【百合マンガ感想】偽りのマリィゴールド①
百合度 :☆☆☆★★
百合タイプ:身代わり百合
男性キャラ:あり
邪魔度 :低
男はもう、死んでいる。
これを読んだ百合好きのうちの何人かは、こう思ったことでしょう。
「これ、”大丈夫なやつ” ですか?」と。
本作を連載開始時から追っている者として言います。
大丈夫です。
ヒロインが主人公の兄に恋心を抱いていたことがネックに感じられるかもしれませんが、二人はおそらくプラトニックな関係でした。体の関係はなく、たぶんキスもしていません。相手は妹と同年齢の子供ですし、兄は人格者であることが作中描写から分かるので、子供に手を出すような真似はしていないと考えられます。
本作では主人公の兄が「主人公とヒロインを繋ぐ存在」として重要な位置にいます。ただし既に他界しているため、それ以上ヒロインたちと関わることはありません。これは百合作品における男性キャラの安全な扱い方の一例だと思います。死んでいるのでそれ以上関係を進展させようがない。主人公がヒロインと出会うきっかけを残して退場する、潔いポジション。
亡き兄を想う少女を、兄の代わりに幸せにする。これまでにない百合シチュエーションにワクワクしますね。男性キャラをキーパーソンとして据えつつも、決して「男が絡む系」にはならない点が巧い。
他にも主人公が働く書店の店主として男性キャラが出てきますが、百合的に無害なおじいさんなのでご安心を。
可愛い絵柄と内容の凄まじいギャップ
本作の作者、サスケ先生の『気をつけなよ、お姉さん』を読んだことのある方なら分かるかと思いますが、絵柄が非常に可愛いことが特徴の作家さんです。本作も例にたがわず、可愛らしい女の子が魅力的な作品となっています。
ですが先に書いた通り、本作の物語は重いです。わりと。いや、かなり。現時点では暫定的異性愛者っぽい女の子がヒロインなこともそうですが、自分を偽る主人公の苦悩も重々しく描かれているため、絵柄を見て日常ものだと思ったら痛い目を見るかも。
そうした絵柄と内容のギャップも本作の特徴であり、これまでにない漫画体験を味わえます。
主人公→ヒロインの感情のゆくえ
さて、肝心の百合ですが、本作における百合は「兄の代わりにヒロインを幸せにしたい女の子の話」に集約されます。ヒロインの想い人を演じて自分を偽り、アイデンティティをねじ曲げてまでヒロインに尽くす。そうした「女が女のために自己犠牲に身を投じる」展開が百合的にものすごく美味しく感じます。女に尽くす女はいいぞ。
ですが、現時点では主人公はヒロインに対して「兄の身代わりになる」という役割を演じることに己の全てを注いでおり、主人公個人としてのヒロインへの感情はあまり見えてきません。
「兄の代わりに幸せにする」と明言していますが、主人公自身はヒロインのことをどう思っているのか? 一人の女としてヒロインを愛しているのか? おそらく、それは今後の展開で掘り下げられることでしょう。自分を偽り、生活を激変させてまで尽くしているのですから、好きではないはずはありませんし。兄としてではなく主人公個人としてヒロインを愛するようになってしまい、自分の役割との間で苦悩する展開があったりしたら百合的にたいへんおいしいのですが。そこは今後に期待。
百合は感情が命なので、2巻以降は主人公→ヒロインの感情が掘り下げられることを期待します。今後の展開次第では百合度が☆4もしくは☆5になるポテンシャルを秘めた作品ですので。
まとめ
本作は現時点では、まだ恋愛百合ではありません。今後そうした展開になるのかも未知数です。ただ、正体を偽って少女に尽くすシチュエーションは、切なさと背徳感の入り混じった独特の味わいがあります。いわゆる「男が絡む系」ではないので安心して楽しめますしね。唯一無二の魅力がある、上質な百合作品です。
2巻以降も継続して読んでいく予定です。はてさて、楽しみ。
試し読みはこちらから。
偽りのマリィゴールド/コミックウォーカー
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