トリガーハッピー症候群《シンドローム》
血溜まりから拾った拳銃から、ボタボタと血が滴る。拭わぬままに、それを目の前の男に向ける。
「お前も撃ちたいのか? その男みたいに」
男は無表情に尋ねる。
私の傍らには、先ほどまで私の持っている銃を握っていた男が血だまりの真ん中に横たわっている。
「う、撃ちたかないさ。けど撃てって頭の中で声が響くんだ。アンタを撃って殺しちまえって」
私の声はガタガタと震えていて、みっともない。
「お前も感染したのか」
男は溜息を吐く。
「だっ、だったらどうなんだ?」
「今日死ぬ人数が一人増えただけだ」
言うが早いか、男はコートの内側からマグナムを取り出そうとした。
だが、私は既に銃を構えて、男に向けている。引き金を引けば、それだけで銃弾が男の胸を貫通して血を噴き出させるだろう。私の方が早い。
私は引き金を引いた。
ガキンッという鈍い金属音が響く。
弾かれた!
男は身じろぎもしなかった。
コートの内側からマグナム引き抜く動作を終え、私へと銃口を向けると、一言呟く。
「悪いな。俺は機械化人間《マシンド》なんだ」
銃口が明るく瞬く。
それを見たのが私の最期だった。
*
トリガーハッピー症候群。THSと略されるその病はこの街ができた頃にはもう存在したらしい。
それに感染すると人を撃ち殺したくてたまらなくなる。撃ち殺すと、体内で快楽物質が生成されて、それこそヤクをヤッたくらいには気持ち良くなるとかなんとか。
感染したら治す方法はなく、死ぬまで禁断症状が続くという。
なので基本、感染した人間は殺すのがこの街のルールだ。
殺しても、ちゃんと感染者であることを証明すれば罪には問われないし、なんなら報奨金が出る。そのくらいTHS患者は危険視されてる。
そのくせにこの街から銃が消えることはない。街が銃所持を自己防衛手段として容認してるからだ。
そんな街で感染者狩りと銃の回収を行う駆除業者が俺たち猟犬《ハウンド》だ。
【続く】