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【短編小説】ひとり言

 うだるような暑さの中、私は部屋のベッドの上に腰かけている。なぜ、日本の夏は暑いだけでなく湿度まで高いのか…。そんなこと、考えていてもどうにもならないのはわかっているが、考えずにはいられない。
 この部屋は私のものではなく、中学生の女の子、あやちゃんの部屋である。姉妹ではないので、置いてもらっているというのが正しい。代わりにという訳ではないが、私はあやちゃんの話し相手をよくしている。彼女が言うには、私は癒しらしい。

 トットットッ
 階段の音がする。噂をすれば…とは良く言ったものだがあやちゃんが帰ってきたらしい。ちょうど時間も6時ぐらい。普段よりはちょっと遅いかもしれない。
「ただいま~」
『おかえり』
「うわっ、この部屋あっついね…。クーちゃんエアコン付けといてくれたら良かったのに」
『そんなこと言われても…』
 置いてもらっている私が勝手にそういうのを触るのはやはり問題がある。あと、申し遅れたが私は彼女にクーちゃんと呼ばれている。もちろん、命名は彼女だ。

 エアコンを付けてから、あやちゃんは私の座っているベッドに飛び込んだ。反動で私もちょっと跳ねる。いつか頭とか足とかを打ちそうで危ないとは思っているが、本人が好きでやっているので思うだけにとどめている。
「あやがいなくて寂しかったでしょ、クーちゃん」
『別にそんなことはないよ』
「うんうん、やっぱり寂しかったんだね~」
 そういいながら彼女はニコニコして私の頭を撫でる。時々、いや、しょっちゅう彼女とは話が合わない。今回は確かにちょっと気を張った返事をしたことにはしたが。

「あや、そろそろご飯にするから来なさいね」
「はーい」
 扉越しでリビングの方からあやちゃんのお母さんの声がした。
「今日の晩ごはん何だろうなぁ」
『お母さんの料理だからきっと美味しいよ』
「昨日はあやの嫌いなにんじんが入ったスープがあったんだよね…。」
『あやちゃん、にんじん嫌いなんだ。私は好きだけどな』
「だからその分、今日は好きなのがあると良いなぁ。よし!そう願ってそろそろ行かなきゃ。」
『そうだね。行ってらっしゃい』
「そういえばクーちゃんは、にんじん好きそうだよね。うさぎだし。」

 再度申し遅れたが、私は黒いうさぎのぬいぐるみである。

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