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【読書感想】今週読んだ3冊


『川のほとりに立つ者は』寺地はるな

・目に見えるものが全てではない話。
・ADHD、ディスレクシア(読み書きが困難の障害)など「他人から見たらそうとは分かりづらいハンデ」がテーマ。本人にとっては努力に努力を重ねてなんとか社会に合わせようとしているのに、傍から見れば「ちゃんとしていない人」と見られてしまう。
・私も発達障害者だけど、途中までものすごく他人事な感じで読んでしまっていた。とある人物がADHDだと分かっても、最初に抱いた感想は「そうなんだ、大変ですね」みたいな他人事感まる出しなものだった。私がいま働いている職場が気配りやマルチタスクなど、私が発達障害者として苦手とすることを要求されない環境なので、自分が当事者であることを忘れていたらしい。
・また別の登場人物は読み書きがとても困難。これには何故かすぐに共感できた。私は読み書き自体は出来るが漢字の書き方がほとんど覚えられず、漢字の構造を思い出して書くことが難しい。なのでパソコンやスマートフォンが普及した現代文明には感謝している。読みさえ分かれば機械が勝手に変換してくれる、良い時代に生まれた。
・「目が悪くなったら眼鏡を掛ける。『努力して視力を上げろ』とは言われない。どうして彼らは努力をしないといけないのか」という言葉が刺さる。そうなのよね~。発達障害や学習障害は「努力すればなんとかなる」と思われがち。その「なんとかなる」が当事者を苦しめている。そもそも、なんで他の人はしなくてもいい努力を、発達障害者や学習障害を持つ人はしなければならないのか。別に悪いことをしたわけでもないのに。
・小説を読むうえで「共感できるか」「自分ごととして捉えられるか」は特に重要と考えていないけれど、本作は最終的には私の当事者性をくすぐられる一冊になった。発達障害やそのほかの「他人からは分かりづらい障害」を持っている人。それだけでなく、身近にそうした障害者がいない人も、読めばきっと興味深く感じると思う。主人公は身近に障害者がいないせいで「世の中にはそういう人たちもいる」という想像力を持てなかった人なので。
・メインとなる関係性は男女カップルだけど、同性同士の友情も手厚く描かれている作品。主人公の彼氏の、親友に対する献身は物凄いし、主人公の親友ちゃんもめちゃくちゃいい子。主人公の親友は篠ちゃんと言うんだけど、「普段は気遣いとかしない感じなのに、こっちが辛いときには一番いいタイミングで欲しい言葉をくれる子」の具現化みたいな感じ。めっちゃ良いキャラ。



『恋する寄生虫』三秋縋

・恋に寄生された男女の話。
・作中で年の差へのツッコミ描写が入るとはいえ、27歳男性と女子高生の恋愛は正直言ってキモいぞ。
・巻きまれ系男の主人公とダウナー肉食系女子のヒロイン。世間ではまあまあウケそうな組み合わせ。



※以下ネタバレ

・二転三転する物語が面白い。主人公の潔癖症の原因が寄生虫で、寄生虫が原因で自殺した人間の話を聞かされて、寄生虫を取り除いたので潔癖症が治って、実は寄生虫を駆除すると自殺する事実が判明して、同じように寄生虫を取り除いたヒロインが行方不明になって、自殺したかと思いきや主人公と無事に再開して、これでハッピーエンドかと思いきや・・・?
 こうして書いてみるとジェットコースターみたいな激しい展開に思えるけど、中盤は説明文が多くてむしろ冗長に感じた。寄生虫の駆除を決めた後半の展開からが面白くなってくる。
・ただ、潔癖症という強迫性障害の原因が脳に取りついた寄生虫であるという設定はいささかの問題があるように感じる。フィクションの中とはいえ、実在の精神不安の原因をシンプルに「コレです!」とキッパリ決めてしまうのは、発達障害の当事者としても「そんなにシンプルな問題じゃないよ~」と思ってしまう。


『死にたくなったら電話して』李龍徳

・生きることに疲れて、死に惹かれた男女の話。
・Twitterで書名を書いたらアカウント凍結されそうな本。タイトルの確認のためにGoogleで検索したらこころの健康相談統一ダイヤルを紹介されました。
・ひらたく言うと「死は救済である」という物語。主人公はクソ職場でバイトをしている浪人生。将来に絶望し、生きることにほとほとウンザリしている日常を送っていたら、とあるキャバクラでヒロインと出会う。ヒロインは「死」に惹かれており、拷問関係の本や虐殺・民族浄化の本、魔女狩りの本などを集めている。それらの身の毛もよだつような内容を読みながら主人公とセックスする展開が独特すぎる。
・主人公がヒロインに魅入られてどんどんダークサイドへ落ちていく展開がすごく好み。だんだんと生を否定して死に惹かれるようになり、絶食に近い生活になって痩せこけていく。しかも主人公は自分が痩せ衰えている自覚がなく、体の衰弱に言及する文中の描写もない。久しぶりにあった知り合いに「お前どうした!?」とビックリされることで、読者は初めて主人公がやつれていっていることに気付く。この表現手法は巧いと思った。あえて描写をしないという、信頼できない語り手手法の一種といえる。
・終盤でめっちゃ良い人の知り合いに善意100%の励ましメールを貰うんだけど、それに悪意10000000%の返信をする展開が最悪すぎて最高。どうやったらこんなに悪意にまみれたヒドい文章が書けるの!?と感心するレベル。


・以下、本作の問題点を挙げます。ネタバレ注意。



 ヒロインが無性愛者。だけど、そのセクシャリティの扱い方に問題がある作品だと感じた。
 問題点は3つ。
・ヒロインが無性愛者であることを主人公が知るきっかけがヒロインの知り合いからのアウティングであり、しかもそのアウティング行為への批判描写は無し。アウティングはものすごく危険な行為だということは一橋大学の事件を見れば分かる通り。
・ヒロインは人格に少なからず問題のあるサイコなキャラクターだが、それと無性愛者であることが結び付けられているように感じた。「無性愛者のキャラクターはサイコにしてはならない」と言いたいわけではない。無性愛とサイコは関係ないものとして切り離されて描写されていれば問題は無い。だけど本作にそのような描写は無く、「無性愛者だからサイコな人格になった」という風に感じ取れた。両者を明確に結びつける記述があるわけではないが、無性愛者への偏見を煽りそうだと危惧する。無性愛者が心中を持ちかけるのは「無性愛者=生への活力が無い人」という偏見の型そのままでは。
・ヒロインが無性愛者であることを「驚愕の事実」として描写している。ストーリーのどんでん返しとして。セクシャルマイノリティを「驚くべきこと」として描いちゃアカンよ、現実にはセクマイは普通にいるんだから。


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