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【短編小説】優しい神様

「この世界で一番優しい神様は誰か知ってる?」
 幼き日の私におばあ様はそう尋ねた。
「えー、わからない……」
「ふふ、そうかい。おばばはね、神様の中で一番優しいのは死神だと思っているんだよ」
 そう言われた時の衝撃は今でも忘れられない。いくら私が子供でも、死が得体のしれない怖いもので、忌むべきものであることはわかっていたつもりだった。その死を運んでくる死神が優しいなんて。
「この世にはいろんな人間がいる。善人に悪人、普通に生活している人もいれば、幸せに恵まれた人、そして神に見放されたと言えるほどに不幸な人もいる。そんな私たち全員に本当の意味で平等に死神は訪れるんだよ。そんなに優しい話、他にないじゃないか」

 幸せでも不幸せでも、それまで生きてきた人生はどんな物語よりも面白く、濃厚なものだ。それを迎えに来てくれた死神に話すことがこの人生の最後の目標であり楽しみだとおばあ様は言っていた。
 幸せは自慢話として、不幸せは愚痴として、たくさんのお話をして『おばばの物語』を完成させるんだって。

 そんなおばあ様も今年で368歳だそうだ。未だに若々しくいろんなことに手を出しながら、この世にはまだまだ面白いことがたくさんあって、まだまだ死神に話したいことが増えると言って喜んでいる。
 私もだいぶ年を取ったが、おばあ様の話してくれた死神は本当に平等なのか不安になってきた。

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