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ブルースの名盤 ハウリン・ウルフの「Moanin' in the Moonlight」

はじめてブルースに興味をもったのは高校生の頃。
映画が好きだった僕は、お気に入りのマーティン・スコセッシ監督が新たなプロジェクトを始動するというフライヤーを手にした。そこには「THE BLUES Movie Project」と書かれていて、ブルースを題材にした7本のドキュメンタリー映画がこれから公開されるという内容が記されていた。
監督はスコセッシ本人の他に、ヴィム・ヴェンダースやクリント・イーストウッドなど豪華な顔ぶれで、当時ブルースにそこまで興味のない自分にとってもそれだけで十分魅力的な内容だった。

実際のフライヤー

さっそく吉祥寺にあった映画館バウスシアターに、プロジェクトの一本である「Red, White & Blues/レッド、ホワイト&ブルース」(監督:マイク・フィギス)を観に行った。
館内は満員で、ぎりぎりチケットが買えた僕は、席と席の間の通路に座らされ、そこで体育座りのような格好で映画を鑑賞した。スクリーンに映るジェフ・ベックやヴァン・モリソン、エリック・クラプトンがブルースを語り、ブルースを演奏していく。お尻が痛いのも忘れて僕は画面に釘付けで、あっという間にブルースの虜となり、その日から足繁く、ブルースの音源を求めてCD屋さんに通うこととなった。

この時期、おそらく2003年頃は、タワレコに行くとブルースの特集が組まれていて、かつてのブルースの名門レーベルからの再発や初CD化のような音源がたくさん並べられ、ブルースの名盤を紹介するタワーレコード独自のフリーペーパーが配られていた。僕はとにかくそのガイドを参考にブルースを買い漁った。

そのなかの一つにあったのが、ハウリン・ウルフの「Moanin’ In The Moonlight」(1959)だ。

写真は「Moanin’ In The Moonlight」と2ndの「Howlin' Wolf」(1962)が一緒になった2in1のCD

1950年代にリリースしたシングルが収められた作品で、ウルフが50歳を前にして発売された初のアルバム。

はじめて聴いた時、とにかくその声の個性、圧力、名前の通り狼の咆哮のような唸りに驚かされた。
190センチ100キロを超える巨躯から繰り出される低く歪んだダミ声は唯一無二で、ファズが効いたギター、奏でられるハーモニカと一緒にスピーカーから流れてくると、思わずアンプのつまみを捻り違えたのかと勘違いするような波打つサウンドだった。

まず表題曲である「Moanin’ In The Moonlight」。
低音と高音を縦横無尽に動き回る唸り声がイントロから流れると、ハーモニカとギターのリフが絡み合い、絶妙のタイミングでウルフが歌い出す。
「moanin’」とは「呻く」という意味だが、これほど巨大でパワフルな呻き声があるのだろうか。

続いて流れる「How Many More Years」はアイク・ターナーの鍵盤から始まる楽曲で、後のロックンロールに通ずるようなフレーズやその原型が散りばめられている。実際この曲がシングルとして発表された1951年には、同じくアイク・ターナーとジャッキー・ブレンストンがリリースした「Rocket 88」という曲があり、この曲はしばしばロックンロールの元祖の一つとして語られている。

「Smokestack Lightnin’」はヤードバーズやグレイトフル・デッドもカバーしているブルースのクラシックだ。
こういった場合スキャットと表現するのが正しいのかわからないが、歌詞を歌う以外の部分が凄まじい。時に地鳴りのように響き渡り、かと思えば狼の遠吠えのように美しく、声の振り幅がそのまま聴く者の心を揺さぶっていく。繰り返されるギターフレーズを決して単調に思わせず、声の力が終始支配しているような恐ろしい楽曲だ。

その他にもハーモニカとギターが互いに追いかけ回し、要所で手を繋ぎ踊るような掛け合いを見せる「All Night Boogie (All Night Long)」や、数々のブルースの名曲を提供し、ブルース界に大きな功績を残したウィリー・ディクソン作の「Evil」など、全編に渡ってハウリン・ウルフらしさが満載のアルバムになっており、彼の個性が、圧倒的な声の力が、巧みなハーモニカやバックの演奏が存分に味わえるブルースの名盤となっている。
まだ聴いたことのない方はぜひ一度彼の声を聴いてみてほしい。

2003年頃、おそらくタワレコで売っていたワンコインのCD(新品で¥500)

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