしまう私も、もしかしたら尽くす自分が好きなだけなのだろうか。

『シュレディンガーの猫探し』小林 一星

 探偵嫌いがミステリーに挑まされる話。
 いわゆるアンチ・ミステリー。推理小説でありながら主人公は大の探偵嫌い。そして探偵役は事件を迷宮入りさせる「迷宮落としの魔女」。
 解決を拒む推理小説、令和の時代の時代錯誤な魔女。それらは反抗的で、ミスマッチ。意外性を狙いつつも、その「意外性を狙う」方向性自体はありきたりな気がする。
 「令和」と「過去の産物」「時代錯誤」の組み合わせは『路地裏に怪物はもういない』を思い出す。奇しくも同じガガガ文庫。でも、令和って言うほど新しいだろうか。私には表面上は先進性を繕っているだけで、中身は今までと同じく保守くずれが支配する国だ。同性婚はできない。結婚すれば名字を揃えることを強制される、大抵は男の姓に。景気は悪化の一途を辿り、消費税10%に加えて10月にはインボイスで実質増税・・・、って、ここで書くことでもないか。すんません。
 魔女の目的は事件を迷宮入りさせること。だけど、ただ事件が解決しないまま終わるのはエンターテイメントとして欠陥品となる。そこで、真実の一歩手前まで近づいたところで証拠を捏造して、「真実」をでっち上げる。そのでっち上げる手際が見事で、エンタメとして見事なオチを作り出している。
 アンチ・ミステリーの条件は最低限ミステリーしていること。ミステリーを普通に作れるトリックを考えた上で、ぜんぶ台無しにする潔さ。作って壊す。作らないと壊せない。

『鹿の王 1』上橋 菜穂子

 脱走した奴隷と、国をおびやかす疫病の話。
 しっかりとしたファンタジー。なので国名とか氏族名とか固有名詞が多くて覚えられない。
 疫病がテーマなのは今に刺さる。

『砂糖の世界史』川北 稔

 ノンフィクション。
 砂糖と人類のお付き合いのお話。
 砂糖は富と権力の象徴とされた。あんなにも甘くて、高くて、白くて綺麗。だから単なる調味料を超えた神聖なものと見なされた。疫病が流行した時も「神聖だから」という理由で万能薬として用いられた。
 イギリスにおけるアフターヌーンティーとティーブレイク。これらは「紅茶を飲む」という行為は同じだが、その内容は大きく異なる。アフターヌーンティーは貴婦人やジェントルマンたち上流階級の社交の場。一方ティーブレイクは産業革命期の労働者が仕事がひと段落して砂糖入りの紅茶を飲んで、糖分とカフェインを補給してもう一仕事頑張るぞー、という。今で言うところのエナジードリンクだと思う。
 砂糖は二つの側面を持つ。上流階級のたしなみであると同時に、労働者の生活必需品でもある。二つのシンボルを兼ねている。
 砂糖あるところに奴隷あり。アフリカで奴隷狩りをして、カリブ海諸島に売り、サトウキビプランテーションをさせる。作った砂糖をヨーロッパに売る。悪名高き三角貿易。
 「東の果て」のアジアの紅茶葉と、「西の果て」のカリブの砂糖。これらを合わせた砂糖入り紅茶を、イギリス人は安価に飲める。これこそがイギリスの力、とされた。

『真夜中の底で君を待つ』汐見 夏衛

 お互いに傷を持つ二人が、夜の底で出会う話。
 母に捨てられた女子高生。小説家になりたい夢を叶えたけど、その後は泣かず飛ばずで最近は一文字も書けない小説家くずれ。
 本作のテーマ:言葉にするって大事
 本を読まない高校生が羅生門から入り、小説を読んでいくなかで言語化の大切さに気づく。活字に苦手意識のある学生が、最初は短編から入るのは良い線いってますね。
 日常会話で難しい言葉が出ると「現代文の授業であった」と思うのが本を読まない高校生っぽい。
 「(小説に対して)好きすぎて、好きかどうか分からない」←わかる
 店員さんに「コーヒーを”お願いします”」と言うお客さん、いいよね。私も「お願いします」を付けるように心がけよう。

『爆弾犯と殺人犯の物語』久保 りこ

 過去に秘密を持つ男女の話。
 ジャンルを付けるとすれば、恋愛ミステリー。
 主人公は社会性のあるサイコパス。自分をさらけ出す衝動を抑えられることで社会に埋没できている。
 主人公はヒロインの左目の義眼に惚れた。左目は主人公が過去に仕掛けた爆弾で潰した。義眼が無かったら主人公はヒロインに惚れなかった。ヒロインとの出会いのきっかけは、主人公の過去の犯罪だった。
 連作短編であり、ミステリー調なのは最初の話のみ。他は最初の事件のその後を描いたり、爆弾事件とゆるく関わったもう一人の主人公の話を読むことができる。

『さよならの向う側』清水 晴木

 大切な人ともう一度だけ会える話。
 「死んだ人が最後に会いたい人に会える。ただしその相手は『自分が死んだことをまだ知らない人』だけ。自分が死んでいることを知っている人に会ったら即座に消滅する。制限時間は24時間」という特殊設定の感動系。死人と会えたり死人が生者と会えたりする話は何かと制約がある。そう簡単に死人と会えてしまったら生死の境が曖昧になって大変なことになる、ということか。
 異常なマックスコーヒー推しの作品。キーパーソンである「案内人」が事あるごとに勧めてくる。千葉が舞台なので、さもありなん。現実にあるアイテムを一つだけ登場させると、そのアイテムを見た時に作品を思い出してもらえて印象付けに一役買うかも。実在する土地が舞台ならご当地アイテムでも良し。
 「あなたが最期に会いたい人は、誰ですか?」という問いを読者に投げかけて終わる。読者が自分事として考えられるクエスチョンは大事。

『コーヒーが冷めないうちに』川口 俊和

 あの時、あの人に、もう一度会える話。
 「コーヒーが冷めるまでの時間、逢いたい人に逢える」。上記の作品に続き、特殊設定感動系を立て続けに読んでみた。
 過去に戻っても、現実は変わらない。だけどその時間のその人に逢ったことで、自分が変わることができる。「ようは気の持ちよう」みたいな話。
・良い点
 「ある席に座ることができれば、コーヒーが冷めるまでの時間、逢いたい人に逢える」という設定のオリジナリティ
 「コーヒーが冷める前に飲み干さないといけない、席からは立てない、以前にこの喫茶店を訪れたことのある人にしか逢えない」などの制約もある。制約があるのは燃える。
・悪い点
 だけど制約が多すぎる。特に「席には先客として幽霊がいて、その人が席を立たないと座れない」のくだりは正直いるの?と思った。ここだけ異物感がある。まだ1巻しか読んでないので、今後の巻で必然性が描かれたりするのだろうか。
 「東京に出てきた娘が妹の死をきっかけに地元の旅館を継ぐ話」に今の若い人は共感できるのだろうか。むしろ忌避感を抱くのではないか。
 「自らの命と引き換えに子供を産む女性の話」もそう。自分が死ぬことに何の迷いもなく、自分の命と引き換えに子供を産むのがあまりにも当然のこととして描かれていて怖い。

『営繕かるかや怪異譚』小野 不由美

 ホラーを解決する話。
 解決系ホラー。恐るべき怪異が起こって「怖~い!」で終わらずに、そこからリフォームという形で事態の解決に当たる。場合によっては住人が怪異との共生も選択する。新時代のホラー。
※こんな人にオススメ!
・一風変わったホラーが読みたい人
・ホラーだけど優しい物語が読みたい人

『蜘蛛ですが、なにか? 1』馬場 翁

 女子高生が転生したら蜘蛛だった話。
 小説を読むとき、私は脳内で情景を想像するようにしている。しかし今回は蜘蛛。敵クリーチャーではなく、主人公が蜘蛛。情景をイメージする難易度がバリ高い、けれど面白い。
 転生後、イチから転生生活を描写していく系。正直言って私はこのパートをじれったく感じる。
 幕間としてサブキャラの男性キャラ視点の話があるのは、女性主人公に感情移入できない欠点を抱えた男性読者への配慮でしょうか。難儀なことですな。
 オーディオブックで聴いているので、普段なら1秒くらいで読み飛ばす転生モノ名物・ステータス画面が数分間かけてじっくり朗読される!なんだこの苦行!




 以上、この半年で読んだ本でした。
 「100冊と言いつつ83冊しか無いじゃねぇかテメー」と言われそうですが、続巻が出ている作品をひとまとめにしたり、読んだけど感想を書けるほどの感想を抱けなかった作品もあったので、本記事に乗せるのはこの数になりました。Audibleの「再生済み作品」の数は利用を始めてから半年で116タイトルになっているので、100冊は確実に超えているはず。
 読書習慣を身につけて変わったことといえば、語彙がなんとなく広がりました。脳内で考え事をしている時も、オーディオブックを始める前には思いつかなかったような言葉がスンナリと浮かんできます。小説を書く人を志す者として、これは明確なプラス。この調子でコンスタンスに百合小説を書いていきたい・・・!
 今後は週一のペースで、その週に読んだ本の一言感想記事を書いていけたらいいな、と思います。

 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?